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ドゥテルテ政権とアメリカの世論のギャップが語ること

ROBINSON NIÑAL JR./PRESIDENTIAL PHOTO

“Leaders of China and the Philippines have preliminarily agreed to cooperate on oil and gas exploration, a move that has angered many Filipinos wary of Chinese territorial expansionism in the region.”

近郊での領土拡張政策に不安をいだくフィリピン人を刺激しながらも、中国とフィリピンのリーダーは石油とガスの資源開発での協力について基本合意に。
(CNNより)

ダイアローグ:ドゥテルテ大統領とアメリカ世論

「ねえ、アメリカの人って一般的にフィリピンの大統領のことをどう思っているの?」
あるフィリピンの友人が、先日マニラでにこう問いかけました。
「残念ながら、ドゥテルテ大統領は人権を無視して、人を裁判なしで殺害するような、とんでもない指導者だと思っている人が多いと思うよ」
私は、ドゥテルテ大統領に対するアメリカの一般的な世論を率直に伝えました。その上でさらに、
「確かにあれは、オバマ政権の時の外交の過ちだったかもしれない。オバマ政権はリベラルで様々な功績を残したけれど、外交では中東問題などでも失敗している。フィリピンに関していうならば、フィリピンの実情を熟慮せずに表面に現れた事柄だけでドゥテルテ大統領を批判したことが、両国の関係の悪化につながったことは否めないね」と付け加えました。

「アメリカ人って、自分たちの価値観を平気で押し付けてくる。フィリピン社会がどれだけ賄賂や麻薬などに苦しめられてきたか、誰も理解していないのよ。私の近所でもドラッグが横行し、政治家は腐敗していた。だから誰も将来に希望を持てなかったの。この深い闇を是正するには、強権によるリーダーシップがどうしても必要だったのよ。それを豊かな国の人が、人権の侵害なんて綺麗事じみた言葉で批判するのは簡単だけど、それは的外れ。どうかと思う。実際、ドゥテルテが大統領になって、犯罪も政治の腐敗も少なくなった。社会が発展するために最小限必要な土台ができつつあるのよ。今までは何をしようとしても、お金が政治家に流れるだけで、社会インフラも整わなかった。オバマ大統領には、そんな現実を見据えた上でコメントしてもらいたかった」

友人はそう説明をしてくれます。

「いえね。アメリカの世論を味方にすることは、外交上極めて大切なことではあるけれど、それは容易なことじゃないんだ。特に、海外で人権という金看板が侵害されていると報道されると、民主党にしても共和党にしても、アメリカの国内世論を考えて、それはとんでもないことだというふうになってしまう。それはフィリピンだけのことじゃないよ。日本だって女性の人権が侵害されているとか、移民に対する差別が横行しているなど、様々なことがアメリカ社会で問いただされてきた。アメリカは大きな国で、多彩な移民社会だけに、物事を白か黒かという単純な図式で説明しないと意図が社会に浸透しにくいんだ」

「そうね。アメリカ人のいうリベラルって言葉が時々独りよがりで偽善的にすら聞こえてくるのは、そのせいかもしれないわね。例えば、フィリピンでいえば、独裁者だったマルコスは悪人で、その政権を倒した後にしばらくして大統領になったコラソン・アキノは、民主化されたフィリピンで女性初の大統領ということで、アメリカのリベラルな人々に支持されていた。でも、現実はといえば、彼女の政権は賄賂で汚れた政権だった。ドラッグ問題もほとんど改善できず、フィリピンは犯罪の多い危険な国になっていた」

「確かにね。しかも、ミンダナオ島を中心にイスラム原理主義によるテロも頻発していたよね」
「そう。そんなミンダナオ島の問題を解決し、麻薬組織も追放したことが、ドゥテルテが大統領になる前のミンダナオの知事だった頃の功績だったのよ」

ドゥテルテが導くフィリピンの未来は

今、フィリピンは東南アジアの中で微妙な位置に置かれています。
フィリピンは、一時南シナ海の領土問題で中国と緊張関係におかれ、アメリカとの同盟強化を意図していました。しかし、ドゥテルテ大統領になって社会改革が進む中で、それを強権政治と批判したアメリカとの感情のもつれがとれないまま、今フィリピンはここで紹介されているように、一部の有権者の不安をよそに、中国との関係改善に極めて前向きです。中国から資金を調達し、社会基盤を整えることにも積極的です。
ベトナムやインドネシアなど、中国の覇権を警戒している国々の列から、明らかにフィリピンは離脱しつつあるのです。
 
