【海外ニュース】
Lewinsky makes emotional plea to end cyberbullying
(CNNより)ルインスキーは、サイバー環境での誹謗中傷の根絶を切実に訴える
【ニュース解説】
16年ぶりに、彼女の名前をニュースでみつけました。
モニカ・ルインスキー。彼女は、ホワイトハウスの研修生をしていた1998年に、アメリカ大統領ビル・クリントンとの情事が報道され、メディアをにぎわしました。クリントン大統領は、その情事を「不適切な関係 improper relationship」だったと認め、一時は自らの政治生命まで脅かします。
ヘッドラインにあるサイバーブーリング cyberbullying は、cyber と bully をあわせた造語です。bully は「いじめる」という意味の動詞です。従って、この言葉はネットなどを活用した誹謗中傷、つまり「サイバーいじめ」を意味します。
最近、アメリカで報道されるサイバー関係のニュースといえば、もっぱらハッカーに関するものでした。ロシアのハッカーがホワイトハウスのネットワークに侵入したとか、大手量販店の顧客情報が盗まれたとか、さらには中国とのサイバー戦争に関する記事など、サイバーで検索すれば、そうしたニュースが毎日のように紙面をにぎわしていることがわかります。
また、ウエブサイトのニュースはといえば、ネットを活用したイスラム国の卓越した戦士のリクルート戦略なども頻繁に報道されています。
しかし、モニカ・ルインスキーのスキャンダルが話題になった 16年前、ネットの世界は今からみれば極めて単純なものだったのです。当時は twitter もなければ、facebook も活動していませんでした。クラウドなどという言葉は、天気予報でしかお目にかからず、オンラインショップでは 1994年に設立したアマゾンが、やっと注目を集め始めた頃でした。
しかし、当時すでに excruciatingly slow dial up (ダイヤルアップという恐ろしく時間のかかる) 方法ではあったものの、ネットにアクセスし、人々はニュースを読んでいました。オンラインにアクセスするたびに、彼女はその記事に驚愕し、時には out of context (本筋から脱線した) ネットメディアの報道にショックを受けたものだと語っています。22歳のフレッシュレディが、憧れのボス (それがなんとアメリカ合衆国大統領であった) と恋におちるという、本人からみれば、若気の至りとしてごく普通にありそうな失敗が、ここまでひどく報道されていることに、毎日ショックを受けたのです。
そんな彼女が、cyberbullying の深刻さを改めて認識したのは、2010年のタイラー・クレメンティ事件 Tyler Clementi case に接してのことでした。大学生だったタイラー・クレメンティは、性行為を盗撮され、インターネットに公開されたことからショックを受け、自殺したのです。事件が報道されると、10代の同性愛者の自殺が相次ぎ、事件は全米の注目するところとなったのです。これは、Webcam Insident つまりウエブカメラを使用した盗撮事件でした。
タイラー・クレメンティ事件によって、cyberbullying という言葉が広く使用されるようになりました。そして、自らの辛い体験に基づいて、モニカ・ルインスイーは、この事件を契機に、自らを再びメディアに晒しても、ネットを使った誹謗中傷の根絶を目指す社会運動をはじめたのです。勇気のある決断でした。
ここで、私がなぜ cyberbullying という言葉に注目したか説明します。
前述のように、bully とは「いじめ」を意味する言葉です。よく使用されるハラスメント harassment ではなく、bully といえばより意図的に陰湿に人を苦しめることが示唆されます。しかも、それがネット環境であれば、被害者にコンタクトすることなく、無責任で間接的な方法で中傷できるだけに被害は甚大です。
People who have been caught up in online scandals that forever changed their lives. (オンラインでのスキャンダルにひっかかると、その人の人生を永遠に変えてしまう)と彼女は指摘します。それは、darkest moment of humiliation (もっとも陰鬱な侮辱の瞬間) なのです。
確かに同情できるコメントです。私と私の周囲にも同様の被害に遭ったケースがあり、ネットをみれば、そこに誇張され歪曲された誹謗中傷が列挙されていることが気になり、精神的にも追い詰められた時期がありました。問題は、ネットであれば、どんな無責任なことでも、比較的軽い気持ちで語れることです。つまり加害者が、被害者の受ける迷惑や心理的ダメージに対して、極めて鈍感でいられるのが、サイバーブーリングの特徴なのです。
モニカ・ルインスキーの勇気ある活動を心から支援したく思います。