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韓国や日本を巻き込む米中関係の悪化がもたらすリスクとは

Ultimately, anti-China sentiment in South Korea has been building up over time as a result of diplomatic incidents that relate to deeper cultural and societal anxieties. These negative feelings towards China have been further amplified by the younger generations’ use of the internet.

(とどのつまり、韓国の反中感情は、一連の外交問題が蓄積し、より深い文化的・社会的不安へと長い時間をかけて増幅されてきた。しかも、こうした中国に対する敵愾心は、若い世代がインターネットを利用することで増幅されている)
― Foreign Policy Research Institute の論文 より

双方の世論操作に神経を尖らせるアメリカと中国

 アメリカでは、トランプ前大統領が前回の大統領選挙の結果を不正にねつ造しようとした疑いで起訴されるという、前例のない裁判が始まろうとしています。ただ、仮に有罪の判決が下りても、次回の大統領選挙に参戦することは理論的に可能で、鉄格子の中で大統領に選ばれるのではとシニカルにコメントする人もいるのです。実際、トランプ前大統領の支持層には厚いものがあり、現職のバイデン大統領との票読みではかなりの接戦が予測されていると、メディアは報道しています。
 
 そんなアメリカと、全人代などでの一糸乱れぬ統制の中で政治を進めようとする中国とがイデオロギーをめぐって対立することは、当然といえば当然でしょう。アメリカは大統領が変われば政策にも変化が起こります。国際社会への影響力の大きな国だけに、その変化は多くの国に不安定な反応を引き起こします。今、台湾を守るといい、ウクライナを支援すると言い切っているアメリカが、大統領選挙で指導者が変われば、その方針を転換させないという保証はどこにもありません。それだけに、中国もロシアもアメリカの世論操作には神経を尖らせているはずです。
 
 そうしたこともあってか、最近アメリカでは中国に絡むスパイの摘発が目立つようになりました。アメリカ在住の中国人が、中国政府からの指示でスパイ活動をしているとアメリカ政府の関係者は警告しているのです。大統領選挙が近づけば、アメリカ国内での諜報活動、ネットを使用した世論操作が活発になるという傾向は、この20年常に指摘されてきたことなのです。
 
 そんなアメリカからの経済制裁とコロナ後の経済混乱も絡んで、一方の中国では経済の失速が目立っています。ある中国人から話を聞けば、中国経済の中心とも言える上海でも若者の就職難が深刻で、景気後退は人々の生活にまで影を落とし始めているとぼやいています。コロナ以前の活力ある中国の姿に明らかに変調があるのです。
 

米中の間にあるのは政治的ではなく文化的な対立

 先日、香港のジャーナリストと夕食を共にしたとき、彼と意気投合したことが一つありました。それは、中国が大国として本来の中国の姿に戻るべきだという意見についてです。過去に比べるなら、中国の国際社会への影響力は飛躍的に伸長しています。であれば、中国はアメリカの一挙一動に過敏に反応したり対抗したりするのではなく、もっと泰然とし堂々とするべきだと話し合ったのです。古来中国は自らの力が大きくなれば、周辺の国がその繁栄を共有しようと朝貢を繰り返していました。自ら動かなくても、周囲から人が集まってくるというのが過去の繁栄した中国の姿でした。
 
 しかし、今の中国はアメリカとの対立に苛立ち、アメリカの挑発にも即座に対抗します。冒頭で紹介したトランプ前大統領訴追のケースからも理解できるように、対立した者が舌戦を繰り広げることを当然とするアメリカの文化に刺激され、そのリングに上がって戦おうとすると、中国のイメージはますます傷つき、周辺国の離反にも拍車がかかるはずです。
 
 例えば、つい先日、大麻を持ち込んだ容疑で長年拘束されていた韓国人への死刑が中国で執行されました。最近K-POPへの規制などが進み、韓国人の中国に対する世論が硬化していた矢先の出来事でした。
 ご存知のように、日本人もスパイ容疑で中国政府に拘束され、日本の世論も大きく動揺しました。さらに、最も懸念を表明していた韓国が、福島第一原発の汚染水を希釈化して海洋放出することに理解を示したとき、中国政府は日本の行為が世界の自然を破壊するものとして強く反発しました。
 こうした状況の蓄積が、アメリカはもとより、日本、そしてヘッドラインで紹介したように、韓国など中国の周辺地域での反中国感情を、ますます刺激しているのです。
 これらすべての反応をよく見れば、それがアメリカの中国戦略、さらには反中国戦略の影響であることは、誰が見ても明らかです。
 
 民主主義か権威主義かという政治的な対立ではなく、実はアメリカと中国の間には、言葉で議論をして利を優先するプラグマティックな文化と、威厳や面子を大切にする文化との対立があることを忘れてはなりません。香港のジャーナリストは、もし中国がこの視点に立って、アメリカの一つ一つの攻撃を面子への毀損として捉えずに、過敏に反応しなければ、中国そのものが権威主義の刃に頼る必要もなくなり、極東地域の安定にも貢献できるはずだと強調していました。香港の悩みも、台湾への脅威も、中国がアメリカからの各論各論での舌鋒に面子を持って争った結果、発生したのだというのが彼の分析でした。
 そうした視点で見たときに、経済の失速によって中国が大国として本来持つべき精神的余裕が失われることが、周辺地域の不安を煽るリスクに直結することがわかるはずです。それは、政治的にも経済的にもアメリカが望んでいる罠に陥ることを意味しています。その点を中国は認識すべきだと思うのです。
 

米中の政策に踊らされない臨機応変な外交を

 アメリカ社会は、トランプ前大統領の裁判を通して、ますます分断が先鋭化しながら大統領選挙へと突き進むはずです。同時に、選挙では民主・共和ともに外交問題で中国をスケープゴートにしながら、強硬と柔軟という外交戦略の是非を持って常に論戦を続けるはずです。民主党も共和党も、中国政策については片方が強硬であればそれを批判し、柔軟であればそれはそれで批評の対象にしてくるはずです。アメリカの政治家は選挙での世論に常に神経を尖らせています。ですから、どちらの党も世論を見ながら、対中政策を柔軟にすることも強行姿勢を維持することもできるのです。
 
 中国は、そんなアメリカの不安定な駆け引きに踊らされ、権威主義政策の殻に頑なに閉じこもらず、大国にしかできない太陽政策によって、アメリカと周辺国との絆に割って入った方が得策でしょう。
 そして日本は日本で、中国とアメリカのこうした事情を天秤にかけながら、北米一辺倒な政策ではなく、臨機応変な外交をもって自らの利益を図るべきです。政府や政治家にそのノウハウが欠如し、中国とのパイプが日々細くなってきていることも、我々にとっては大きなリスクなのです。
 

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『韓国語 日本紹介事典 JAPAPEDIA』IBCパブリッシング (編)、キム・ヒョンデ (訳)韓国語 日本紹介事典 JAPAPEDIA
IBCパブリッシング (編)、キム・ヒョンデ (訳)
日韓の交流が次第に盛んになり、両国を行き来する旅行客数も年々増えています。若年層を中心に、最も好きな海外旅行先として韓国と日本を互いに挙げているアンケート調査も見られます。しかし、ある程度韓国語を勉強しても、旅行や留学などで知り合った韓国人に、いざ日本について韓国語で説明しようとすると、なかなか難しいもの。本書は、ビジネスでもプライベートでも、日本について聞かれたとき、知識として知っていることを韓国語で正確に伝えることができるようになるフレーズ集です。

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