11月30日に、コラソン・アキノが大統領であった頃のアメリカの指導者、ジョージ H. W. ブッシュが死去したというニュースが飛び込んできました。94歳でした。
両名が大統領であった頃、実はアメリカとフィリピンは緊張関係にあったのです。アキノ政権は、日本にとって沖縄の米軍基地にあたるスービック基地を閉鎖し、アメリカとの軍事同盟にくさびを打ち込んだのです。しかし、その後長い間フィリピン経済は低迷し、東南アジアの他の国々の伸長と比較しても、状況は改善されませんでした。
 
今、ドゥテルテ政権になって、そんなフィリピンにようやく未来が見えてきたという人が多いのも事実です。
豊富な人口資源と8000もの島を有する広大な国土をみれば、確かに今フィリピンに将来性を感じるのは当然です。
 

 

複雑なフィリピン社会とステレオタイプ

「だから、アメリカの世論が常に正しいとは限らない。フィリピンは長い間スペイン領で、その後アメリカが植民地にした。第二次世界大戦では日本に占領され、その後はずっとアメリカの傘下にあった。だから、フィリピン人と一言でいっても、先祖はさまざま。中国系、スペイン系、アメリカ系、日本系などなど。これがフィリピン人の顔だなんてないのよ。一人一人まったく違ったルーツがあるのだから。言葉だって、地方地方で異なっている。フィリピンの言葉はタガログ語だと思っている人が多いけど、タガログ語はマニラ周辺の言葉を無理やり国の言葉にしただけのこと。だからこそ、英語が多くの人にとっての共通語になるわけ。そんな複雑なフィリピン社会を一つの国家として発展させてゆくには、時には強力な指導者が必要なわけ。アメリカ人ってそういった事情を理解せずに、なんでも自分の尺度でものをいう。腹が立つわね」

「アジアの価値と欧米の価値とは、その土台が異なるために、よくぶつかってしまう。アメリカはある意味で、欧米の価値を代表しているように思えるけれど、ヨーロッパとアメリカとではものの考え方が大きく異なるのも事実。ただ、ことアジアへの評価となると、そこにはやはり欧米に共通したステレオタイプがあることは否めない。フィリピンの複雑な過去や社会的現実に対して、彼らのほとんどは無知なはず。それだけに、いかに正しい情報を欧米社会に伝えるかという課題にいつも苛まれるんだね」

日本にしろ、フィリピンにしろ、はたまた他のアジアの国々にしろ、一度ステレオタイプに批判を受けると、その背景を説明しようとすればするほど、それが言い訳のための自己弁護に聞こえ、さらに誤解が深まってしまうというジレンマもあります。ドゥテルテ大統領への評価に対するアメリカの厳しい世論は当分続きそうです。

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フィリピン情勢からみえてくるアメリカのリベラルの内部矛盾

“Is there a more elastic word in the English language than the word liberal?”

英語の中でliberalという単語ほど、伸縮自在な言葉はないのでは?
(BBCより)

リベラル liberal という言葉は、寛大で心が広く、革新的、あるいは進歩的という言葉と共通しています。民主的で、人種差別などを否定し、人権を尊重する考え方を示します。
 
アメリカであの人はリベラルな人だといえば、基本的にその人は良い評価を得ていると考えられます。つまり、彼らは個々人の人権 human rights を尊重し、移民に対しても、他の文化にも寛容 tolerant で、自然や動物の保護にも積極的です。彼らの多くは比較的経済的にも余裕のある中産階級で、海外に居住した経験のある人も多くいます。もちろん海外を旅した経験も有している人がほとんどです。そんな彼らは一様にトランプ政権には批判的です。
 
そんな彼らが支持するオバマ前大統領のとき、フィリピンで大きな変化がありました。デュテルテ大統領が就任し、彼が麻薬との戦争を宣言したのです。デュテルテ大統領は、警察に対して抵抗する者は容赦なく殺害することを認め、麻薬や麻薬にかかわる組織の撲滅に乗り出しました。
フィリピンの刑務所は逮捕された麻薬中毒者で溢れ、劣悪な状態となりました。また、麻薬にかかわる人は容赦なく警察に殺害され、さらには賄賂を受け取る政治家にまで粛清の手が伸びました。
 
