“British voters delivered stunning blows to the country’s two main political parties in European elections, underlining the growing polarization over the effort to leave the European Union but signaling no obvious way out of the Brexit deadlock.”
(イギリスの有権者は、二大政党がヨーロッパの選挙の中でEU離脱について対立が深まり、イギリス離脱の出口が見えなくなっていることに当惑のため息をついている)
― Wall Street Journalより
イギリスのEU離脱を巡る英国内外と欧州のあれこれ
メイ首相が辞任を発表したことは、世界中に大きな不安を与えています。Brexit(ブレグジット)と呼ばれるイギリスのEU(欧州連合)離脱表明から3年を経た今、メイ首相の努力にも関わらず、イギリスは英国議会との亀裂からEUとの交渉を中断したまま、条件なしの離脱表明とその発動という厳しい状況に追い込まれているのです。メイ首相自身、様々な合意を前提としたBrexitを模索しましたが、議会の承認が得られず、EUとイギリスとの間に挟まれたまま動きが取れなくなったのです。
この課題の背景を紐解くことは容易ではありません。 それほどに、長年EUの一翼を担ってきたイギリスとEUとの間には複雑な利害関係が絡み合っているのです。 この複雑な状況を整理するためには、イギリス国内とその周辺、さらに広くEUの事情を考えなければなりません。
まず、イギリスの国内とその周辺の事情を考えましょう。 イギリスは長年、北アイルランドを連合王国の一部として保有しています。しかし、アイルランドは元々イギリスの植民地から独立し、主権国家としてEUに加わっています。北アイルランドはその折にイギリスに残され、いまだに分離独立運動がくすぶっている地域です。メイ首相は、そんな北アイルランドがアイルランドとの自由な往来と経済圏を維持するべきだという政党と連携を保ってBrexitを進めました。もし、アイルランドのみEUと同じ条件が維持されてBrexitを進めれば、それがイギリスの国内世論の反発と共に、EUとの新たな課題へと発展するかもしれません。
同時に、スコットランド問題があります。スコットランドはBrexitに元々反対していた地域で、独立の機運も旺盛でした。もし、北アイルランドとスコットランドの支持なくしてBrexitを強行した場合、これらの地域の反発は必至で、新たな独立運動を引き起こすことも予測されます。そうすれば、イギリス自体の求心力も低下するおそれがあるのです。
次に、EUを見てみましょう。今、EUの主要国の中でEUに懐疑的な右派政党が頭角を表しています。特にフランスやイタリアでは、議会の過半を奪おうという動きがあり、ドイツやオランダもそうした情勢への呼応が予測されます。 彼らの課題の一つが、移民問題です。労働者不足と低成長に悩むEU諸国ではあるものの、急速な移民の増加はそれぞれの国家のアイデンティティを変えようとしています。また、EU内の持てる国であるドイツやフランスが、EUが急速に拡大した中で経済難に苦しむ南ヨーロッパ諸国との経済格差のつけを払わされている、と主張する人々が多いのも現実です。
“Brexit”を前に山積する課題と不透明さ
こうした二つの状況の中でBrexitが起こりました。 EUからしてみれば、Brexitの動きが地域内に波及することへの懸念は重大です。かつ、すでにEU内に居住する120万人のイギリス人や、イギリス内に居住する320万人とも言えるEUの人々への扱いも今後の課題となります。どちら側に住む人々の中にも、ヨーロッパに移住してきた中東やアフリカからの移民も多いのです。 加えて、関税をどうするか、イギリスがEUに所属する各国との貿易移民協定をどう締結し、それがEUの規則に沿って承認されるにはどうするかという無数の課題が残ります。 これらを整理解決し、同時にイギリスがスコットランドや北アイルランドと妥協しながら、国家を統一した形で課題を乗り超えられるか。これは難問です。 イギリスは、とりあえず現在あるEUとの協定を全てイギリスの国内法に移行し、時間をかけてその調整をしてゆこうと試みています。そうした調整が完了し、イギリスが完全にEUから離脱するのに10年は必要という専門家もいるのです。
しかし、現在EUで制定されている規定は、国家がEU離脱を表明した場合、その移行期間は2年とされています。もちろん、この規定が制定されて以来最初のケースがイギリスというわけです。2年とはあまりにも短い期間です。 イギリス国内には、依然として国民投票をやり直そうという動きがあり、EUへの残留を主張する人々が多くいます。実はメイ首相も、以前は残留を主張していました。しかし、国民の意向を政策にするのが政府の役割という信念で、Brexitに向けた調整を始めたのでした。イギリスの政界にはそうした人々が多くいます。しかし、今の段階で再び国民投票を行いEUへの残留を模索しようという意思を鮮明にしている政党は、マイノリティを除いてほとんどありません。
ここまで書くと、漠然と見えてくることがあります。 それは、ヨーロッパ諸国が極めて強く連携して数十年の年月が経過した現在、例え国家が離脱しても、実際にどのような変化がその国を見舞うのかが全く見えてこないという現実です。通貨が変わり、多大の税金と人的費用を投じて離脱をしても、実情を変化させることは困難だという人も多くいます。 これを強引に推し進め、イギリスのアイデンティティを取り戻そうとするハード・ブレグジット派が今後議会でどのように巻き返し、新しい政権に影響を与えるかは注目しなければなりません。それは保守化するフランスやイタリア、さらにオランダやドイツに影響を与え、今回のヘッドラインのようにEUそのものの根幹に打撃を与える可能性もあるからです。
EU分裂後の将来によぎる社会不安
では、EUが分裂すると誰が得をするのか。 一般的には、アメリカと中国だと言われています。しかし、そんな単純なものではありません。今のところイギリスの景気は好調ですが、世界金融の中心地の一つ、ロンドンやEUそのもので金融経済の乱高下や社会不安が起これば、そのまま世界の金融市場に飛び火することは明らかです。日本もアメリカも、さらに中国もすでに多額の投資をこの地域に行っているのです。 EUという世界の平和を模索して設立された組織の理想以前に、そうした現実の脅威に世界は注目しているのです。
移民流入への不安、さらには自国の文化や伝統への固執というセンチメンタリズムをよそに、ヨーロッパに近い中東ではアメリカとイラン、イスラエルとパレスチナの緊張が高まり、ビザの制限をよそに難民や移民が増え続けています。アフリカの状況も同様です。 今年になって、イギリスはEU離脱を正式に発動しました。これから2年間の猶予の中で何を成し遂げられるのか。そうしたEU、そしてイギリスの宿命と闘った末に、自らの政治力の限界を表明し、引退という苦渋の決断をしたメイ首相の柔軟な対応を評価し、将来に不安を持つ人が多くいるのも、また現実なのです。
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