ブログ

大統領選挙では変わらない、アメリカの根本的な変化とは

Auto dealers face a revolution in their business as EVs are poised to gain market share.

(自動車のディーラーは、今後EV車の販売を念頭に置いたビジネスの大変革を求められている)
― LA Times より

日本が見据えるべきはアメリカ各州が打ち出す政策

 今回の大統領選挙は、どちらに傾いたにしろ、アメリカにとって大きな転換点になるはずです。ですから、海外のメディアも今までになく熱心に、そのなりゆきを報道しています。
 
 では、日本にとっては、どちらの候補が勝利した方がよいのでしょうか。
 日本の政府や官僚は伝統的に、共和党に対して盲目的な信頼感を抱いています。しかし、前回の選挙では、いくらなんでもトランプ氏は当選しないだろうと、クリントン氏当選後のアメリカとの外交を、関係者は色々とシミュレーションしていたはずです。
 ところが、トランプ氏が大統領になったことで、慌てて総理大臣をけしかけて友好的な関係構築に躍起になりました。節操がないといわれても仕方ありません。
 
 それに対して、ヨーロッパの反応はさすがでした。ヨーロッパの主要国は、トランプ大統領と適度に距離を置き、ときにはアメリカの自国中心の動きを牽制しながら、ブレグジット(Brexit)などEUを見舞っていた危機をうまく乗り越えようと、冷静な外交政策に終始しました。
 
 実は、今日本が考えなければならないことは、どちらが選挙に勝利するかということではありません。我々はもっと、アメリカそのものの動きに注目しなければならないのです。
 それは、今後のアメリカのエネルギー政策です。
 
 トランプ氏が大統領になれば、従来の化石燃料(石油などの基幹産業)を中心としたエネルギー政策が踏襲されると、多くの人が思っているかもしれません。しかし、アメリカは、それぞれの州政府に強い権限が委譲された国家です。
 そして、日本経済と関係が深い州は、バイデン候補と似通った政策をすでに実施しようとしています。つまり、どちらの大統領が当選しても、クリーンエネルギーによる地球温暖化への対応が、地方レベルで強化されるはずなのです。
 また、保守層が強く、かつ経済的にも大きな影響力のあるテキサス州などでも、そこに本拠を置く石油産業自体が、次世代のエネルギー開発に熱心なのです。
 アメリカは総力を挙げて、エネルギー政策の転換に挑もうとしているわけです。
 
 特に注目されているのが、カリフォルニア州の動きです。
 トランプ氏が当選しようが、バイデン氏に勝利の女神が微笑もうが、元々カリフォルニア州は民主党への強い支持基盤があります。そんなカリフォルニア州が、2035年までに全ての新車を化石燃料に頼らないものにするという、新たな規制を設ける方針を打ち出したのです。こうした動きこそ、日本が注目しなければならないことだといえましょう。
 

日本の自動車業界がエネルギー移行の波にうまく乗るためには

 日本の基幹産業はいうまでもなく、自動車産業です。
 今、自動車業界が苦悩していることがあります。それは、コロナによるビジネスの低迷などよりもっと深刻な、自らの生き残りをかけた試行錯誤です。
 ITに対する投資が必要不可欠な現状で、その投資からEV車(電気自動車)を実際に開発し、資金を回収するまでの期間、コストに圧迫され営業利益が縮小してしまう状況を、どのようにしのいでゆくかという課題です。
 
 実際、自動車業界での調達部門は、過去にないほど多様なネットワークを必要としています。今までのような、系列企業のピラミッドの上にいれば部品の供給が問題なく行われる時代から、海外の先端企業と自らが連絡をとり、新しい技術を導入してゆかなければならない時代へと突入しているのです。
 
