【海外ニュース】
Christianity has been destroyed by politics, priests, and get-rich evangelists. Ignore them, writes Andrew Sullivan, and embrace Him.(Newsweek より)
キリスト教は政治家や聖職者そして金をもった伝道師によって破壊されている。そんなものについてゆくな。アンドリュー・サリバンはそう書いて神を称える。
【ニュース解説】
イギリス生まれで、84年からアメリカに移住し、ワシントンDCでコラムニストとして活躍するアンドリュー・サリバン氏が、最近メディアで今日のキリスト教のありかたを、こきおろして話題になっています。
大統領選挙など、アメリカ社会をみていくうえで、政治とキリスト教との関係は注視しなければなりません。特に、バイブルベルト地帯 Bible Belt と呼ばれるアメリカ中西部は、プロテスタント系の移民の子孫の多くが、今なお敬虔な信者として生活している地域で、ここの世論の行方は、特に保守的な政治動向に大きな影響を与えます。
ところで、今回話題になったサリバン氏は、アイルランド系の血を引く、カトリックの信者です。イギリスの大学を卒業し、アメリカ移住後にハーバード大学で博士号を取得した秀才で、政治的スタンスは保守より。自由経済と小さな政府を表明する新自由主義 Neoliberalism を論旨とするアメリカの保守系政治雑誌、「ニューリパブリック」New Republic の編集員をしたこともある人です。
しかし、彼の経歴を面白くしているのは、サリバン氏がカトリックの信者で、しかもゲイであるのみならず、HIV ポジティブであるという点にあります。アメリカの移民法は、エイズの保菌者への永住権の付与を長年拒否していました。そのため、彼は、その優秀な経歴にもかかわらず、最近 HIV に関する規制がとかれるまで、アメリカでの永住を認められていなかったのです。
そんな、サリバン氏は、アーロン・トーン Aaron Tone 氏を「夫」husband にして、2007年にロードアイランド州で同性結婚をしています。同性愛の結婚は、ローマカトリックの公式見解では、認められていないのですが。
保守的なプロテスタント社会が支持基盤の共和党を支持するサリバン氏の経歴をみると、現在のアメリカの政治の複雑な背景がみえてきます。
彼は、イラク戦争がはじまったときはブッシュ政権を支持。イラク戦争にも賛成でした。しかし、戦争中にイラク人兵士への拷問の事実などが発覚すると、戦争継続に反対。その後、イラク戦争へのアメリカのスタンスは誤りだったことも認めます。そして、前回の選挙では民主党オバマ大統領に投票したのです。
このような保守派としての彼の動きは、例外ではありませんでした。多くの共和党支持者が前回の選挙では、オバマ大統領を支持したのです。
サリバン氏のブログ The Daily Dish には、毎月30万人のビジターがあります。今回ニューズウィークなどにおいて、キリスト教がいかに政治家に悪用され、本来の純粋な愛を説くキリスト教とかけ離れてきているかという論旨を彼が展開し始めると、そのユニークな経歴と相まって、さらに注目を集めているというわけです。
極めて保守的な層を除く共和党支持者が、今回どのような投票行動にでるかは、未知数です。しかし、共和党と民主党の対立項だけで、保守、革新と色分けできにくくなってきていることが、現在のアメリカ政治の複雑さなのです。
ところで、この見出しの最後に embrace Him という表現がありますが、ここで him の h を大文字で表記しています。つまり Him とか He と書けば、それはキリストを示すことになるのです。
肥大化し、政治的にも影響力のある現在のカトリックやプロテスタントのあり方を批判する彼の考え方は、皮肉にも16世紀にヨーロッパで始まった宗教改革 the Reformation を思い出します。また、19世紀にプロテスタント宗派の対立に失望し、ジョセフ・スミス Joseph Smith が、新大陸に独自のキリスト教の宗派として開いた末日聖徒キリスト教会 (モルモン教) のことも思い出されます。共和党の有力候補ミット・ロムニー Mitt Romney がモルモン教徒であることは周知の事実ですが。
4月は、復活祭 Easter とユダヤ人の祭典である過越祭 Passover が同時にあり、アメリカでは宗教に関する話題が多くなります。サリバン氏のコメントもそうした時期であれば、尚更メディアで大きく特集されているのです。