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文化に寄り添った言語がもたらす誤解とは

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“We don’t see things as they are, we see things as we are.”

「物事を自分がみているように、彼らもみているとは限らない」
― Talmudic(ユダヤ教の聖典)より

 今年の3月のこと、私はある国際会議でファシリテーションをしました。 その仕事の後、文化の違う人同士のコミュニケーションで起こりうる誤解のリスクについて、90分間の講演をしました。 そこで、カナダの企業の幹部が私に質問をしたのです。

「我々は、同じ業界で、同じミッションを共有しています。しかも、同じ技術をもって活動している同志のようなものです。そんな間柄と信頼関係の中で、誤解が生まれるとは思えないのですが」

 そこで、私が一つの事例を示しました。

「なるほど。よいご指摘ですね。では、これから私が一つの短いスピーチをしてみます。もちろん言語は英語です。このスピーチを聞いた後で、皆さんに私が何を言いたかったかを尋ねてみたいのです」

 私はそう言って、さっそく英語でスピーチを始めました。

「今年の冬は、アメリカなどは強烈な寒波に見舞われ、被害も出たようです。冬の寒さは、アメリカだけではなく、モスクワでも記録的な寒さでした。しかし、逆に日本では今年の冬は雪も少なく、暖かい日々が続いています。世界中で様々な気候変動が起こっているようです。従って、これからは今まで以上に、異常気象にも耐えられる商品づくりについて考えなければなりません」

 こうスピーチをした後で、フランスとニュージーランド、そして先ほど質問をしたカナダの幹部に質問をします。

「さて、ここで私が言いたかったポイントは何でしょうか」

 すると、彼らは口を揃えて、

「よくわからなかったよ、ポイントが。でも、アメリカなどでの気候について話したかったんだよね」

「なるほど。では、韓国と中国の代表の方に聞きましょう。私のスピーチはいかがでしたか」

 すると彼らは答えます。

「非常に論旨が明快で、素晴らしいスピーチでした。異常気象に備えた商品づくりをしなければならないことには、我々は賛成ですよ」

「ありがとうございます。東アジアの人には、私の言いたかったことが通じました。しかし、欧米やオセアニアの人、つまり元々ヨーロッパ系の言語圏の人は皆、私のスピーチのポイントをつかめませんでしたね。同じ英語で話したのに、どうしてこのようなことが起きたのでしょうか」

 会場がざわめきます。 しばらく間をおいて、私は問いかけました。

英語はあくまでも言葉にすぎません。その言葉をどう操るかのノウハウは、実は文化によって異なるのです。今回の私のスピーチは、ある文化圏の人には全く意味不明で、東アジアの皆さんにはよく理解されました。実は、私は日本を含む東アジアの人々のレトリックに従って英語を喋ったのです。だから、そうした論理展開が存在しない欧米の方々、あるいは英語圏の方々には、私の話のポイントが伝わらなかったというわけです」

 いうまでもなく、私は日本流の「起承転結」法を使って、英語でスピーチを行いました。そして、実際は私の予想以上にそのスピーチを理解できる人と、理解できない人とがくっきりと分かれたのです。これは驚くほどはっきりとした結果でした。

「なるほど、英語が喋れるだけでは、そして英語だけに頼っていては誤解が生じるということですね」

 カナダの代表は納得したように、私に話しかけます。


「そうなんです。実のところ、国際交渉の決裂の多くは、こうした誤解が原因なのです。悲しいことに、この結果が戦争につながることもあり、ひどい場合は人の命を奪うことも起こってしまいます。というのも、誤解が起きるとき、お互いが相手に不信感を抱き、そこから怒りや緊張が生まれるからです。ビジネスでも同様です。皆さんは大きな組織の幹部です。であれば、海外とのやり取りでこうしたリスクからプロジェクトを守ることも大切な使命なのです」

 そう私は説明しました。

 
 実際に、ビジネスなどの国際交渉は、お互いにより良い結果を共有するために行われます。誰も最初から決裂は望んでいません。それなのに、交渉やプレゼンテーションがうまくいかないのは、こうした異文化でのコミュニケーションスタイルの違いに起因することが多いのです。 日本人も含めて、英語を喋るとき、それを自分の所属する文化で醸成されたコミュニケーションスタイルに則して使っていることに気づいている人は、そう多くはありません。そのことが、伝えたつもりが伝わっていないとか、合意したはずなのにうまく動いてくれないといった苦情の原因となっているわけです。
 

こうした誤解があるときに、まず柔軟に対応することが大切ですね。私の会社では、相手に緊張感を与えないように、相手の意図や言いたいポイントを確認するノウハウの研修をしています。現代のグローバルな環境でリーダーシップを取ってゆくには、こうした多様なコミュニケーションスタイルを受け入れ、それに応じた対応をお互いに心がける組織づくりが必要なのです」

 私のスピーチを受けて、異文化対応に詳しいオーストリアの専門家がこのようにコメントをしました。彼のコメントこそが、そのまま今の語学教育の現場や国際関係についての様々な教育関係者にも伝えたいメッセージであるといえましょう。

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『エグゼクティブ・コーチング~誤解される日本人~』山久瀬洋二エグゼクティブ・コーチング~誤解される日本人~』山久瀬洋二 (著者)IBCパブリッシング刊*TOEIC
では高スコアを取っていても、実際のビジネスの場では役に立たないという人が多いといわれます。それは TOIEC
で高得点を取る技能に走って、最も大切な異文化コミュニケーション力を培っていないからです。異文化コミュニケーションの本質を習得できれば、中学英語と、そこに自らの仕事に関する専門用語を加えるだけで自分の意思を理解してもらえます。本書では、日本人の思考やビジネス文化に基づいて英訳することで生じる誤解などを解説し、文化の異なる相手と交流するスキルを伝授します。

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