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メイ首相の辞任表明が示すヨーロッパの大きな矛盾

Matt Dunham / REUTERS

“British voters delivered stunning blows to the country’s two main political parties in European elections, underlining the growing polarization over the effort to leave the European Union but signaling no obvious way out of the Brexit deadlock.”

(イギリスの有権者は、二大政党がヨーロッパの選挙の中でEU離脱について対立が深まり、イギリス離脱の出口が見えなくなっていることに当惑のため息をついている)
― Wall Street Journalより

イギリスのEU離脱を巡る英国内外と欧州のあれこれ

 メイ首相が辞任を発表したことは、世界中に大きな不安を与えています。Brexit(ブレグジット)と呼ばれるイギリスEU(欧州連合)離脱表明から3年を経た今、メイ首相の努力にも関わらず、イギリスは英国議会との亀裂からEUとの交渉を中断したまま、条件なしの離脱表明とその発動という厳しい状況に追い込まれているのです。メイ首相自身、様々な合意を前提としたBrexitを模索しましたが、議会の承認が得られず、EUとイギリスとの間に挟まれたまま動きが取れなくなったのです。
 
 この課題の背景を紐解くことは容易ではありません。
 それほどに、長年EUの一翼を担ってきたイギリスとEUとの間には複雑な利害関係が絡み合っているのです。
 この複雑な状況を整理するためには、イギリス国内とその周辺、さらに広くEUの事情を考えなければなりません。

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分離へのベクトルと統合へのベクトルに揺れるヨーロッパとは

“Plan to Exhume Franco Renews Spain’s Wrestle With History.”

(フランコ総統の遺骨を掘り起こすことで、スペインの歴史との格闘に新たな1ページが開かれる。)
New York Timesより

友との会話に垣間見える国家の複雑さ

ヨーロッパといえば、イタリアやフランスやスペイン、そしてドイツといった国々をイメージする人が多いのではないでしょうか。
先日、スペイン出身の友人と食事をしたときのことです。彼が面白いことに、ワールドカップなどでスペインのサッカーチームが負けると嬉しくなると発言をしたのです。
何故だろうと思って、彼の出身を聞いたところ、バスク地方が彼の故郷だったのです。
 
スペインの北東部にあるバスク地方は、スペインとは異なる文化背景をもつバスク人の住む地域で、スペインに併合されたあとも独立運動が盛んな地域だったのです。ですから、彼にはスペインへの複雑な気持ちがあるのです。
スペインといえば、カタルーニャ地方で最近独立を求める住民投票があったことでも知られています。このことからもわかるように、スペインという国家一つをとっても、その中は複雑なのです。
 
イタリアのフィレンツェを最近訪ねました。
そのときに、イタリア人の友人が、イタリアといっても、スペインと同じように決して一つではないんだよと力説していたことを思い出します。
「まず、ミラノの人は、自分はヨーロッパの文明の中心にいて、ミラノから南はヨーロッパではないと思っている。我々フィレンツェの住人は、こここそイタリア文明の中心だと思っているけどね」
 
確かに、19世紀の後半までイタリアは様々な国家に分断されていました。
そのせいか、今でも地域ごとのプライドが高く、例えばフィレンツェとその近くにあるピサのサッカーチームが試合をするとき、二つの街のファンが衝突しないように、フェンスが設けられていたこともあったそうです。
「だから、ワールドカップといっても、イタリア統一チームをまとめるのは大変な仕事なんだよ。それぞれの地域の強い意識が選手にも浸透しているからね」
友人は、そうコメントします。
 

ヨーロッパに分断と融合の歴史あり

一見、ヨーロッパはEUによって統一され、一つの共同体へと成長をしているように思えます。従って、ヨーロッパの外の人々は、それぞれの国の中に、複雑な過去があり、分断と融合を繰り返しながら、現在に至っていることを見落としがちです。フランス人はフランス語を喋り、イタリア人はイタリア語を喋ると誰もが単純に考えがちなのです。
 
さらに事例を挙げてみます。
例えば、現在EUを牽引しているといわれるドイツとフランスが、19世紀から20世紀にかけて、何度も衝突を繰り返したことは周知の事実です。そしてその都度国境線が変わり、現在に至っていることはよく知られています。
そんなフランスの中にも、イギリスにより近い文化を持つ人々や、フランス領となってはいても、スペインとの国境にはバスク系の人々も多く居住しているのです。地域によっては言語すら違うことがあるのです。
 
第二次世界大戦の凄惨な記憶から、特に西ヨーロッパでは現在のEUの母体が形成されて以来、一度も戦争がおきてはいません。
しかし、例えば現在はイギリスの一部となっている北アイルランドでは、イギリスからの分離独立を目指したテロ活動が最近まで活発であったことなど、混乱がなかったわけではありません。
スペインでも友人の出身地バスク地方の分離独立運動が武力で制圧されたこともありました。
 

ヨーロッパのあちこちに響く不協和音

そこで、再びスペインに目を向けます。
スペインの場合、事情はさらに難解です。
戦前、スペインは左派と右派とに分かれて内戦状態となりました。このスペイン内戦を制したのが、その後独裁体制をしいたフランコ総統でした。
フランコ政権のもと、スペインはナチスドイツムッソリーニ政権下のイタリアと共同し、左翼勢力やスペイン国内の分離独立運動を激しく弾圧したのです。
しかも、第二次世界大戦が終了したあとも、スペインではフランコ政権が続きました。そんな独裁の歴史の重圧に苦しんだカタルーニャやバスクで、スペインからの分離を求める声が脈々と受け継がれ、現在に至っているのです。
 
現在、スペインは民主化され、中道左派のサンチェス氏が率いる社会労働党が政権を運営しています。そんなサンチェス政権の悩みこそが、そうした過去の負の遺産からくる分離独立運動への対応です。
スペインは、カタルーニャの独立を拒否する一方で、スペイン統一の象徴として建設した、スペイン内戦戦没者の慰霊碑に埋葬されているフランコ総統の遺骨を掘り起こし、別の場所に移すことを表明します。ファシズム、そして独裁政権と永遠に決別する意思を国民に示したのです。このことで、スペインを一つの国家として本当にまとめることができるのかどうかはまだまだ未知数です。
 
面白いことに、右派の人々はこの決定に不服とはいえ、正面切って反対はできないのです。というのも、そうしたリアクションによって、彼らがファシズムを支持しているとは思われたくないからです。とはいえ、スペインの中に様々な不協和音があることは事実です。そして同様な民族や宗教上の不協和音が、ヨーロッパの複雑な歴史の中で、様々な地域に存在することも、ここで改めて強調したいのです。
 
EUによって統合されながらも、常に中央の強い引力から離反しようとする力が様々な場所で働いているのが、ヨーロッパの実情なのです。
 

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
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山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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