【海外ニュース】
‘Bring Back Our Girls’
(New York Times より)少女達を返して
【ニュース解説】
半月前に、ナイジェリアでおきた、276人に及ぶ少女が誘拐された事件は、その後犯行声明をだした Boko Haram というイスラム教原理主義者が、彼女らを奴隷として売り飛ばすと発表したことで、世界中に衝撃を与えます。
この事件は、発生以来、時にはウクライナ情勢などよりも、海外メディアで大きく報道され、世界中の政治家や識者がこの暴挙を強く非難してきました。
表題の短いヘッドラインは、女性が教育を受ける権利を主張したことで 2012年10月にパキスタンで凶弾に襲われた少女マララ・ユサフザイ Malala Yousafzai とその財団が世界に訴えたメッセージです。
彼女とその財団のホームページには、Malala and the Malala Fund are calling on Nigeria and the international community to take urgent action to ensure more than 200 kidnapped Nigerian school girls are freed.(マララとマララ財団は、ナイジェリアと国際社会に向け、誘拐された 200人以上のナイジェリアで学ぶ少女たちが解放されるよう即座にアクションをおこすべきだと呼びかけている)というメッセージが掲載されています。
ナイジェリア北部山岳地帯を拠点として活動する Boko Haram は、ナイジェリアのタリバンと呼ばれる過激なグループです。2013年に、私はアルジェリアで日揮の社員が殺害された事件をこの紙面で解説したことがありますが、その中で真っ先に取り上げたのが Boko Haram の存在でした。
それは、リビアのカダフィ政権が崩壊したときに流出した武器が、北アフリカの闇ルートを通して、この過激派組織へと流れていったことが、アルジェリアでの事件と深い関わりがあったからです。
実は、Boko Haram は最近、こうした誘拐事件を頻繁におこしています。
そもそも Boko Haram という組織の名前は、「西欧化教育は罪 Western Education is a sin」を意味し、イスラム原理主義に基づく、社会造りを標榜し、女性が教育を受け自立することを拒絶し続けてきた組織です。ナイジェリアは、キリスト教徒も多く、彼らはそうした少女を誘拐しては、イスラム教への改宗を強要し、その後奴隷として売却するという犯行を繰り返していました。
今回は、それを大規模に強行したのです。そして今回の被害者には、キリスト教徒だけではなく、イスラム教徒の少女も多く含まれていました。少女たちは日本円で約1200円で、彼らの関係者に売却されるといわれています。特に、被害者が、15歳から18歳の未来を嘱望され、学校で学んでいた少女であったことが、世界が事件を極めて深刻に受け止めた背景だったのです。
マララの声明、そして世界中の非難の輪が、アメリカ政府なども動かし、少女達を救済するための行動へと結実しようとしています。アメリカのケリー国務長官も、アメリカがテロの専門家を派遣し、事件の解決に全面的に協力すると約束します。
しかし、イスラムの世界は一枚岩ではなく、事件の背景も混沌とし、複雑です。
まず、我々は、こうしたイスラム過激派のテログループをアルカイダとして一つにくくる傾向がありますが、東は東南アジアから西はナイジェリアに至るまで、世界には数多くのイスラム教原理主義者の組織があり、それぞれの地域の政治的な混乱に乗じて活動しています。
彼らは、アメリカで同時多発テロをおこしたアルカイダをモデルにし、時には連携し、時には個々バラバラに活動しているのです。
彼らに共通した理念。それはサラフィー主義と呼ばれるイスラム教が勃興したころの原点に忠実であれという思想をもとに、そうした世界の実現のために、ジハード、つまり戦い続けなければならないという建前を掲げていることです。これをサラフィー・ジハード主義 Salafist jihadism と呼び、Boko Haram もそうした考えに基づき組成されたグループです。
彼らはお互いの存亡のために、武器の密輸や今回のような人身売買 human traffic を行っているのです。
In the gloom of a hilltop cave in Nigeria where she was held captive, she had a knife pressed to her throat by a man who gave her a choice – convert to Islam or die.(薄暗いナイジェリアの丘の上の洞窟で、彼女は拉致されのどにナイフを押し付けられたまま、イスラム教へ改宗するか死かどちらかを選ぶよう迫られた)と Boko Haram に拉致された経験のある女性はメディアにそう証言しています。
日本から遠く離れた地域での事件のせいか、この事件の深刻さが国内で報じられはじめたのは、ここ数日のことでした。日本の安倍首相が欧州を訪問したときの記者会見の場でも、女性の進出を望む日本の首相としてこの問題を取り上げなかったことも、国際感覚の欠如といえましょう。そこに世界と日本との温度差を感じたのは、私だけではないはずです。
こうした事件に敏感に反応し、人権や女性の権利のために立ち上がる人々の強い波を意識する嗅覚を養うことは、グローバルに活動する人材を育成する上でも、必要なことのではないでしょうか。