【海外ニュース】
THE Department of Interior and Local Government (DILG) yesterday said it was President Rodrigo Duterte’s way of asking the Armed Forces of the Philippines (AFP) to assist the Philippine National Police (PNP) in suppressing lawlessness and violence.
(セブ・サンスター紙より)内務地方省は昨日ロドリゴ・ドゥテルテ大統領がフィリピンの国軍に無法な暴力を制圧するために警察を扶助するように指示をしたと発表
【ニュース解説】
今、セブ島にきています。
セブ島はフィリピンの南部にあるリゾート地ですが、今回は英語教育の関係の仕事での出張です。
昨日こちらに到着したら、会社からメールが一通はいっていました。フィリピンで爆弾騒ぎがあったので気をつけてくださいと。ホテルに到着するまで、そのニュースを知りませんでした。それぐらいセブの空港も街も平穏で、普段となんら変わりのない南国の日常だったのです。
アブサヤフというイスラム過激組織は、フィリピンの南部の島、ミンダナオ島で昔から活動をしていたモロ解放戦線から分離した過激派グループで、ISIS にも忠誠を誓っているといいます。
我々は日本という島国に住んでいると、世界の複雑な民族情報に疎くなります。フィリピンも、確かに島国ですが、フィリピン南部は小さな島々を伝ってボルネオ島へと繋がっています。ボルネオ島は南がインドネシア、北がマレーシア、そして一部はブルネイと3つの国に分かれていますが、そこは古くからアラビア海からベンガル湾を経てイスラム教が伝わってきた地域にあたります。そして、フィリピン南部にも島伝いで、イスラム教が浸透し、後年にフィリピンの他の地域で拡大したキリスト教とは一線を画しているのです。
ある意味で一つの国家の中に、いくつかの異なる宗教や文化が混在しているのです。
話は変わりますが、アメリカのペンシルバニア州を中心とした地域にアーミッシュと呼ばれる人々がいます。
彼らはドイツからの移民の子孫で、今でも昔ながらのしきたりを維持し、文明を拒否している人々です。彼らは自分たちの学校をもち、そこで子供を教育し、自分たちのライフスタイルにのっとって生活をしています。馬車に乗って移動をするのですが、馬車が事故に巻き込まれないように、州政府がせめて方向指示器だけはつけて欲しいと依頼し、それが彼らが使用する唯一の電気製品であるといわれています。
このように、国家の中にいくつもの文化が共存し、そこではある種の自治が行われているケースは、世界ではごく当たり前のことのなのです。それが多様性 Diversity という考え方の基本となっているのです。
さて、フィリピンの場合、ミンダナオ島の内部にそういった地域があります。
島のいくつかの地域では、イスラム教徒によるフィリピンからの分離独立運動が根強くあったのです。それを指導していたのがモロ解放戦線でした。
しかし、フィリピンが国家として発展するためには内乱を収束させなければなりません。そこで、近年フィリピン政府とモロ解放戦線との間で交渉が進み、自治を認めながらもフィリピンの一部として共存しようという妥協が成立しました。ちょうどアーミッシュの自治を認めているペンシルバニア州と同様、異なる宗教や生活習慣を尊重して国としての融和を図ったのです。これは今世紀になってからのアレンジでした。しかしそれに強く反発した人々がいました。そんな、より先鋭化した人々が今回の爆破事件を起こしたのです。
事件の背景には、先週紹介したフィリピンの新大統領ロドリゴ・ドゥテルテ氏の麻薬犯罪などに対する強硬な政策も影響しているかもしれません。
ドゥテルテ大統領は警察官や官僚同士での密告を奨励しながら、麻薬組織との癒着を暴こうと懸命です。この対応に戦々恐々としている地方の政治家や役人は相当数いるはずです。そうした人々が今回の爆弾事件にどのように関わったかは、闇の中なのです。
今回の爆破事件は彼の出身母体のダバオ市でおきました。これから大統領は、麻薬組織との「戦争」と共に、イスラム過激派への対応にも追われなければならなくなったわけです。
イスラム教過激派の ISIS は、ネットなどで呼びかけて、例えばインドネシアの人々や中国のウイグル族などの中から、中央政府に不満を持つ人を中東に集め、軍事訓練を受けさせます。そして、それぞれの地域でのテロ活動の実行部隊として帰国させます。フィリピンもついにその脅威にさらされたのです。
フィリピンでおきていることは、あの同時多発テロでもおわかりのように、そのままアメリカやひいては日本への脅威につながります。このグローバルな脅威にどう対応するか。日本だけは違うと日本人は言いすぎているように思えるのは、私だけではないはずです。
* * *
日英対訳
『海外メディアから読み解く世界情勢』
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊
海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。