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日本が見落とすガンジー像に秘められたインドの国是

Unveiled Mahatma Gandhi’s bust in Hiroshima. This bust in Hiroshima gives a very important message. The Gandhian ideals of peace and harmony reverberate globally and give strength to millions.

「広島でガンジー像の除幕式を執り行いました。広島に贈ったこの胸像は、非常に重要なメッセージを伝えるものです。ガンジー翁が唱えた平和と調和の哲学は、世界中に響き渡り、数百万人に力を与えることでしょう。」
― 〔英文和文ともに〕インドのモディ首相のTwitter(@narendramodi)より

インドがG7にもロシアにも「非同盟中立」を貫くわけ

 今回のG7サミットを分析するとき、我々に突きつけられた厳しい課題について、しっかりと報道をしたメディアが少なかったことはとても残念でした。
 特に強調したいのが、インドに関する報道です。
 モディ首相がG7の会合に沿って、G7以外の他の主要国のリーダーとともに招待されました。彼は自らのTwitterでサミットに招待されたことに感謝し、多くの首相や大統領との対話があったことも個々ツイートしています。
 
 一方で、日本はアメリカやイギリスなどとともに、ロシア包囲網を作り、軍事的、経済的にウクライナを支援しようという思惑で、インドを今回招待したことは周知の事実です。その一環としてウクライナのゼレンスキー大統領が来日したタイミングで、モディ首相との会談をセッティングしたわけです。
 
 では、なぜインドはロシアに対してG7とともに強硬姿勢を取らないのでしょうか。マスコミはその理由として、インド自体がまだ発展途上で様々な経済的課題を抱えていることから、したたかにロシアからもエネルギーを輸入しながら、世界の主要国とも対話を続けていると報道しています。
 それは確かに事実かもしれません。しかし、実はインドの立場を見るときに、我々は最も大切なことを忘れているのです。それは、インドがなぜ「非同盟中立」という国是を長年にわたって堅持し、それを現在でも揺るぎないものとしているかという背景です。
 

インドの国是の根底にあるガンジーのビジョンとは

 それを読み解くときに忘れてはならないのが、今回G7に合わせるようにインドが広島の平和公園に寄贈したガンジーの胸像なのです。インド独立の父ともいわれるマハトマ・ガンジーは、イギリスからの長い独立闘争のときに「非暴力不服従」というビジョンを貫き、度重なる投獄や迫害に耐えてきました。武器を持つ代わりに、断食や抗議、さらにイギリスの命令に服従しないことによって対抗したのです。インド人はその姿に惹かれ、武器に対して武器を使わないという、欧米にはないアジアならではの価値観を抵抗運動のビジョンとしました。それが世界の注目を集める中、戦後ついに独立を達成したのです。
 
 その後インドは、不幸にも宗教対立によってパキスタンと分離します。しかし、ガンジーの理想である非暴力不服従という考え方は、新生インドの中で国家の立ち位置の土台となりました。国際紛争での暴力の応酬から常に一線を画し、冷戦にあってもどの勢力とも強い同盟関係を持たないことで、インド独自の国づくりをしていこうというのが非同盟中立の原則だったのです。
 
 冷戦時代、そんなインドに対してアメリカは決して友好的ではありませんでした。したがって、インドは旧ソ連と様々な技術や経済交流をしてきたのです。そこには確かに、中立を保ちながら経済的な恩恵は受けようというしたたかな外交戦略がないわけではありません。しかし、その戦略の根底にあるビジョンがガンジーによって打ち立てられたインドという国家の礎なのです。
 
 つまり、インドがG7の枠組みに対して全面的に賛同しないのは、彼らの国是であり、その向こうには武力に対して常に圧力と武器で対抗するアメリカへの強い不信感があるのです。インドが広島の平和公園にガンジーの像を寄贈したのは、ガンジーと出身地が同じモディ首相が日本に送った、インドの立場を語ろうとする無言のメッセージなのです。
 
 今回のG7において、モディ首相はTwitterなどでアメリカについて一切触れないまま、会議が終わるとFIPICというインド、太平洋諸島のフォーラムに出席するためにパプアニューギニアへと飛んで行きました。太平洋に点在する島嶼国家は、アメリカやフランスの核実験の脅威に晒され、大国の経済活動がもたらす温暖化による海水面の上昇に悩まされる国々でもあります。インドはそうした国家との連携を深め、他のアジア・アフリカ諸国もインドを見つめているのです。
 

唯一の被爆国・日本がインドの政策から学ぶべきこと

 確かに、ウクライナ問題でG7が団結してロシアを孤立させてゆくことは、人道的に見ても必要なことでしょう。そしてウクライナも、G7には明らかに武器と物資の支援を求めています。それがなければウクライナがロシアという大国に蹂躙されてしまう以上、他の選択肢はないかもしれません。
 
 しかし、世界で唯一の被爆国である日本が、インドの政策や行動から学ぶべきことがないかと考えてみたいのです。武力に対して武器と物量で対抗すること以外に日本にできることはないのかということを、もう一度考える必要はないのでしょうか。さらに踏み込めば、アメリカの傘の下でただ尻尾を振っている状況が、本当に日本の安全と繁栄のためになっているのかを、考えてみる必要はないのでしょうか。
 
 インドはGDPで見れば世界第5位の大国です。人口も中国を抜き、世界一の国家となりました。しかし、経済的には個人の平均年収が2,200ドルと低く、複雑な宗教の対立や社会に根強く残っている階級差別などの問題も抱えています。インドに代表されるような国家は、当然自国の経済や安定を優先するわけで、同様の多くの国々がG7と足並みを揃えることができないのが現実です。彼らは、中国の影響力の拡大への懸念とともに、欧米富裕国が長年彼らから享受してきた利権に対しても複雑な気持ちを抱えているのです。
 ですから、G7がウクライナを支えるとき、G7からのそれに対する見返りも必要になってくるでしょう。しかし、不安定な世界経済の中で、当のG7もそこまで余裕がないことも明らかです。
 
 であればこそ、インドが広島に贈ったカンジー像の意味をよく考える必要があるのです。非暴力不服従というビジョンが世界を変えた実例は、アメリカでの公民権運動、南アフリカでのアパルトヘイト撤廃へとつながりました。
 そんな過去の事例を振り返りながら、ただアメリカに追随するのではなく、武力の行使や威圧への報復として、何ができるのかを改めて考えようと提言するのが、被爆国日本の使命ともいえそうです。
 

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