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キューバと北朝鮮:アプローチの明暗

【海外ニュース】

Treasury Dept. says Beyonce, Jay-Z Cuba trip was sanctioned after lawmakers question legality
(ニューヨークポスト紙 より)

議員がその違法性を指摘したことに対して、財務省はビヨンセとジェイ・Zのキューバ旅行を支持。

【ニュース解説】

キューバは、その昔アメリカとのつながりの深い国でした。
50年代には、イタリア国籍を持っている外国人であるという理由もあって、アメリカから強制送還されたマフィアのドン、ラッキー・ルチアーノがキューバに渡り、そこからアメリカの市場をコントロールしていたこともありました。このように、キューバはアメリカにとって、表の世界ではアメリカのカリブ海での戦略的同盟国、陰の世界ではマフィアの暗躍地としても知られていました。

そんなキューバとの関係が、社会主義革命がおき、カストロ政権ができたことで、一転したのは1959年のことでした。
以後、アメリカはキューバをアメリカへの脅威とみなし、経済活動を制限します。具体的には embargo、すなわちキューバとの貿易活動を凍結し、人々の交流も厳しく規制したのです。

キューバは葉巻の生産地として有名です。コイーバと呼ばれるブランドは日本でもよく知られていますが、embargo のために、アメリカではキューバの葉巻は手に入りません。
アメリカの葉巻愛好家は第三国の空港の免税店などでコイーバを買って、密輸業者さながらにスーツケースに隠してアメリカに持ち込みます。
また、キューバに興味のある人は、アメリカから直接ハバナに飛べないために、メキシコのカンクンなどを経由してキューバに入国します。キューバ側は、入国を拒まず、むしろ入国者に迷惑がかからないように、アメリカのパスポートに直接スタンプを押さないという気の使い方なのです。

そんなキューバを、アメリカのポップ歌手ビヨンセと彼女の夫でラップ・ミュージシャンとして知られるジェイ・Zとが旅したのです。
旅の目的はあくまでも結婚記念日の観光。ただ、この行為を違法行為ではないかと突き上げた共和党の議員に対して、embargo を課しているアメリカの財務省が二人の行為を支持すると敢えてコメントしたことの背景には何があるのでしょうか。

思い出すのが、2月にプロバスケットボールの選手デニス・ロッドマンが北朝鮮を旅してキム・ジョンウンに面会したこと。北朝鮮の指導者と一緒に現地のバスケットボールを観戦したとき、キム・ジョンウンはロッドマンにメッセージを託し、オバマ大統領からの電話でのコンタクトを促したといいます。
そして、オバマ大統領がその申し出を黙殺していることが、直接交渉の道を断たれたキム・ジョンウンを、過激な挑発へと駆り立てた一つの要因であったといわれています。

ビヨンセとジェイ・Zがキューバで誰に会ったのかはわかりません。
しかし、カストロが病床で、キューバが新体制に移行しつつある現在、アメリカの財務省がアメリカを代表するミュージシャンの旅行を黙認どころか、違法性なしと名言したことは、その背景にキューバとの緊張緩和のメッセージが込められているとみることもできるかもしれません。

4月8日、イギリスからサッチャー元首相の訃報が報道されました。
鉄の女といわれた保守系政治家のアメリカ側のパートナーは、これまたアメリカの保守政治を代表するレーガン大統領でした。
二人の時代、世の中はまだ冷戦の最中。キューバは一般のアメリカ人にとって、地理的には極めて近く、政治的には最も遠い国でした。
ちょうどその頃、旧ソ連にゴルバチョフ政権が登場し、急速に緊張緩和が進行したことが、冷戦終結の第一歩となったのです。サッチャーの死は、そうした時代の終焉を物語っています。
現在オバマ大統領は、embargo を冷戦時代の遺物として、キューバとの関係改善を臨んでいるといわれています。今回の財務省のコメントの背景に大統領の意図があったかどうかはわかりませんが、オバマ大統領にとって、ロッドマンは「歓迎せざる旅人」で、ビヨンセは「求められた旅人」であったことは確かなようです。

昔から、国と国との関係が緊張しているとき、著名な民間人や団体がそれとなく相手方を訪問し、両国の関係に変化をもたらすケースは多々ありました。それは、国家の体面を維持しながら、微妙なメッセージを伝え合い、そこから問題解決への糸口を見いだす巧みな外交戦術の一環なのです。

The long-standing US trade embargo against Cuba prevents most Americans from traveling to the island without a license granted by the US government.
(長期にわたるアメリカのキューバへの禁輸措置は、殆どのアメリカ人をアメリカ政府の許可なしで旅行できない状況においてきた)と、ニューヨークポストも解説しています。東西冷戦の最後の二つの国、キューバと北朝鮮。双方がアメリカと敵対関係にある中で、アメリカはキューバに対しては明らかに北朝鮮とは異なったメッセージを送りはじめています。

国際政治の微妙な駆け引きを見極めるとき、こうした人の動きの背景に注目することが必要です。
日本も、今後中国などとの関係改善に、いかに非公式なカードを使ってゆくか、ビヨンセとジェイ・Zの旅はよい教材になるかもしれません。

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