 以前にも紹介しましたが、今欧米ではベンチャービジネスとして、新たなEV車の開発があちこちで行われています。その中には道半ばにして資金が続かなくなった企業もいくつかあります。
 問題は、そうした企業が淘汰されてゆくなかで、淘汰された企業もそのコアな技術を次のプレイヤーに販売することで、より大きなプレイヤーがその遺産を受け継ぎながら成長するという進化が予想されることです。
 日本企業もそうした新たな動きに注目し、いち早く有能な企業との提携や買収を試みなければなりません。それは、メーカーだけではなく、有力な下請企業にも通じる課題です。
 
 大統領選挙前の最後のテレビ討論会で、クリーンなエネルギーの開発支援を積極的に行おうという公約を掲げるバイデン候補を、トランプ大統領が厳しく糾弾する一幕がありました。トランプ氏は、バイデン候補の戦略はコロナ禍で疲弊するアメリカ企業の足を引っ張り、大手石油企業の経営にとっても好ましくない発言だと批判します。
 それは、民主党がじわじわと追い上げていたテキサス州の票を意識し、ヒューストンなどに集中する石油産業に関わる有権者の支持を確実なものにしようという戦略に他なりません。
 
 しかし、エネルギーの移り変わりは確実に進んでいます。そして、その移行により生み出される産業の伸びしろは、相当大きなものと予想しなければなりません。2035年までに、この新しいクリーンなエネルギー産業の波に乗って成長する企業は、ちょうど日本でバブルが弾けたあと、ITの急成長で消費者の購買行動が大きく変化したときと同じくらいのインパクトとなって市場に影響を与えるはずです。
 
 また、規制強化の波も、ちょうど数十年前から進められてきたタバコへの規制と同じようにアメリカ社会を大きく変えてゆくものと思われます。
 こうした未来への予測を、大統領選挙の勝敗によって読み違えないようにすることが、今の日本に求められているのです。
 

日本企業の生き残りをかけたカウントダウンは始まっている

 当然のことですが、クリーンなエネルギーと未来型IT産業とは切っても切れない関係にあります。
 であれば、今ITと通信技術のあり方をめぐってつば迫り合いを続ける、アメリカと中国との対立もさらに深刻になるはずです。そこに新しく選ばれた大統領が国家としてどのような規制を設け、相手を牽制するかは確かに未知数です。中国は国家を挙げて新たな産業の育成に取り組んでゆくでしょう。そしてアメリカは、シリコンバレーシアトル周辺などに集中する先端企業が凌ぎを削って、中国の国家戦略に対抗する技術革新に取り組むはずです。もちろん、民間では両国の企業や人材の交流もさらに活発になるでしょう。
 
 日本での人材開発の戦略が、こうした激しい世界の動きと同化しているかが、今問われています。各論でいうならば、英語教育をはじめ様々な分野で、より海外とネットワークできる人材が育成されるような仕組みが作られているか、という課題も残ります。
 日本企業に残されているサバイバルと進化の時間が限られているという現実が、大統領選挙が終わった後の世界の動きの向こうに、おぼろげながら見え始めているのです。
 

———-
分断が進むアメリカの国内事情について、サンフランシスコ大学で教授をしているPeterさんにインタビューしました。アメリカ大統領選挙を目前に控え、知っておきたいアメリカの「今」が見えてきます。
動画はこちら⇒https://youtu.be/ZXmbVNjCpx8
———-

* * *

『稼げるビジネス英語』飯田 健雄 (著)稼げるビジネス英語』飯田 健雄 (著)
英語で稼ぐ!新しい働き方を実現するためのビジネス英語
一般の英会話は、自分の周りを受動的に説明し叙述する英語なのに対し、ビジネス英語は、実務的課題を解決していくために、周囲に関わり合うための能動的な英語です。単に英文法規則に縛られながら確実な英語表現を習得するものではなく、より実践的な学習がビジネス英語です。
本書では、ビジネス英語ならではの注意点・考え方・異文化間摩擦のメカニズムや、学習法を詳細に解説。これからの先行きの見えない世界で、企業内部の昇進目的だけではなく、英語習得によって、転職や独立、副業ビジネスを考えるビジネスパーソンに必要な「稼げるビジネス英語」が学べる一冊です。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP