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メモをとる部下を評価しないアメリカ人の背景とは

The mistakes that people will make are of much less importance than the mistake that management makes if it tells them exactly what to do.

(人々がミスを犯すことはそれほど大きな問題ではない。むしろマネジメントが人々に何をすべきか、事細かに指導することの方が弊害としては大きいのだ。)
― 3Mの中興の祖、ウィリアム・マックナイト語録 より

上司は部下の仕事の進め方を常に把握しておく必要があるのか

 日本企業が海外に進出して、現地で部下のマネジメントを行う際に、意外と陥りやすい罠があります。上司が部下を指導する方法におけるビジネス文化の違いに気がつかず、現地の部下のモチベーションを知らない間に低下させてしまうことがあるのです。
 
 ここでその事例を、日米間のマネジメントにまつわる常識の違いにスポットをあてて、解説してみます。
 
 「上司は部下の仕事についてしっかりと把握し、常に細かい指導を行うべきだ」というコメントに対して、「その通りだ」と思う人が日本には多くいます。
 そして、アメリカではどうだろうかと日本人に問いかけると、おそらくアメリカ人も上司の強いリーダーシップを求めているはずなので、この問いかけにはそこそこ肯定的なのではと多くの人が予測します。
 しかし、実際はまったく逆の結果が出ているのです。
 
 この問いかけに、アメリカ人は口を揃えて「そうは思わない」と答えます。
 さらに、「上司は部下の仕事の進め方について把握しておく必要はなく、むしろ色々と細かい指導を受けるようだったら、そんな会社にはいられない」とまで彼らは語ります。
 それに対して多くの日本人は、上司ならば部下のことをしっかりと把握することは当然なのでは、と反論します。上司はよく「報連相」という対応を部下に求め、それをしっかりと行う部下を高く評価する傾向があることも知られています。
 
 では、アメリカに「報連相」はないのでしょうか。
 アメリカでは、上司は日本ほどにこうした行為を求めません。
 アメリカの組織では、往々にして結果をもとに上司が部下を評価し、問題があればその段階で指摘をして、話し合いを行うのです。その話し合いを積み重ねることで、上司は部下の業績を評価します。
 
 さらに詳しく解説するならば、アメリカの企業では、業務のプロセスよりも結果を常に重視するマネジメントに徹しているのです。
 

プロセスよりも結果、意見の可否よりも積極性を重視するアメリカ

 上司は部下に仕事を任せます。そして、そのやり方やプロセスについては、アドバイスを求められない限り、ほとんど口を出しません。子供の頃から、個性をもって自分のやり方で課題を克服するように教育を受けているからです。つまり、個々人が率先してイニシアチブをとることを何よりも奨励しているのです。
 
 その上で、結果が思わしくないときは、上司は部下を呼んで話し合うのです。
 もちろん、その逆も必要で、良い結果が出たときも、上司は満足していることを口頭でしっかりと部下に伝え、さらに何か改善点はないか話し合います。
 こうした話し合いを通して、上司は部下に適切なフィードバックを行います。このフィードバックを積み重ねることは、極めて大切な行為です。この積み重ねが、毎年行われる部下との雇用条件に関する話し合いのベースとなるからなのです。
 
 つまり、アメリカでのリーダーには、いかに適切なフィードバックを積み重ねながら部下や同僚を目標に向かって導いてゆくか、というスキルが求められるのです。
 
 ですから、アメリカの会議などでは、部下は上司に遠慮なくどんどん自分の意見をアピールします。日本の会議などで見かける、若い社員が黙って上司の発言をメモしているだけという行為は、ほとんど見かけません。それは、顧客を前にした打ち合わせでも同様です。
 たとえ新入社員でも、上司との意見の食い違いがあったとしても、堂々と自分の発想や思いを表明します。最終的に自らの発言に間違いがあったとしても、部下が積極的に発言したことに対して、咎められることはないのです。
 
 ある社長に「あなたの会社の若手社員が、上司と共に顧客の前に座っているとき、もしその社員が黙って上司と顧客とのやりとりをメモしていたら、どう思いますか」と問いかけたことがありました。
 日本人の社長は、それってよくあることですよね。上司の背中を見て仕事を覚えるためには必要な行為ですからね、と答えます。
 それに対して、アメリカ人の社長は、そんな部下がいると、その人を雇ったことを後悔してしまいますよと、全く逆の反応をするのです。
 
 「では、もしその部下の意見が稚拙であった場合、顧客に失礼になることはないのですか」と突っ込むと、「意見を出している以上、顧客も積極的に対応してくれていると評価するはずですよ。若手社員の発想にも思わぬ斬新なことがあるかもしれないし、意見を戦わせることで、もっと高いレベルのアイディアに到達することもあるはずですから」と、極めて前向きに解説してくれました。
 

コミュニケーションギャップの根本は英語力ではなく「誤解」

 さて、ここまで説明すると、日米間のコミュニケーションギャップの思わぬ落とし穴に気づく人もいるかもしれません。
 
 つまり、日本の常識で日本人の上司と部下のチームが、アメリカ側と交渉をしたり商談をしたりするときに、両国の部下に対する期待や対応の違いが、お互いの評価に対して思わぬ誤解を生んでしまうことがあるのです。
 黙ってメモをとる社員が実際には極めて優秀な社員でも、アメリカ側から見れば、この人はなぜここに座っているのだろうと、訝しく思われるかもしれません。さらにひどい場合は、この会社の人はあまり優秀ではないなと、誤解されるおそれもあるのです。
 
 逆に、アメリカ人が打ち合わせにおいて、上下関係などないかのように激しく議論を始めると、なんとまとまりのない会社だと日本側は思うかもしれません。
 ある人は、アメリカ人同士がビジネスで意見を戦わせているときは、あたかも喧嘩をしているかのように見えるのだと、感想を述べています。そんな会話の中に日本側が加わるのは至難の業と言えましょう。
 
 日本では、海外とのやりとりがうまくいかないとき、得てしてその原因を英語力の問題にしてしまいがちです。
 しかし実際は、こうしたビジネスにまつわる常識や文化の違いからくる「誤解」こそが、共同事業に亀裂を入れてしまう真犯人なのです。
 
 異文化間のコミュニケーションのあり方をしっかりと意識しながら相手側と対応することに、民間も政府もまだまだ慣れていないようです。
 

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