Let’s consider cultural synergy by delegating the responsibility
権限を移譲して「異文化力」を高めよう
権限委譲という言葉がありますが、実は日本企業はそれがあまり得意ではありません。
ある日系の自動車会社でのことです。この会社は海外に支社をつくり、海外に技術移転をしていこうと試みて既に20年以上が経過しています。でも、未だに現地の人材への権限委譲ができないまま、日本人駐在員の不満も解消されていません。
そんな企業の心臓部にあたる R&D、すなわちリサーチ&ディベロップメントに長年勤務していた日本人幹部長谷川さん (仮名) を訪ねてみました。
「私はアメリカの工場の研究部門に長くいたんです。確かに、未だに現地に完全な権限委譲ができずに困っています。なかなかこれと思う人材が育たないんですよ」
長谷川さんは、アメリカに8年駐在し、その後もアジア等で工場の立ち上げなどに関わってきました。そして今、再び新たなアサイメントのために海を渡ります。
権限委譲することを、英語で delegate responsibility といいますが、長谷川さんは、それが上手くいかないために、人が長続きしないという弊害も起きているといいます。
「日本人は、detail oriented、すなわち詳細にこだわり、物事に完璧さ perfection を要求しますね。そのレベルに応えてくれる人が極めて少ないんです」
「では、彼らは何にこだわるんでしょう」
逆に私はきいてみました。
「発想することでしょうか。彼らはなかなか斬新なアイディアを持ってきて、売り込もうとする。まだ初年兵ともいえる新人ですら。でも、それを裏付ける基礎がなかなか見えてこないんですよ」
長谷川さんのいうように、日本の人事政策は、基礎から積み上げて何にでも対応できる人材を育てようとします。でも、これが企業をグローバルに展開させてゆく上では足かせとなってしまうのです。
「おそらく、日本人は、人がアイディアを持ってきたとき、それをどのように活かすかということではなく、そのアイディアがどれだけしっかりとした土台の上にあるか検証しようとするんですよね」
「そうなんです。アメリカの工場でもそうでした。過去に使用された形跡とか、その時のデータとか、または誰がそうしたアイディアや商品をサポートしているかといった検証にこだわりますね」
Synergy という言葉があるように、ビジネスでも cultural synergy を考える必要があります。そもそも synergy とは、お互いの強いところをピックアップし、混ぜることによってより強い結果をだしてゆくというものです。これを文化の違う人同士で高め合うとき、cultural synergy という言葉を使うのです。
「だから、アイディアをどのように検証するかではなく、それをどう活かすかを考えれば、彼らもモチベーションが向上し、より真剣に取り組んでくれると思いますよ。若者特有の、またはアメリカ人ならではの発想と、あなたの熟練された経験とアプローチを合わせ、そこから Synergy を造るのです。これができれば、現地の組織も活性化してゆくはずです」
「強いところを活かし合うというわけですか」
「そう。しかもその過程で、できるだけ、上司としてよりも、mentor としてあなたは彼らに接し、彼らの autonomy を尊重するんです」
Mentor とはより経験を積んだ先輩であり、指導者という意味です。権限を持つ上司とは異なったアングルからのアプローチになります。
そして autonomy とは、autonomy of the individual、つまり個人の自主性を意味する言葉です。その人がモチベーションをもって自主的に向上してゆく環境を造らない限り、いつでも日本人の上司が本部から rotational stuff (回転するように次から次へと送られてくる人材)として派遣され、現地の組織の幹部となる、いわゆる glass ceiling (現地の人が幹部になれない、組織上のガラスの屋根のこと) は解消されません。海外の人は、日本企業の場合、それを rice paper ceiling (和紙の屋根) と言っているのです。
これが、日本企業が現地に進出する上で、更にはグローバルな競争力を育てる上で、最も考え、蓄積しなければならないノウハウなのです。
一日かけてじっくりと話を伺ったあと、長谷川さんは 11月中旬に、ブラジルでの工場の立ち上げのため、旅だってゆきました。