海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

メキシコとアメリカとの複雑な過去を見直せば


The Treaty of Guadalupe Hidalgo, is the peace treaty signed on February 2, 1848, in the Villa de Guadalupe Hidalgo (now a neighborhood of Mexico City) between the United States and Mexico that ended the Mexican–American War (1846–48).
(ウィキペディアより)

ガダルーペ・イダルゴ協定は、1848年2月2日に、メキシコシティの近郊の村ガダルーペ・イダルゴで、アメリアとメキシコとが調印した、両国の戦争を終結させた条約である

【解説】

出張でメキシコに来ています。いうまでもなく、メキシコはアメリカの隣国ですが、この国に一歩はいると英語がなかなか通じません。20年以上前に、はじめてメキシコにやってきたとき、それがなぜなのか理解に苦しんだことを覚えています。
アメリカには毎年膨大な数の移民がメキシコから流入し、不法就労者となっています。そのことが政治問題化し、今回の大統領選挙ではドナルド・トランプがメキシコとの間に壁を造れと演説し、話題になりました。
このように豊かなアメリカへと、メキシコから人が流れているにもかかわらず、メキシコ国内では英語が通じないのはどうしてでしょうか。

この問いに答えるためには、新大陸の歴史を紐どいてみる必要があります。
実現在のアメリカ合衆国にヨーロッパから人々が移住する100年以上前から、中南米はスペインによって植民地化されていたことを思い出さなければなりません。特にメキシコはスペインの植民地戦略の中で、先住民インディオの文明が消滅し、彼らが鉱山の採掘などで過酷な収奪に見舞われた歴史がありました。

ヌエバ・エスパーニャという言葉があります。
これは16世紀から19世紀まで、スペインが海外に持っていた領土を指す言葉です。先住民はスペインの支配を受け入れる中でスペイン語を話すようになり、宗教もキリスト教へと改宗してゆきます。
当時スペインはメキシコのみならず、テキサス州やニューメキシコ州までを自領として支配したのです。現在のニューメキシコ州の州都はサンタフェという街ですが、ここは1848年にメキシコとの戦争でアメリカ合衆国に併合される以前は、スペインの北米、そして中米支配の拠点だったのです。冒頭に英文で紹介したガダルーペ・イダルゴ条約は、アメリカとメキシコとの戦争に終止符を打ち、現在のアメリカ合衆国の国境が確定したときの条約なのです。

一方、イギリスからのアメリカへの移住がはじまったのは、有名なメイフラワー号による清教徒の移住で知られるように、17世紀になってからのことで、彼らはアメリカの北東部を拠点に、少しずつ新天地を開梱していったのです。
当時の新興国イギリスは、新大陸とヨーロッパで、海上の覇権をめぐりスペインと激しく争っていたとはいえ、植民地経営ということを考えれば、新大陸の多くはすでにスペインの傘下にあったのです。

メキシコでは、スペイン系の人々と現地の人々の混血も進み、スペイン語を話す新しい民族が形成されていました。
アメリカでは1776年に独立戦争が勃発しますが、メキシコでは 1811年にクリオーリョと呼ばれる新大陸生まれの白人系の人々などが主体となってスペインに対して立ち上がり、その後20年にわたる独立戦争をおこしています。

このように、メキシコにはアメリカ合衆国よりも古く根深い歴史があり、それは一歩メキシコの中に入れば今も変わらず脈々と受け継がれているのです。それはスペインの文化と現地の人々の風俗とが渾然一体となった独自の文化環境であるともいえましょう。スペイン語が中心のメキシコで英語が通じない理由もうっすらと理解できるというものです。

最後に、以前にも解説しましたが、スペインの影響を強く受けたメキシコの人々の多くはカトリックを信仰しています。アメリカはいうまでもなく、プロテスタントの人々が主流となって国を開きました。この両者が新大陸で初めて接点を持ったのがテキサス州であり、ニューメキシコの大地だったのです。
その後、北から南下してきたプロテスタント系の人々の入植がさらに進んだことが、テキサス州やニューメキシコ州がアメリカ合州国の一部となった原因でした。

皮肉なことに、元々メキシコ領だったところに、メキシコから不法移民が流れ込んでいることが、現在のアメリカとメキシコとの摩擦の原因となっていることが、これでおわかりになったかと思います。
ドナルド・トランプのルーツはプレスピテリアンであるといいますから、彼はプロテスタントの中でも特にスコットランドなどに展開したカルヴァン派の人々の子孫ということになります。彼の発言の背景に、南米に深く根ざしているカトリックへの偏見がなかったのかどうかも、検証が必要です。

メキシコでなぜ英語が通じないのか。この疑問に対し、私はふと今思います。なぜ日本では中国語や韓国語が通じないのかと。この疑問が奇妙な疑問に映るとき、それではなぜメキシコでは英語がと率直に思ったのでしょうか。
それだけ、中米はアメリカの影響の強い地域です。そして、それだけに、我々もそうした地域の「アメリカ化」を当然とする先入観を持ちすぎているのかもしれません。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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