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デジタル時代に却って深まる異文化の誤解

Every business has guidelines about how feedback is handled. A strong feedback culture welcomes feedback and uses it to foster the growth of individuals, teams, and the organization. Employee voices are valued.

(全てのビジネスに、適切なフィードバックの与え方についてのガイドラインがある。個人、チーム、そして組織を強化し成長させるためにフィードバックを実践することを奨励する強力な企業文化が求められる。従業員の声は大切だ)
― Quantum Workplace より

コミュニケーションツールの進化によって深まる誤解

 今回は、現代の急速な社会の変化のなかで忘れがちな、人と人とのコミュニケーションでの思わぬ落とし穴について解説します。
 コミュニケーションツールの進化によって、これからますます人と人との距離が近くなると予測されるからです。すでに我々はバーチャルであっても、あたかも隣に相手がいるような感覚で、様々なツールを使って世界中の人が話し合い、ビジネスができる時代にいます。そんな現代社会のなかに、どのような見えない罠があるのでしょうか。
 
 2022年はオミクロン株の感染拡大への不安によって幕を開けました。今回のパンデミックは人々のライフスタイルを大きく変え、その変化がもとに戻ることはないのではと言われています。
 例えば、アメリカでは多くの人がオフィスでの勤務をやめ、Zoomなどを使って自宅で仕事をするようになったため、より物価が安く、自然も豊かな地方都市に引っ越す人が増えました。いわゆる巣ごもり現象が国内の人口構成にも影響を与えているのです。
 一方で、こうした動きをグローバルレベルで支えているのが、急速なAI化でしょう。海外とのビジネスに必要なメールのやり取りなどをサポートする自動翻訳システムも進化し、Google翻訳よりも質の高い翻訳ツールもあらわれて、海外とのコミュニケーションを円滑にしています。
 
 また、海外への投資などの場面では、トークナイゼーションという個人情報を無限大の数字の配列と結びつけて保護する技術が開発されるなかで、デジタル通貨での取引が急速に進化しそうです。
 一部の専門家は、そう遠くない将来に現在の通貨がなくなり、株式市場のあり方も大きく変化するだろうと予測します。つまり、デジタル通貨によって、個人がオンラインでモノを買うのと同じ感覚で、ありとあらゆるモノや発想に投資ができて、商行為ができるようになれば、現行の株式市場そのものの存在価値がなくなるのではないか、というわけです。
 こうした近未来の状況への意識が最も希薄なのは、教育業界であり官公庁だという批判は、日本だけではなく世界中に蔓延しています。
 
 さて、こうした社会構造の変化とAIの進化のなかで、注意しなければならない領域があります。それは人と人とのコミュニケーションツールの利便性が増せば増すほど、人間同士の誤解を修正するチャンスが減少するという課題です。この課題は、どのようなもので、それを乗り越えるために必要なノウハウとは何かを紹介します。
 

ツールでは埋められない異文化コミュニケーションの溝

 その具体的な事例の代表が、表題に記したビジネスでのフィードバックについてのノウハウです。
 フィードバックとは、ビジネスにおいて互いがその成果や課題について意見を交わすことで、特に欧米では上司から部下への一方向だけではなく、双方向でフィードバックを与え合うことが奨励されています。しかし、このフィードバックの与え方は、個々人が所属する文化によって大きく異なるのです。
 
 例えば、あなたが自分の職場などで、若手社員の仕事の能率を向上させるために、「若いうちにどんどん経験を積むことはいいことだ。君はまだ若いからしっかりと働けば、きっと仕事の効率もアップするはずだよ」というふうに注意したとします。
 これを自動翻訳で英語にした上で、アメリカ人の若手社員に激励の意味を込めてこのメッセージを送ったら、どうなるでしょうか。
 「私はしっかりと働いてないということですか。しかも、年齢が若いことと仕事の課題と、どんな関係があるのでしょうか。年齢に対する差別じゃないですか」というような反応が返ってきて、激励の意図が侮辱や差別と捉えられてしまう可能性が大きいのです。
 これは、自動翻訳のツールがどんなに進化しても埋めることのできない、コミュニケーション文化の違いからくる深刻な誤解なのです。
 
 実は、この行き違いは欧米に進出している日系のオフィスで頻繁に起こっています。この注意を激励と捉えるかどうか欧米の人に問いかけたところ、9割以上の人がそれを失望や怒りにつながるフィードバックだとコメントしています。ところが、同じメッセージを中国などアジアの多くの国で若手社員に伝え、反応を見るとそれは真逆でした。ほとんどの人がこれを素晴らしい激励と捉えていることがわかりました。
 つまり、アジアの人は「若者よ、大志を抱いて頑張れよ」という先輩からの温かいアドバイスと捉えたのです。
 
 この実例は、同じメッセージが文化によって全く異なった意味をもって届けられるというリスクを実証しています。
 日本人の場合、ここに記したように反発されると、どのようにすればよいのか、ただただ戸惑ってしまいます。あるいは、自分の気持ちをわかってくれない相手に怒りを覚え、さらに強いメッセージを与えることで、人間関係の修復が不可能になってしまうかもしれません。
 欧米の人から見れば、これは侮辱を超えた年齢に対する差別、さらには人種的偏見に基づく不当なパワハラと捉えられるかもしれません。リスクは深刻です。
 さらに、商行為がデジタル化すればするほど、こうした異文化間での人的な誤解が治癒されることなく、瞬時に商談が破たんするかもしれません。
 
 自動翻訳やデジタル化された通訳機能の罠はここにあります。こうした誤解が生じたとき、その人が面前にいれば、様々な方法で誤解が解けるかもしれません。しかし、機能を優先したZoomやSkypeなどでのオンラインミーティングでは、関係修復のチャンスはより少なくなります。言葉の背景の雰囲気やムードが通じないからです。
 

人間であるからこそ求められる互いの文化への理解と配慮

 人と人とのコミュニケーションは言葉そのものではなく、言葉がどういう意味をもって相手に受け取られるか、という要因への配慮がなければ促進できません。しかも、相手の受け取り方は文化によって異なるわけですから、事前にその国の風習やコミュニケーションスタイルへの理解が必要です。このことは21世紀になった今でも軽視されがちです。
 
 デジタルの時代、コンピュータでのディープラーニングの進化への期待が集まっています。コンピュータが膨大なデータを吸収し、様々なケースへの対応方法を学んでゆくことで、自動運転や自動翻訳、自動通訳などの機能を自由に使いこなせる日が目前に迫っています。
 それだけに、文化の違いへの配慮と誤解を回避するためのノウハウが求められます。この部分はコンピュータが我々に残す、人間が対処しなければならない最後の領域なのかもしれません。
 

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『言い返さない日本人[新装版]海外との究極のコミュニケーション術』山久瀬 洋二 (著)言い返さない日本人[新装版]海外との究極のコミュニケーション術』山久瀬 洋二 (著)
その態度が誤解を招く!異文化の壁を乗り越え、ビジネスを成功させるコミュニケーション術を伝授!
欧米をはじめ、日本・中国・インドなどの、大手グローバル企業100 社以上のコンサルタントの経験を持つ筆者が、約4500名の外国人と日本人への取材で分かった、“グローバルな現場で頻繁に起こるビジネス摩擦”の事例を挙げ、それぞれ の本音から解決策を導き出します!外国人とのコミュニケーションで、単なる言葉のギャップでは片付けられない誤解や摩擦、そして行き違いに悩むビジネスパーソンに向けた「英語で理解し合う」ための究極の指南書です!

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