海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

不死身のメディア王の貪欲な食欲


【海外ニュース】

Rupert Murdoch says Los Angeles Times purchase not a sure thing
(Los Angeles Timesより)

ルパート・マードックいわく、
ロサンゼルス・タイムズの買収については明言できないと

【ニュース解説】

このルパート・マードックという男、それほど背は高くない。付き人に囲まれて現れる様子は、ちょっとイタリアン・マフィアのドンのような風采だが、男はイギリスとスコットランド、そしてアイルランド系を祖先にもつ、オーストラリア人。
といっても、1986年にはアメリカに帰化。その頃には既にオーストラリアからイギリス、そしてアメリカで数多くの新聞社、出版社、放送局などを買収し、メディア王の威名で知られていた。

ニューヨークはマンハッタンの真ん中にあるロックフェラーセンター。
そこは元々石油王ジョン・ロックフェラーの5男であったジョン・D・ロックフェラー・ジュニアが大恐慌の後にコロンビア大学の土地を買収し、建設した世界初で最大級のオフィスビル街であり、アメリカのメディアビジネスの中心地。
その中に 1211 Avenue of the Americas という住所の、セラーズビルと呼ばれた6番街に面した高層ビルがある。
男と家族が最大株主で、傘下に買収したメディア企業がつらなるニューズ・コーポレーションはそこに本拠をおく。男は躊躇なく、自らの子供達にも買収した会社を経営させている。

男の結婚歴は3度。そのうち二度目の結婚相手は、彼の所有するシドニーの新聞社に勤務していた当時23歳のアンナ・トルフ。エストニア出身の美女である。

そして現在のお相手はダン・ウエンディという中国系の女性。1999年の再婚当時、彼は68歳、ウエンディは30歳だった。二度の離婚とも、その直後にうら若き女性と再婚。打ち合わせたような電撃離婚と再婚だった。
ところで、二度目の結婚の直後、彼の所有する会社の重役の妻が、カリブのトリニダードドバコ出身のホセイン兄弟に誘拐され殺害されるという事件がおきた。兄弟は男の妻アンナを誘拐して身代金をと思ったが、愚かにも間違えて、その女性を誘拐したということだった。1969年のことである。

その後、ライバルであったもう一人のメディア王ロバート・マックスウエルを相手にイギリスなどで買収合戦を行ったが、マックスウエルは、1991年に西アフリカのカナリア諸島で豪華なヨットの側で海に浮かんだまま死亡。当時その死を巡っていろいろと噂も流れたが、その後は正に男の帝国はライバルなしにメディア界を牛耳っていった。

今、男の創立したニューズ・コーポレーションが所有する新聞社やテレビ局などの中には、CNN に対抗したケーブル TV ネットワークで知られる Fox News Channel や映画界の大手 Twenty Century Fox、ロンドンの有力紙 The Times、ニューヨークの大衆紙 New York Post、そして世界での指折りの出版社 HarperCollins、世界的経済紙 Wall Street Journal などが含まれる。
新聞でいうならば、高級紙から大衆紙まで所有し、イギリスの大衆紙 Sun などで顰蹙 (ひんしゅく) をかうほどのセンセーショナルな見出しをもって逆に売り上げを伸ばしたりもした。
その男は、父親から引き継いだ、オーストラリアのアデレードにある地方新聞社の経営からキャリアをはじめ、ひたすら買収を続け肥大化し、今や世界に並ぶものはいない。そして、買収の多くは相互の脈絡もなく、男の狙いがどこにあるのかはわからない。

政治的スタンスは、元々革新系だったものの、今ではどちらかわからず、時には極めて保守的な政治家を支持。一方で一昨年から去年にかけては、男の傘下の News of the World 紙がイギリスの王室や政府の要人までを含む有名人のプライベートな電話を盗聴していたことが発覚し、イギリスとアメリカ双方で刑事事件に発展。その結果、News of the World 紙は廃刊に追い込まれるという事件がおきる。
男本人が深く関わっていたのではという疑念もあり、彼の脈絡のない買収行為と左右にぶれる政治的スタンスをみるに、そこにメディア買収を通したアナーキズムをみる人もいるほどだ。

スキャンダルのあと、ニューズ・コーポレーションは男のイニシアチブで2つに分離。分社された一社が、今アメリカ西海岸の老舗新聞社ロサンゼルス・タイムズの買収を手がけようとしていると同紙が報道したのである。
オーストラリア、イギリス、そしてアメリカの政界、財界にも強いパイプを持つこのメディア王ルパート・マードック Rupert Murdoch は、1931年生まれであるから、今年81歳になる。

華やかでしたたか、そして変化自在、陰のフィクサーであり、同時に雄弁で買収したメディアの個性を伸ばし、成長させる手腕にも長けている。またアメリカでメディア業界を監視する FCC とうまく渡り合いながら買収を進める政治的手腕も備えている。世界をまたにかけた英語メディアのドンの目は、今どこに向いているのか。

Now that Rupert Murdoch is spinning off News Corp.’s publishing properties into a separate company, media observers have identified the Los Angeles Times as a likely target for acquisition.
ルパート・マードックがニューズ・コーポレーションを分離し、出版関連を取り扱う会社として分社した今、メディア筋によるとロサンゼルス・タイムズがその会社の買収標的になっているかもしれない —— Los Angeles Times

Spin off とは会社などを分離すること。盗聴スキャンダルに厳しく叩かれても、マードックは不死身のようである。

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