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Post Clod War が産み出す「ロシア・ナショナリズム」

【海外ニュース】

Referendum was held in Crimea in full compliance with international norms. Everything in Crimea speaks of our shared history and pride.
(ウラジミール・プーチン大統領の 2014年5月21日、クリミアの併合にあたってのスピーチより)

クリミアでのロシアへの併合の是非を問う住民投票は、国際基準にのっとった管理のもとで実施された。クリミアに関する全てのことがらは、我々に共通した歴史であり、プライドなのだ

【ニュース解説】

日本では、アメリカからの情報はよく流れてきます。しかし、中国やロシア、そして他の国々からの情報は、その気にならない限りなかなか入手できません。
例えば、ウクライナ問題を考えるとき、それはロシアの誤った行為ととられ、日本も完全に西側の世論に加わっていることから、ロシアが悪で、西側が善、そしてウクライナはその善と悪との間に挟まれた悲しい犠牲者というステレオタイプな図式を信じている人が多くいるはずです。

前回、patriotismfundamentalism とが融合しつつある危機について、パリでの事件を元に解説しました
Patriotism の高揚。それはロシアでも例外ではありません。ウクライナ問題の一つである、クリミア半島のロシアへの併合は、それを煽り、多数のロシア人の支持によって断行されました。
ここで紹介した、プーチン大統領の 2014年5月の演説は、クリミア半島が元々ロシアが投資し、ロシアの活動拠点であった場所であり、黒海へ展開するロシア帝国の艦隊の基地でもあったと強調し、国民の拍手喝采をあびました。
確かに、クリミア半島は、ソ連の時代、ロシアもウクライナも同じ主権で動いていた時代に、ソ連共産党のイニシアチブでウクライナ共和国に管理をさせた地域でした。しかしソ連が崩壊し、ロシアとウクライナが異なる主権国家となった現在、元々の「両親」であったロシアに戻すべきだというのがプーチンの主張の背景にはあるようです。
ロシアとしては、こうした過去の縺れた糸を正視し、クリミア半島が自国のものであることを、理解して欲しいと国際社会に訴えようとしたのです。

東西冷戦は、ソ連の崩壊により、アメリカの勝利で終息しました。ソ連崩壊のあとの混乱の中で、ロシア経済は低迷し、国内の民族運動への抑圧や、その結果として発生したテロ行為などで、社会は大きく揺れました。プーチン大統領が、そうしたロシアを強いロシアへと変貌させようと、権力闘争を進めながらも、国内ではナショナリズムを煽ってきたことは事実です。

アメリカには、そうしたロシアの一挙一動が、依然アメリカの傘の下にある西側諸国にとっての脅威と映ります。従って、アメリカは、プーチン大統領のこうした行為を国際社会への挑戦として排除し、批判しようと西側の同盟国を使い、世論も含め包囲網を狭めていったのです。去年おきたマレーシア航空砲撃事件は、そんな思惑への絶好の材料となりました。

Patriotism が敗退的な fundamentalism へと傾斜してゆくとき、必ずあるのが、一つの国家や民族が追い詰められてゆく現象です。そして、過激な nationalism が、丁度ウイルスに毒性が加わるように fundamentalism へと変化し相手に伝染することもあります。一方の nationalism に相手が対抗し、相手方にも nationalism を醸成し、お互いを排除しはじめるのです。双方が刺激し合いながら過激な排他主義への傾斜がはじまるのです。西欧とイスラム社会、極東での日本と周辺国、今回取り上げたロシアとウクライナなど、過去の縺れた紐どうしがきしみ合う中で発火するプロセスは、世界に共通した事実といえましょう。

また、別の視点でみるならば、歴史的事件や戦争での勝者は過去にこだわらず、敗者は過去にこだわる傾向があることも知っておきたいものです。冷戦の敗者となったロシアは、クリミアの過去にこだわり、それを併合し、国民の patriotism、そして nationalism を刺激したのです。プーチン大統領のこの演説は、そうした政治的意図を象徴したものといえそうです。

こうした課題を乗り越える一言、それが英語でよく使用される tolerance、すなわち「寛容」という言葉です。お互いの歴史やいきさつへの寛容性が機能しなくなりつつある昨今こそ、国際政治の場で、双方の当事者が、この言葉の意味をもう一度見直す必要があるはずです。
この課題、来週もアメリカ西海岸から、さらに続けます。

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