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“Trust me!”という言葉の影響

もうあの会話から3年が経過しました。
それでも、あの日のニュースでの日本の首相の対応は失望感と共に心に刻まれています。

「鳩山首相はアメリカでオバマ大統領に英語で話していましたね。やはり英語でやりとりできるリーダーが日本にはあまりいないなか、鳩山さん、かっこ良かったですね」

ある人が、私にそんなことを話してくれたことがありました。
しかし、私はその人の意見に賛同できません。

「でも、英語が話せるからこそ、誤解が増えるケースがあることを知っておいてほしいのです。世界の檜舞台で重要なメッセージが間違って伝わるリスクって見過ごせませんよ」

私はそう反論しました。

「何があったのですか」

「英語を日本人の発想で使ったり、言葉の辞書的な意味だけを理解して、適切な状況を無視して使ったりすると、とんでもない誤解の原因になるんですよ。鳩山さん、そんな誤解を相手に与えたのではって、気になっているのです」

私は、普天間問題で、代替地が見つからず、アメリカ側がいらだっているとき、訪米した鳩山首相が言った一言を指摘します。私は、その一言を、テレビを通して聞いたとき、情けなくなり愕然としたことを今でも覚えています。

「鳩山さんはオバマ大統領に向かって Trust me と言ったんです」

「ですよね。そのどこが問題なのでしょう」

「Trust とは信じるという意味ですよ。どの国でもそうですが、trust は人と人とが共に仕事をしたり、活動したりするために必要不可欠な意識です。特に多様な人種や背景の異なる人が集まるアメリカ社会では、trust という価値こそが、人と人との融和の要となっているといっても過言ではありません。だから、鳩山さんは敢えて英語で trust me といったんでしょうね。でも trust という言葉をそのように使ってはいけないんです」

「どこが問題なのでしょう」

「つまり、I trust you ということはあっても、自ら trust me ということはおすすめではないのです。それはあたかも何かミスをした部下が上司にむかって、どうか信頼してくださいと懇願しているようにみえてしまいます。trust という言葉が大切な価値観を象徴する言葉であればあるほど、使い方を誤れば、逆に trust を失う安易な表現になってしまいかねません」

「つまり、オバマさんからみれば、いったいこの男はなにを言っているんだろう。何を担保に信頼してほしいと言っているのだろうという風に思ってしまうわけですね」

「その通りです。そもそも、外交の檜舞台は対等な立場で交渉や交流をする姿勢が何よりも大切です。“Trust me!” といえば、自らを卑屈に売り込んでいる印象を相手に与えかねません。特に、ご指摘のように、ただ trust me. と言っても、背景にある具体的で説得力のある提案や理由が担保されない限り、それは感情的な懇願としてしか受け取られないのです。だから、この鳩山さんの一言は、外交上の決定的な失言なのです。しかも、彼はその失敗に気付かずに、オバマ大統領にちゃんと “Trust me!” といっておきましたと、はっきりとものを言う外交をしてきたかのようにマスコミに語っています。でも実際は全く逆のことをしてきたわけです」

「いや、驚きですね。ということは、鳩山さんの指導力、上に立つ者としての精神力そのものに疑問を持たれてしまったわけですね」

「そうなのです。tough という言葉がありますが、これは強靭なという風に翻訳されますね。アメリカでは tough は粘り強く困難に挑み、しかも強い精神力で苦境をコントロールできる人格を表現したポジティブな言葉です。鳩山さんのこの一言で、オバマ大統領は日本の首相としての tough さに疑問を持ったのではと思うのです」

鳩山さんの場合、キーワードの使い方を誤ったうえに、それを流暢な英語で語ったことが、却って相手との誤解を深めたことになります。
片言の英語であれば、聞いている方も仮にその人が変な表現をしても、これはミスだろうと考えてもらえるかもしれません。
しかし、流暢な英語でありながら、相手の文化への理解が不足していたり、日本の常識やコミュニケーション文化に沿って英語を使ったりした場合、そこで生まれる誤解は一層深刻なものとなるのです。

「ということは、下手な英語でも、相手の文化をよく理解して語りかける方が、単に英語力がある人よりも相手とうまくコミュニケーションができるということになるのでしょうか」

「そうですね。相手のコミュニケーション文化を理解することが何よりも大切です。鳩山さん、アメリカに滞在した経験もあるということですが、あのときの Trust me! だけは、いただけませんでしたね。きっとあの後あっさりと首相を辞めたとき、オバマ大統領はやはりねと思ったのではないでしょうか」

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