海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

東日本大震災でのお粗末な海外対応は是正されずに


【海外ニュース】

Fukushima keeps fighting radioactive tide 5 years after disaster.
(New York Times より)

福島はあの災いから5年、今も放射能の波とたたかい続ける。

【ニュース解説】

東日本大震災から5年経った今、CNNやニューヨークタイムズなどでも、福島の現状などをテーマに様々な視点から報道がありました。
あの惨事の時に海外がそれをどのように捉えたか、この機会に振り返ってみたいと思います。

まず、日本の玄関である成田空港の思い出を振り返ります。あのとき、私は丁度サンフランシスコ便に搭乗するために、成田空港でチェックインを済ませたところでした。
今までに経験したことのないような揺れが長く続き、空港内は騒然としていました。すでに何度か記事にしたように、その後2時間も、何がおきてどのようになっているのか、空港内での英語でのアナウンスは皆無でした。空港にいた外国人は情報をとれないまま、人々の動きにただ従って、寒々とした屋外に退避させられました。

一晩、成田で明かしたあと、便がキャンセルとなったために、翌朝都内に戻りました。たった一本だけ動いていた電車の駅や車内でも、外国人への情報提供はありませんでした。それは都内でも同じだったと、私のアメリカ人の友人は語っています。この国では何か異変がおきたときは、自分でなんとかしないと何も情報をもらえないと。

2日して、やっとサンフランシスコ便に搭乗でき、海を渡りました。そのとき、成田空港の出発ロビーになぜかドイツの救助隊の人々が、ドイツに戻る便への搭乗を待っていました。2日間しかたっていず、津波の被災地はまだ厳しい状態に置かれていました。それなのになぜ帰国かと聞いたところ、よくわけはわからないが、日本側の受け入れ態勢ができていないので救助チームに加われなかったということ。たとえ言葉が通じなくても、あらゆる人の救援が必要な時のことでした。

そして、サンフランシスコについて初めて福島の深刻さを報道で知りました。アメリカの報道期間が原発の惨事を津波以上の深刻さで報道します。日本政府へのインタビューも、その中に含まれていました。
人体への影響はなく心配ないと政府関係者は語っていました。さらに英語で応対した官僚は、要領をえない回りくどい表現で、「火消し」を行っていました。しかし、そうした政府の対応が、逆に海外のマスコミの疑念を深めます。その結果、日本全国が放射能に汚染されているかのような印象を世界の人が持ちました。海外の航空会社は日本への乗り入れを中断し、食品の輸出も打撃を受け、多数の日本に住む外国企業の駐在員に帰国命令がでました。
海外のメディアへの後手でおそまつな対応は、危機管理に全く無力な日本の状況を露呈させました。
実際、アメリカのメディアの方が、日本国内での報道より、はるかに深刻に福島の事態を捉え、報道していたことを実感したのは私だけではないはずです。

先進国といわれる世界の国々では、惨事がおきれば、まず指導者が国内と世界に向けてスピーチをします。アメリカならば大統領が、イギリスならば首相がリーダーシップをとって、世界に状況を伝え、グローバルなコミュニティがそれに対応するよう働きかけます。震災直後に首相は日本語で簡単なスピーチをしましたが、海外でみられるような、世界に向けた対応は皆無でした。英語の問題ではありません。必要なら通訳を通してもいいのです。顔がみえず、リーダーシップがとれない日本の状況に、きっと彼らは何か隠しているぞと、緊迫する福島の映像を流しながら、海外の人は思っていたはずです。確かに海外の多くのニュースキャスターは、そうしたスタンスをもって、日本の閉鎖性に挑んでいました。丁度、情報統制をする中国に疑念を抱くように、彼らは日本の政府、東電といった「当局」に不信感を抱いていました。

あれから5年。一週間前に羽田で飛行機に搭乗しようと待っていたときのことです。機材のやりくりの関係で、搭乗する飛行機の出発が大きく遅れることになりました。その出発ロビーでも、飛行機に搭乗してからも、英語での的確な情報提供はありませんでした。
震災から5年。その教訓を生かして防災をと、日本は国をあげてそういいます。しかし、こうした海外や外国人への情報提供の課題は放置されたままのようです。そのことから想定される日本の不利益にほとんどの人が鈍感なままのようです。日本でなにかおきたとき、正確な情報が海外と共有できないリスクは計り知れないものがあるはずです。

今でも日本産の食材への懸念を指摘する外国人は多くいます。それをきいて、「なんでそこまで。偏見じゃないか」と憤る前に、一体どのような対応を日本側がしてきたのか、ちゃんと検証する必要があります。一瞬にして世界に情報が広がる現代。その情報が正しかろうと誤っていようが、広がった情報はどんどん一人歩きしてゆきます。

おもてなしの国日本のおそまつな外国人への「おもてなし」の現実を、東日本大震災はくしくも露呈してしまったのです。

山久瀬洋二・画

「祈り、そして鎮魂」山久瀬洋二・画

「祈り、そして鎮魂」山久瀬洋二・画

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