海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

拡散の時代へのサバイバル術とは


【海外ニュース】

The U.S. energy production has boomed with the technological revolution of hydraulic fracturing, known as fracking. The nation surpassed Russia in 2009 as the largest producer of natural gas and is expected to zip past Saudi Arabia next year to become the largest oil producer in the world.
(LA Times より)

アメリカのエネルギー生産力がフラッキングと呼ばれる水力破砕技術の進化で急成長を。2009年にはロシアを凌駕し、天然ガスの製造において世界最大となり、さらに来年にはサウジアラビアを押さえ込んで、世界最大の石油生産国に変貌する見込み

【ニュース解説】

今回は、最近のウクライナ情勢などの世界的な動向を、エネルギーという視点から観察してみます。
このロサンゼルスタイムズに掲載されたニュースは、あまり日本では報道されていません。しかし、これは極めて重要な情報です。世界のエネルギー需給のバランスが変化しようとしているからです。
例えば、OPEC (石油輸出国機構) が 1960年に結成されたとも、日本のメディアの報道は極めて小さいものでした。その 13年後、原油生産国から石油供給の引き締めが原因で、深刻なオイルショックがおきたとき、OPEC の存在が本格的にクローズアップされたのです。

中東情勢、さらに今回のウクライナ情勢の背景にあるエネルギー供給の問題を考えるとき、ここで報道された技術の進化が近未来にどのような影響を与えるのか、国際的視野で、その変化への準備をしておく必要があることを、どれだけの人が考えているでしょうか。
ロシアからの天然ガスのパイプラインの供給の安定化、そして中東からの石油供給ラインの確保は、日本を含む多くの国々の世界戦略と深く関わる問題です。
エネルギーの巨大な消費地としての、西側各国への供給ラインは、今回のウクライナ情勢でも取り沙汰されたように、常に国際紛争というリスクに晒されてきたのです。もちろんアメリカも例外ではありませんでした。

戦後、アメリカが世界の GDP の半分を牛耳っていた時代は、消費そのものもアメリカを中心に動いていました。言い換えれば、アメリカは世界最大のエネルギー消費国として君臨していたのです。
そのことが、アメリカが世界に覇権を維持しなければならなかった理由の一つであったことも理解しなければなりません。この記事から見えることは、そんな状況が今後変わるかもしれないということです。

ソ連が崩壊し、アメリカの影響力すら低下しつつある現在は、それぞれの国が利益のために動き出している、特定の求心力を喪失した過渡期であるといっても差し支えありません。それは極東の政治情勢にも大きな影響を与えつつあることはいうまでもありません。

そして、この記事のように、アメリカが今やエネルギーの自給自足へと、さらには輸入国から輸出国へと変貌しようとするとき、アメリカ自体が自らの海外への影響力を顧みず、今後より一層内向き指向に徹してくる可能性がでてきたのです。
アメリカの中には、伝統的に孤立主義を求める動きがあることを忘れてはなりません。従って、アメリカでエネルギーの自給自足が可能になったとき、アメリカの世界へのプレゼンスが、アメリカ内部の要望によってさらに縮小することがありうるのです。アメリカが外に出る理由を失い、内向きになることは、そのまま日本の安全保障や経済的な立ち位置に大きな影響を与えます。

Five years ago, the idea of exporting U.S. gas and oil was unheard.(5年前まで、アメリカのガスや石油を輸出することなど、考えられないことでした)と同紙は解説し、いかに価格などの課題も含め、海外からのエネルギー供給の状況の変化にアメリカが戦々恐々としていたかを改めて振り返っています。この課題が解決した時、アメリカの現在の世界戦略が空回りになり、意味をなさなくなるかもしれないのです。ウクライナ問題に対し、政府のスタンスとは裏腹に、アメリカの民意が今ひとつ冷めているのも、そうした背景と無縁ではないでしょう。

Decentralization という言葉を覚えておきましょう。
これは分散、あるいは拡散を意味する言葉です。この言葉こそ、現在の世界情勢の傾向を一言であらわしています。
今後、ただアメリカという一つのベクトルを判断材料とするのではなく、ウクライナ問題での世界の動向、日本と周辺国との関係、そしてアメリカとの関係など、多方向のベクトルをうまく操れない国は、国際政治で「お人好し」の Loser (負け犬) になってしまいます。

忘れてはならないのは、Decentralization は、政治のみならず、経済活動にもおきているということです。そして、この傾向が加速し極めて短期間に世界のパワーバランスに影響を与えつつあることが、今回のウクライナ問題などで明らかになってきているのです。
同紙が解説するように、5年間で世界が大きく変化することを、我々は常に意識しておかなければならない時代に突入しているのです。

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