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アメリカ人のビジネスメンタリティの原点とは

今、ワイオミング州からモンタナ州にはいったところです。
夕食をとるために立ち寄ったドライブインで、この文章を書いています。
このあと約200マイル、3時間少々夜道を運転します。
田舎道は夜は漆黒の闇となり、真っ暗なハイウエイを、中央線を見詰めながらただ走ります。今までに何度この経験をしたことでしょうか。
今日中に飛行場のある町に行き、明日そこからデンバー経由でサンフランシスコに飛ぶのです。

アメリカは広大な国です。
特に、こうした地方に来るとそれを実感します。
この広大な大地を開拓した人々の話は、既に遠い過去のことではありますが、彼らのフロンティア・スピリットの遺伝子は、今でもビジネスや教育の現場に受け継がれています。

今日、アメリカ人とのビジネスのノウハウを学ぶ為のEラーニングの素材にしようと、オレゴントレイルという19世紀中盤の開拓路を取材しました。

Photo by Yoji Yamakuse

昔のオレゴントレイルの跡をはしるハイウエイにあるドライブインの看板(ワイオミング州にて)

この開拓路は、西部開拓の中でも最も有名なルートで、当時のアメリカ人の10人に1人がここを通って、広大な土地を求めて西へと向かいました。そして、そのうちのさらに10人に一人は目的地にたどり着くことなく命を落としたという、正にリスクある開拓路でした。

Photo by Yoji Yamakuse

岩に刻まれた1850年にオレゴントレイルを通った開拓者が自らの名前を岩に刻んだあと(ワイオミング州にて)

この開拓路は、アメリカ人の精神構造を象徴しているといわれています。
まずリスクをとり、未知の未来の可能性へと進むことをよしとする彼らは、前に進もうとするビジネス上の決裁は日本よりもかなり早く行います。
しかし、途中で何かがおきると、その場でどんどん調整し、変化してゆきます。逆に、日本では決裁に至るまで根回しを進め、できるだけ完璧な準備をしようとします。ですから、決裁には時間がかかり、何回も調整を繰り返します。

決裁つまり decision making というこの一言をとっても、アメリカ人と日本人とでは、違う解釈、そして概念を持っているのです。
ですから、アメリカ人は日本人のことを時には slow buffalo (のろまなバッファロウ) と批判します。この言葉は、ああでもないこうでもないとくり返し、決断ができない人を批判するスラングです。
そして、日本人はビジネス上、なかなか期日を守ってくれないアメリカ人を、一度決めたことを守ってくれず無責任な連中と愚痴をいいます。アメリカ人からしてみれば、前に進みだした後で、正に開拓路で思わぬ難儀に出会ったときのように、色々と調整することは当然のことなのです。

そもそも、バッファロウはオレゴントレイルなどを通って、西部開拓をする人にとっては、大切な食料源でした。
ですから、開拓路を先に急いでいても、バッファロウが現れれば、彼らは予定を変更してでも、狩猟をし、食料源としなければなりませんでした。
だから、ビジネス上のプレゼンでも、彼らのモチベーションをあげるには、彼らにとってのバッファロウが何かをしかりとプレゼンしなければなりません。
のろのろとして決裁過程の中で、より完璧な準備を求め、リスクへの課題ばかりを語る日本人は、得てしてアメリカ人にバッファロウをみせることができないことから、彼らのモチベーションを下げてしまうのです。

今日、あるところで、幼児を連れた親子が側を歩いていました。
父親が幼児に問いかけます。
「だっこしてもらいたいの?それともそのまま歩くかい?」
西部開拓や移民社会の中で生き抜く為には、ともかく自分の思うことやニーズをしっかりと表明し、表現することが大切です。
ですから、アメリカではどんな些細なことでも、自分の意志をはっきりと相手に伝える訓練を子供に行い、教育します。だっこしてもらいたいか、それとも歩きたいか、幼児にその意思をまずしっかりと確認するわけです。
ですから、アメリカ人は成人しても、自らの意思をどんどん表明します。相手の気持ちを意識する前に、まず自分の意思表明をちゃんとしようとする彼らの態度が、日本人にとっては不遜に思えたり、自分の考えを押し付けてくる配慮のない人にみえたりしてしまいます。

さて、これからモンタナ州の夜道を走ります。
英語がわかってもこうしたアメリカ人のメンタリティを理解できないと、ビジネスでのコミュニケーションはできません。
そんなアメリカ人の原点ともいえる西部の小さな町々を通り過ぎ、これから3時間、黙々と運転を続けます。

【山久瀬洋二・画】

Yoji Yamakuse

「オレゴンの記憶」山久瀬洋二・画

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