この状況をみたオバマ大統領は、フィリピンで人権が尊重されていないことへの懸念を表明しました。それはそれでアメリカのリベラルな人々の世論を代弁したコメントだったのです。確かに、麻薬犯とはいえ、裁判を受け、刑に服し更生される権利があります。警察はあくまでも行政組織です。そんな行政組織は余程のことがないかぎり、裁判にかけずに被疑者の命を奪う権利はないはずです。
 
しかし、オバマ大統領の指摘を受けたデュテルテ大統領は、強く反発しました。そしてデュテルテ大統領のオバマ大統領へのコメントが乱暴だったために、その表現がメディアに取り上げられ、アメリカではデュテルテ大統領は人権を無視するヤクザのような大統領というイメージが定着したのです。特にリベラルと呼ばれる人々にはデュテルテ大統領のやり方は異常だったのです。
 
では、フィリピンではどうだったのでしょう。フィリピンの人は、長年政府の腐敗と麻薬の弊害に悩まされてきました。デュテルテ大統領は強権ながら、その双方に鋭くメスをいれたため、多くのフィリピン人がデュテルテ大統領の手腕に賛辞をおくりました。実際、街角から犯罪や麻薬への脅威が払拭され、政治家の腐敗も少なくなりました。確かに、フィリピンでは腐敗と麻薬の被害は、我々の想像する以上に深刻だったのです。
 

 

フィリピンには以前、マルコス大統領という独裁者がいました。
彼に暗殺されたとされる、ベニグノ・アキノ氏の遺志を継いだとして大統領になった夫人(コラソン・アキノ)は、まさにフィリピンに民主主義をもたらした人として、そして女性の大統領としてアメリカのリベラルな人々の支持を受けました。アキノ大統領は、アメリカ軍基地を産業施設に変えて、アメリカ軍をフィリピンから締め出したことで、アメリカ政府との対立はあったものの、多くのアメリカ人は彼女を女性の民主化の旗手として応援したのです。その影響もあり、日本でも彼女は高く評価されています。

しかし、フィリピン人の中には、アキノ大統領への不満がくすぶっていました。彼女はフィリピンの中でも華僑系の富裕層の出身で、正に富と腐敗の上に成り立っている政権だと多くの人が思っていたのです。暗殺された夫のアキノ氏は、実は夫人の手にかかったのではないかという噂まで流れているのです。
マルコスは実はベニグノ・アキノ氏に政権を譲ることを意図していたともいわれています。こうしたことの真実はわからないものの、この二人の政治上のライバルが、以前は友人であったこともまた事実なのです。
 
アメリカのリベラルといわれる人の良心は、常に世界の人権と民主化の問題に目を向け、独裁者や強権を振るう政治家に懐疑的です。しかし、アメリカがそんな海外の政権を冷戦やその後の世界の覇権争いの中で自分の思うように操ろうとしてきたこともまた事実です。そうした国々の国民の多くは、アメリカのリベラルと呼ばれる人々に対して複雑な意識を持ちます。
植民地としての苦しい体験や、その後の冷戦の間での様々な矛盾にもがいてきたアジアやアフリカの現状を、アメリカの理想で一刀両断することへの憤りがそこにはあるのです。
デュテルテ大統領を支持しなければならないフィリピンの社会事情への無理解を糾弾したいのです。そして、なによりもアメリカはそんなフィリピンの宗主国であったことを、多くのアメリカ人が忘れていることも事実なのです。
 
世界をステレオタイプで型にはめてみることは、人々の心にお互いへの不信感を醸成します。
複雑に絡み合った世界の事情、そして背景や歴史をじっくりと見つめることが必要です。
アメリカのリベラルといわれる人々に求められていることは、自国になぜメキシコに壁をとまで言い切るトランプ政権が、彼らの意に反して生まれてしまったのか。そして、世界の人々がなぜアメリカのいう「民主化」や「自由」という呼びかけにアレルギー反応を起こすのかを、自分の尺度から距離をおいて見つめ直すことなのかもしれません。
 

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