「世界の心の交差点で」〜コミュニケーションと誤解の背景〜

日本人の「謝る癖」に一言


先週、ある大手企業の事業部長と話をしました。
その人、来週からアメリカに出張だそうで、そこで新製品についてのプレゼンテーションをしなければならないんです。
そこでこんなやりとりがありました。

部長
「日本人が謝るくせがありすぎて、国際社会で誤解を与えるっていうけど、スピーチをするとき、本当に英語が下手なことをまずお詫びしてから話をはじめなくていいんですかね」

彼は、英語の指導を受けたとき、コーチからこのようにいわれたことが、すっきりと飲み込めません。

この質問に私は次のように答えました。

「全く必要なしって言い切っても過言ではないですよ」

そこから私とのやりとりがはじまります。

「でもね、英語がうまくないと、相手は聞き取るとき苦労するし、迷惑をかけるでしょ。そんな不便をかけることに対して、お詫びするのって当然のマナーじゃないかって思うんだけど」

「そうですよね。日本人の感覚ではその通りですよね。でもやはりお詫びはしない方がいいですよ。相手はあなたの英語を聴きにくるのではなく、あなたの話す内容に興味をもって打ち合わせに参加するんですから」

「じゃあ、相手が私の喋っていることを理解できなくてもいいんでしょうか」

「理解してもらうように、パワーポイントなどで図面や要点を記した英文を用意することは大切ですよね。それさえあれば、大丈夫ですよ。それでも理解できなければ、相手が質問してきますから」

「そうですか。なんかしっくりしないなあ。最初に謝っておけば、英語へのハンディキャップがあるという心の重荷がとれるんですがね」

「いえね。まず冒頭からお詫びをいわれると、向こうのビジネス文化では、あなたは自信のない人だなって誤解されかねません。むしろ、堂々と Listen to me carefully! と言ってやるぞというぐらいの気概で話したほうがいいんですよ」

その部長さん、目をまるくして。

「Listen to me carefully! ですか。なんと厚かましい」

「そう、日本人からみれば厚かましく思えるぐらい堂々と話をすればいいんです。あなたの人柄がにじみ出るように、個性をだして。もし、あなたが静かな性格なら、ゆっくりとした英語で構いませんから誠意をもって。逆に、もし社交的で積極的な性格なら、思いつく単語を駆使して、どんどんリードすればいいだけなのです」

「なるほど」

「日本人は、最初にお詫びをするものだから、聞き手は戸惑ってしまう。この人のスピーチ、大丈夫なのかって危惧されてしまう。考えてみてください。世界中に民族の数だけアクセントはあるんだから。Japanese English だって、負い目に感じることはないんです」

「でも相手が私の英語を理解できなければどうするんですか」

そこで私は、英語での「聞き手」とは何かというテーマについて解説しました。

「英語の世界では、聞き手こそが努力して、自らが知りたい情報を積極的に獲得しなければならないという常識があるんです。話し手の言っていることがわからなければ、その場で質問したり、コメントしたりして、誤解なく情報をとろうと彼らはしてきますよ。ですから、彼らにとって大切なことなら、理解できるまで、相手は質問してくるはずです。最初から完璧なスピーチにこだわって、神経質になることはないんです。聞き手と一緒に情報を共有してゆくよう、ボールのやりとりをしてゆくべきです」

「私が完璧にスピーチをしなければならないと、過剰に意識する必要はないということですか」

「そう。カジュアルでインターラクティブなセッションができればしめたもの。もし、あなたのスピーチの最中に質問を受けるのがいやなら、途中途中の区切りのいいところで、質疑応答の時間を設けるからと最初にいえばいいんです。自分からどんどん司会者のようにその場をリードしていってください。そして適切なところで、Do you have any questions? とすれば、相手は必ず手をあげてきますよ」

「フーム」

「ですから、ともかく謝ることはありません。にこやかに、聴衆の方をちゃんと見て、背筋を伸ばしながらもカジュアルにリラックスしてスピーチをすればいいんです。日本だと、スピーカーこそが、できるだけ完璧な情報を相手に伝えなければならないと、多くの人が思っていますよね。でも、向こうの人はそれほど強くそうしたことを期待はしていません。むしろ、質疑応答を通して、あなたのアイディアやスピーチの内容をより高レベルなものに引き上げてゆこうという意識の方が強いはずです」

「質疑応答を通してですか」

「私の言いたいことは、スピーチの内容と、話し手の心とをできるだけ、切り離し、その内容をテーブルの上にちゃんと置くような気持ちになって欲しいのです。その内容を、聞き手と一緒に話し合いを通してアップグレイドしてゆくよう、コーディネートできればしめたものなんです」

こんな会話で約1時間が経過しました。日本人にとって、英語でのスピーチは確かに大変ですね。でも、向こうでのビジネス文化に従って、聞き手と協力し合ってスピーチを進めてゆくというスタンスをもてば、そんな重荷も多少は軽減できるのではないでしょうか。
部長さん、今週が出張だなあ。頑張ってください。決して冒頭にお詫びをしないでね。

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