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アメリカ大統領選、ポピュリズムと理想主義のバトルの向こうに見えるものは

I think it’s unfortunately a very complex storm that we are in right now. Yes, it’s unprecedented because you have the confluence between a global pandemic, a global economic downturn, and climate change and I would say a fourth, civil society’s uncertainty that they and their children rights will be protected. So, he’s coming in and will come in with a very strong cabinet of leaders who will understand that we cannot go back.

(残念なことに、複雑な嵐の中に我々は翻弄されています。世界的な感染拡大、経済の失速、気象異変、そして市民社会に広がる不安。人々のその子供たちの人権が脅かされているという不安など、前代未聞の課題が一挙に押し寄せてきています。ですから、バイデン氏は極めて有能なリーダーによる強力な政権を作らなければなりません。もう後戻りはできないのですから)
― Kath Delancy(バイデン前副大統領の選挙参謀)へのインタビューより

民主党の牙城・カリフォルニア州バークレーから

 大統領選挙まであと4ヵ月となったアメリカ。今回、民主党側の候補者バイデン氏に極めて近い選挙関係者に、ビデオ通話でインタビューをしてみました。
 Kath Delancy(キャス・ダランシー)さんは、カリフォルニア州バークレーで、長年ボランティアとして民主党の選挙を取りまとめてきた人で、バイデン前副大統領とも面識が深い人です。

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インタビュー動画はこちらのリンクからご覧いただけます。
https://youtu.be/H0S6HeGXxy0
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 もともと、カリフォルニア州の中でもサンフランシスコの一帯は民主党の牙城ともいわれるところで、トランプ大統領も最初からここでの票を当てにはしていません。特にバークレーといえば、民主党支持者が集まっている場所で、長年にわたり極めてリベラルな人々がメッセージを発信しているところとして知られています。彼女は、そうした場所からバイデン氏について語ってくれました。
 

選挙関係者が語るバイデン氏の政治姿勢と人柄

 まず、最初に強調したいのは、バイデン氏は、政治的スタンスはもとより、性格の上でもトランプ大統領とは全く異なる人物であるという点です。
 バイデン氏はどちらかといえば、静かにものを言う人に見えてきます。これは、大統領選挙では必ずしも有利ではないはずです。強い口調でエネルギッシュに有権者に訴える方が、広大なアメリカでは隅々まで声が浸透します。
 そうした意味で、トランプ大統領とヒラリー上院議員との前回の大統領選挙は、その舌戦において互角だったわけです。そして、トランプ大統領は常に自らがどのように有権者の目に映っているかを、過去の誰よりも意識するパフォーマーだといわれています。
 
 最近、トランプ氏の側近として働いていたボルトン氏が、大統領の様々な問題点を暴露した本が話題になっていることは解説しましたが、その中でも、ボルトン氏は大統領の自己PR重視の姿勢について痛烈に批判しています。
 あの北朝鮮の指導者・金正恩との電撃会談も、南北の融和を意図したものではなく、トランプ大統領の外交での華々しい姿をアピールすることが目的であったと、同書には書かれています。
 
 逆にバイデン前副大統領は、静かに人に寄り添う姿勢で選挙に臨んでいます。彼自身かなりの苦労人で、以前に交通事故で妻子を失った経験があり、若い頃は政治活動をしながら、シングルファーザーとして子育てしていたこともありました。
 不幸なことに、再婚後も息子を癌で失っています。そうした経験から、彼は人の痛みがわかり、それにしっかりと寄り添いながら社会の歪みを改革しようとする人だと、キャスは語ってくれました。
 彼女がそこで使う表現は confrontation(対立)ではなく、work together(共に解決に向かって働いてゆく)という意識に基づいています。
 トランプ大統領が“America First”と強調しているのに対し、世界は相互につながっていて、アメリカはより良き隣人(neighbor)として、日本やEUなどと連携してゆくだろうと彼女は解説します。
 

当選者を待ち受ける課題:外交・移民・コロナ対策

 そして、ともすれば現政権の中で忘れ去られようとしている、地球温暖化などの環境問題や人権問題などに、国際社会の中でどう取り組んでゆくか、トランプ政権で置き去りにされたものをもう一度原点から構築しなければならないと語ります。
 そうした意味では、バイデン氏が当選した場合でも、香港での問題、さらに人権の抑圧という問題がある限り、中国との緊張は続く可能性があります。
 逆に、トランプ大統領の場合は、再選を果たすために、実は中国との経済問題をうまく解決する落としどころを見つけ、それを成果にしたかったはずです。問題を強く突きつけたあと、そこで成果をあげて自分の力量をアピールするという図式に、中国は最適だったのです。
 しかし、そこに香港の問題が顕在化したとき、トランプ政権は上げた拳をうまく下ろすことができず、今は戸惑っているというのが現状です。
 
 コロナ対策も同様です。
 自らがコロナ対策において後手に回ったことを指摘されないためにも、中国にその責任があることを指摘し、さらにはアメリカ国立アレルギー・感染症研究所長のファウチ氏などが、経済対策より感染予防を優先することを嫌います。
 それに対して、バイデン氏はファウチ氏をしっかりとサポートしながら、感染拡大を抑制し、社会と経済を再生させるという困難な舵取りに挑まなければなりません。
 
 移民政策についても、同じことが言えます。
 バイデン氏の妻ジル・バイデンは、アメリカの大学で海外からの移民や留学生の教育に長年携わってきています。そうしたキャリアが、バイデン政権にはそのまま反映されるはずです。そのことは、メキシコとの壁も含め、様々な移民政策に関する外交問題において、トランプ大統領とは逆の方針を打ち出すはずです。このことについて、教育関係者の期待は大きいはずだとキャスは語ります。
 
 人々の様々な違いや多様性を受け入れることは Inclusive という言葉で表現されますが、そうした移民社会であるアメリカが培ってきた原点に立ち返り、そこから一度破壊されたものを再生させる、という大仕事がバイデン氏を待っているというわけです。
 
 大統領選挙は、そんなバイデン氏に有利に展開しています。
 しかし、これから4ヵ月という月日は決して短いものではありません。ごく平均的な有権者へのパフォーマンスを得意とするトランプ大統領も、必ず次の一手を考えているはずです。
 今回の大統領選挙は、これまで以上に、今後の世界の行方を展望する上でも重要な選挙となりそうです。
 

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『A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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