【海外ニュース】
Japan and South Korea have agreed to settle the issue of “comfort women” forced to work in Japanese brothels during World War Two.
(BBCより)日本と韓国は第二次世界大戦中に売春を強要されていた「慰安婦」の問題について合意に至る
【ニュース解説】
月曜日の BBC のトップニュースで日本と韓国の慰安婦問題での長年の確執を解決するために歴史的な合意が両国で行われたことが報道されています。
CNN、ニューヨークタイムズなど、他の国際的なメディアでも、このニュースは大きく取り上げられました。New York Times では Landmark deal、つまり「歴史的合意」という見出しで報道をしています。
東アジアの安定のために、日本と韓国とが強い絆を持つことは、世界のニーズであることは動かしがたい事実です。今回は、日本人として、世界の世論の常識を知る上で、このニュースに接したとき、考えておかなければならない教訓があることを、ここに解説します。
慰安婦問題は、日本と韓国との関係に大きな影を落としてきました。日本側は「何度謝ればいいのか。すでに合意したはずだ」という韓国への批判が根強く、韓国は韓国で、「この問題は民族の問題。ただ謝ってもらえば済むことではない」という世論が底辺にあることは、よく知られています。
そんな2つの国の確執が今回政治上決着したわけです。
では、なぜこの極東の二つの国の間での合意に、世界のメディアが敏感に反応したのでしょうか。それはこの問題が、両国の異なった意見や政治的背景を越えたいわゆる「西側先進国」共通の建前に関係した事柄だったからです。その建前とは「人権」という概念に他なりません。
さらに、慰安婦問題は第二次世界大戦を、ファシズムを相手に戦った戦勝国の「大義」と、そこに介在した「人権問題」とが結合したテーマであることも、知っておくべきなのです。
両国に大きな世論の隔たりがあり、同時に政治的にも様々な見方、意見がある慰安婦問題。仮に今回の合意に否定的な意見があるにせよ、日本や韓国から遠く離れたアメリカやヨーロッパの人々から見れば、これはナチスのユダヤ人虐殺や、最近問題になっている中国でのチベット族やウイグル族など、いわゆる少数民族への差別などと同じ視点で捉えられる課題だったのです。
歴史をみるならば、アメリカやイギリスなど、世界の列強はその植民地や関係国などで人権を蹂躙してきた当事者でもありました。そして、そこでの被害について彼らが真摯であったかといえば、決してそうではありませんでした。
しかし、そうした国々が一方で民主主義を国是としてきたことも、動かしがたい事実です。もちろんメディアも極めてシンプルに、この国是をいかに守り、民主主義や資本主義という自由主義陣営らしく国家が運営されているかをチェックしようとするのです。
この背景に基づいて、「言論や報道の自由」と「人権の尊重」という二つのテーマは、彼らが最も敏感に反応するテーマとして、常に報道というサーチライトの対象となっているのです。
従って、今回の合意は、彼らが最も記事にしたがるニュースと言っても過言ではありません。
我々が、世界と関わる中で、そうしてメディアの論理、民主主義国家の建前を理解しておくことは、外交戦略の基本中の基本であると言っても差し支えないはずです。
だから、今回の合意は極東の2国間の和解という小さなニュースを越えて、欧米の主要メディアが大きく特集したのです。
慰安婦問題への政治的見解の是非には敢えて触れません。ただ、日本が今まで忘れていたことは、自らの「理由」をいかにグローバルに伝えてゆくかという戦略が常に後手にまわってきた現実です。「理由」をいえばいうほど、批判の対象となるテーマが「人権」であることを知った上で、いかに外交的に対応するか、我々は知っておく必要があるのです。
その上で、日本と韓国が友好的に未来を造ってゆくことが、日本の世界との関わりの中でもいかに大切なことかをここに改めて強調したく思います。
二つの国を合わせた GDP などの「総力」は、中国もアメリカも無視することはできない巨大なものです。インフラ、技術力、国民の教育の浸透率など、どこを取っても、日本と韓国の連携は、中国にもアメリカにも是は昰、非は非とカードを切れる世界の新しいパワーバランスの芽を作ることになるはずです。
日本と韓国との友好関係が成熟した場合、それがアメリカとロシアの間にある西ヨーロッパの状況の中で、過去の交戦国であったフランスとドイツが連携して現在の EU の基礎を作った事実にも匹敵する快挙であることが、大局から見ればあぶり出されてきます。
慰安婦問題の各論での議論はともかく、この「和解」が、将来2015年最大の朗報として記録されるようになることを祈りたく思います。
みなさん良い新年をお迎えください。
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日英対訳
『海外メディアから読み解く世界情勢』
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊
海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。