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アメリカ大統領選挙から学ぶこととは

It’s time to put away the harsh rhetoric. To lower the temperature. To see each other again. To listen to each other again. To make progress, we must stop treating our opponents as our enemy. We are not enemies. We are Americans.

(激しい論戦をやめるときがきた。熱気を冷まし、お互いを見つめあおう。お互いの言葉に耳を傾けよう。我々と対立した人々を敵とすることはこれで終わりにし、前に進もう。我々は誰の敵でもない。我々はみんな同じアメリカ人なのだ。)
― バイデンの勝利宣言より

社会の分断に揺らぐアメリカの大統領選挙を考える

 アメリカの大統領選挙は、ペンシルベニア州ネバダ州での当選の発表により、バイデン氏が次期大統領に選ばれ、勝利宣言もなされました。
 とはいえ、トランプ大統領が敗北を認めてはいないことへの懸念を日本では伝えています。そして、開票の無効をめぐってトランプ大統領が法廷闘争に出た場合、規定された12月8日までに選挙結果の発表ができず、選挙人の選出にあたって、過去にない逆転劇があるのではないかという解説もなされています。
 
 たしかに、アメリカの大統領選挙のしくみは複雑です。
 有権者による投票は、あくまでも州での勝ち負けを決めるもので、その結果によって各州の選挙人が最終的に投票を行い、大統領が決まることになります。
 しかし、アメリカの主要メディアは、一様にバイデン氏の勝利を伝え、すでにトランプ大統領は過去の人となったかのような扱いに終始しています。
 一方で、当選確実の報道には、どのメディアも最後まで慎重でした。社会が分断され、民意が完全に割れている中で、万が一にも誤った報道をした場合の影響を考慮し、ぎりぎりまでバイデン氏が充分な投票数を獲得したことへの確認を控えていました。
 
 たしかに、これ以上アメリカが分断されることへの強い懸念が、今回の大統領選挙の結果につながったことは否めません。バイデン氏もそのことを意識してか、演説のたびにトランプ支持者との融和を強調してきたのです。
 今回のヘッドラインのように、彼は民主党の候補ではあっても、大統領になった以上は、トランプ大統領に投票した有権者も同じアメリカ人であり、すべてのアメリカ人の利益のために職務を全うすると何度も語っていました。
 
 今回の大統領選挙では、人種問題やコロナへの対応をめぐる政策の違いが争点となりました。
 しかし、実際にアメリカの多くの有識者が危機感を持っていたことがもう一つあったことは、日本ではあまり報道されませんでした。それは、これ以上アメリカ社会が疲弊した場合、世界をリードしてきたアメリカという国家そのものの信用が低下するのではないか、ということへの深刻な懸念でした。
 
 実際に、日本での報道以上に、アメリカではトランプ大統領の政策に批判的だったEUとの結束が、バイデン氏の登場で修復できることへの期待が表明されています。逆にEUを離脱したイギリスは、今回の結果に対して神経を尖らせていることも興味深い事実です。
 さらに、トランプ政権との緊密な連携を強調し、中東での立ち位置を強化してきたイスラエルも、バイデン氏に祝福のメッセージを送り、アメリカの政策がどのように変化するのか注視しています。こうした国際関係の実情を見た場合、選挙の結果をアメリカ社会が尊重しない場合の影響は深刻です。
 そうした背景から、今ではトランプ大統領を誰がいつ諌(いさ)めて選挙結果を受け入れるようにするのか、有権者もメディアも注目しているのです。
 
 アメリカは州の力が強い国であることは、これまでも何度か解説してきました。
 しかし、大統領はそんな分権主義をモットーにしたアメリカを統合する象徴でもあります。その要が揺るいだとき、アメリカ社会は本当に分断されてしまう恐れがあるのです。アメリカの憲法に詳しい現地の専門家は、そうした意味からも、トランプ大統領がどのようにして振り上げた拳を下ろすのかが、アメリカの国益に直結する課題であると見ているようです。
 

大統領選挙を通して捉えるアメリカ人とアメリカ社会の事実

 さて、ここで、今回のアメリカ大統領選挙から我々が学ぶべきことは何か、ということを考えてみたいと思います。
 我々はともすれば、アメリカ人ははっきりとものを言い、自己主張も強い国民だと思っています。たしかに、それは事実です。
 ただ、そこで誤解してはならないことは、感情に訴えた強い主張をアメリカの社会は必ずしも受け入れないという、もう一つの事実です。
 
 法的根拠や論理性に欠如し、ただ自らの感情を強く主張することは、アメリカ社会ではむしろタブーなのです。自らの考えをいかに論理的に、かつ具体的な例示をもって主張するかという点に、人々は強いこだわりをもっています。トランプ大統領が、今回の選挙結果に対して示した行動は、このアメリカ人の常識からすれば、むしろ逆効果の、感情的な主張なのです。
 バイデン氏の演説などにもよく見られる、具体的な数字や事実を土台にした論理展開に注目しなければなりません。
 自らの主張や考え方が、そうした土台の上で表明される限り、アメリカ人はそれがどんなに激しく強い言葉でも、対応しようとするのです。
 このことを知らずに、ただ強い言葉だけを主張した場合、逆に恐ろしいほど手厳しく反論され、時には誰も振り向いてくれないことがよくあります。今、トランプ大統領が気をつけなければならないことは、その落とし穴にはまらないことに尽きるのです。
 
 次に、大統領選挙で、極右勢力がトランプ大統領を公然とサポートし、大統領もそれを否定しなかったことを考えてみましょう。
 こうした勢力は日本も含め世界のどこにでもある、社会への潜在的な脅威です。これをアメリカの有権者が感じ取ったことが、バイデン候補への得票につながったことは否めないはずです。
 日本社会も、ともすれば偏狭なナショナリズムへの脅威に晒されてしまいます。国を思うことはよいことだという論理のすり替えによって、様々な政策や民意がつくられがちです。
 
 トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」という言葉が、4年前に多くのアメリカ人の心をとらえたことも事実でしょう。
 しかし、アメリカ人がアメリカのことを思い、愛国心を持つことが、世界の利益につながらない限り、こうしたスローガンが単なるポピュリズムを超えて、アメリカ社会そのものを分断させる危険なスローガンへと化学変化を起こした事実を見つめたいのです。
 

アメリカ社会の4年間の歩みは我々に何を伝えているのか

 ナショナリズムは世界の利益とつながっている限り、それは健全な社会活動といえるはずです。しかし、世界を排除し、自国の利益だけを優先したときに、右傾化した国家では、国内でも人種差別や様々な偏見が蔓延するのです。
 アメリカの社会が歩んだこの4年間は、そんな教訓を我々に与えてくれました。
 振り返って日本の社会を見つめたとき、この教訓をどのように活かしてゆくか、さらに考えてゆきたいものです。
 
 大統領選挙の結果を受けてバイデン政権が誕生するまで、まだ紆余曲折があるでしょう。それは前代未聞の珍現象です。
 しかし、アメリカ人が常に誇りとし、大統領就任式の時に必ずくり返し強調される、「4年ごとの平和で民主的な権限の移行」という常識が覆されないことを祈りたいと思います。
 

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