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自動車の変化とオミクロンが語ること

Germany plans to phase out the sale of combustion-engine vehicles to help meet its ambitious goal of getting 15 million electric vehicles on the road by 2030.

(ドイツは液体燃料車に替わる電気自動車の製作に対し、2030年までに1,500万台の電気自動車を走らせるよう支援するという野心的な目標を発表)
― Insider誌 より

コロナ禍で繰り広げられる産業界の覇権争い

 「オミクロン」という新型コロナウイルスの変異株が、世界を震撼させています。またかというため息と共に、いつまでこんなことが続くのだろうという苛立ちが交錯しながら、世界中が対応に追われています。
 
 不安定な状況が続く中で、それでも経済は前に向けて動かさなければと、世界の主要国は産業界に対して様々な支援をしようと必死です。しかし、コロナと付き合いながら、同時に国民の不安と不満を払拭する政策を実施することは至難の業です。経済を引き締め、人の行動を規制すれば、政府の横暴だと市民の怒りを買い、逆に人流を放置して経済優先に舵を切れば、感染拡大の懸念が広がります。
 次の指導者を決定する総選挙が終わったドイツでも、感染が再び拡大を見せる中、政府は対応に苦慮しているはずです。実際、主要国の産業界は焦っています。と言うのも、2020年代は、今後の数十年間でどこが次世代の産業をリードし、覇権を握ってゆくかを決める大切な10年だからです。
 
 つい1週間前、ドイツ政府は、2030年までに1,500万台の電気自動車を世の中に送り出すために強い支援をすることを発表しました。
 中道左派勢力が主力となった新政権の最も重要な課題が、環境問題への取り組みです。その中で、従来の液体燃料に頼ったエンジン車からの脱却を加速することは、当初から予測されていたことでもありました。
 しかも、これはアメリカなどでドイツ車のシェアを奪還し、どちらかというと守勢に立たされ続けていた、ライバルの日本車との熾烈な競争を克服する戦略の一環でもあるようです。もちろん、この動きはEUの自動車業界全体に影響を与えるはずです。
 
 一方で、オミクロン騒動で世界中の株式市場が混乱している中、今週になってアメリカの電気自動車のパイオニアであるテスラは、上海の工場に日本円で1,370億円の投資を行い、生産力を強化すると発表しました。週末の株価のパニックによって、テスラ株も3%下落したものの、その後は横ばいの状態が続いています。テスラを市場が好感しているからに他なりません。
 着工から2年にも満たない同工場が、すでに生産能力の限界に近づいていることがその背景にあるのではないかと噂されていますが、テスラ側はあくまでも開発能力のアップグレードのためだと、その理由を語っています。
 もちろん日本でも、このところトヨタやホンダなどで、次世代に対応した車についての発表が何件か続いています。しかし、今回のドイツやテスラなどの動向を見ると、これからの10年こそが、今後の産業のイニシアチブをどこが取ってゆくのかを見極める正念場であることが実感されます。
 
 そもそも、電気自動車の普及イコール環境問題の解決と短絡的に考えることはできません。発電や電動車の部品製作やインフラ整備による二酸化炭素の排出が、従来のハイブリッド車等による排出量より少なくなるのか、誰も詳細なデータを出してはいません。発電のノウハウ自体の変革なしに、本当に温暖化は防げるのでしょうか。
 こう考えると、電動化への動きは、次世代の産業力をどこが握るかという覇権をめぐる、政治的な背景に押されているのではないかという疑いも濃くなります。
 

時代の変遷がもたらす文明とライフスタイルの変化

 我々は、自らが生きている時代の中にいるときは、自身の周辺で起こっている変化に鈍感になりがちです。しかし、例えば、大学時代の友人に数十年ぶりに会ったとき、その人の面影の変化から時の流れを実感するように、そうした年月が世の中に与えるインパクトがいかに甚大かは、何かのきっかけがなければ、なかなか察知できません。
 
 最近、アガサ・クリスティの名作「名探偵ポアロ」の映画を見たとき、ふとそのことを実感しました。物語の設定は1930年代後半のイギリスです。そこに走っているのは今で言うなら年代物の車ですが、当時としては最新鋭の文明の利器ということになります。
 ではその30年前、つまり20世紀初頭のロンドンはどんな風景だったでしょうか。1930年代に働き盛りだった人が少年だった頃のロンドンでは、誰もが馬車で移動していました。それは、アガサ・クリスティよりひと昔前に活躍したコナン・ドイルの作品の主人公、シャーロック・ホームズの時代なのです。作中の主人公シャーロック・ホームズは、1880年頃から1910年頃を中心に活躍し、数々の難事件を解決しました。そして、彼の住むロンドンでは馬車が縦横無尽に街を走っていたのです。
 
 馬車から自動車へ。街の風景が一新し、産業や人々の生活、職業に大きな変化が起こったのは、わずか30年足らずの間のことだったのです。それは、ちょうどアメリカがイギリスを追い抜いて、それ以降の産業界で覇権を握る時期に一致します。馬車は、数千年にわたって人々の移動を助けてきました。ガソリン車は、直近の120年の間に人類のライフスタイルを変化させました。そして、これからほんの10年先には、産業革命から人々の生活に深く関わってきた内燃機関に別れを告げ、電気自動車が移動の主要手段になろうとしているのです。
 技術革新が急激なカーブを描いて加速していることがよくわかります。当然、このカーブに沿う形で、人々のライフスタイルも変化するはずです。そんなライフスタイルの変化に、さらに刺激を与えているのが、今回のコロナパンデミックであるといっても過言ではありません。
 
 実は、アメリカを核に開発されたガソリンエンジンが、人々のライフスタイルに変化をもたらし始めたころ、2つの事件が起こっています。
 まずは、1918年から2年にわたって世界を震撼させた、スペインかぜです。人々の移動手段の革新によって、感染はあっという間に世界に拡大し、死者数は数千万人に及んだと言われています。
 そして、次に起こったのが1929年の世界恐慌です。世界経済のリンクが進み始めていた矢先のこの事件も、アメリカから瞬く間に世界に拡大しました。そして、そのパニックはいくつもの波紋となって、第二次世界大戦へと人々を誘導しました。そして大戦の結果、アメリカは世界最大最強の国家となったのです。
 

次世代の経済の行方を占う電気自動車の開発競争

 今、世界が注意しなければならないことも次の3点、つまりパンデミックとそれによる株価に代表される不安定な経済状況、そして、その中で激しさを増す次世代向けの自動車の開発競争かもしれません。
 技術革新のカーブが急坂になればなるほど、人々の生活を左右するパンデミックや株価の上下の影響も、これまで以上に迅速に波及し、深刻になります。
 今、EUとアメリカ、そして日本や中国を巻き込んで、次世代の経済への覇権争いが加速中です。そのシンボルが、自動車業界での変化です。
 パンデミックと、それに伴う経済の混乱が、この覇権争いに複雑な影響を与えているのです。電気自動車業界をめぐる競争は、環境問題の僧衣(そうい)の裏に見えるそんな政治の鎧(よろい)と無縁ではないのです。
 

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