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オミクロンの米軍からの蔓延の背景にある日本のあり方

For the purpose of contributing to the security of Japan and the maintenance of international peace and security in the Far East, the United States of America is granted the use by its land, air and naval forces of facilities and areas in Japan.

(日本国の安全及び国際社会、そして極東地域の平和を維持するために、アメリカ合衆国は日本国の領土に陸海空軍のための土地と施設を使用することが認められる)
日米安全保障条約 第6条 より
 

It is the duty of members of the United States armed forces, the civilian component, and their dependents to respect the law of Japan and to abstain from any activity inconsistent with the spirit of this Agreement, and, in particular, from any political activity in Japan.

(日本国にて、日本国の法令を尊重し、協定の精神に反する活動、特に政治的活動を慎むことは、合衆国軍隊の構成員及び軍属とその家族の義務である)
日米地位協定 第16条 より

米軍関係者の基地外での行動を容認する根拠とは

 オミクロン株の感染者が沖縄県山口県岩国市で急拡大している背景に、アメリカの軍属からの感染拡大があるということが、マスコミで大きく報道されています。
 そもそも、オミクロン株の感染が問題視されたとき、日本政府は外国人の入国を禁止する措置をとりました。しかし、アメリカ軍の軍属は例外でした。さらに米軍関係者が基地の外に出て、国内を移動することもできました。コロナが蔓延しているなかでも、こうした行動が認められている根拠として、日米地位協定があると政府は説明しています。
 
 では、日米地位協定とはどのようなものでしょうか。
 日米地位協定は、1951年に日本がサンフランシスコ講和条約によって、第二次世界大戦の交戦国と正式に平和条約を締結したとき、併行してアメリカと交わされた日米安全保障条約に基づいて、その後合意した協定です。アメリカ軍が日本の領土を使用するための条件を定めた協定で、その締結の根拠は、今回のヘッドラインで紹介した日米安全保障条約の第6条に起因しています。
 
 ここで、日米地位協定の第16条にスポットを当てます。そこにはアメリカの軍関係者はその協定の精神に基づいて、日本の法律を尊重し、協定の精神に反する活動を慎むよう規定されています。そこに記されている「協定の精神」こそ、地位協定の根拠となる日米安全保障条約の第6条に他なりません。第6条では、アメリカ合衆国は日本の安全に貢献するために日本国内の土地と施設を利用できることを認めているのです。
 
 では、第6条に記されている「安全 security」とは何でしょうか。それは言うまでもなく、防衛上の安全を意味する言葉です。
 それでは、国際的に懸念されている感染症の蔓延を防ぐために、アメリカは日本に協力しなくてもよいのでしょうか。日米安保条約にも地位協定にも、そのことは明記されてはいませんが、日本を感染から守ることは日本の「安全」を維持することにはならないのでしょうか。
 それは曖昧な領域であるかもしれません。であれば、曖昧であることを常に危惧して、この2つの条約の精神のもとでアメリカ側の対応を要求するのは、日本の外交能力次第といっても差し支えありません。
 

「契約」のとらえ方における日米の違いと国際交渉の常識

 蔓延が深刻な状況になり、マスコミが騒ぎ始めて、やっと日本政府はアメリカに感染防止への協力を要請し、アメリカ側も協力に同意しました。
 しかし、アメリカでコロナウイルスが6,000万人近くの感染者を出し、死者は84万人に至ろうとしていることは、以前から周知されていました。それだけではありません。アメリカではマスクを着用することを嫌う人が多く、出入国時の検疫体制もほとんど取られていないことは、公然の事実です。実際、アメリカ入国時にワクチン接種証明やPCR検査の結果を示した書類の提示、体温のチェックも求められなかったことは、私自身が経験しています。
 踏み込めば、そうしたアメリカの常識や状況を、何ら懸念することなく日本に持ち込むように規定したのが、地位協定ではないはずです。特にその第16条と、その根拠となる安保条約の第6条の精神を解釈すれば、日本政府は問題が起こる以前に、感染防止のためにアメリカ側に具体的な対策を提示する充分な権利があったはずです。この怠慢によって、日本の「安全」が踏みにじられたことになるのではないでしょうか。
 
 ここで是非理解したいことがあります。それは、日本人が持つ、アメリカは契約に対してうるさい国で弁護士が幅を利かせている、という誤解についてです。
 確かにアメリカの契約書は分厚く、細かい規定が多く、弁護士も執拗に交渉します。しかし、アメリカは同時に自らの利益に対して敏感で、利益を損なうことには驚くほど柔軟に対応し、契約内容すら修正して改善しようとします。その柔軟性を日本人は理解していないようです。
 契約はあくまでも相互で合意したことを記した文章に過ぎず、必要に応じて運用や改定について交渉できることは、彼らにとって当然の常識なのです。しかも、それはその課題を意識した者が表明しない限り、相手は耳を貸しません。これは国際交渉の常識です。
 
 今、アメリカにとって、日本との軍事同盟を強固にすることは、彼らの利益に大きく貢献するはずです。日本の世論が硬化することは、その利益に反するリスクとなります。日米地位協定に基づいてコロナの蔓延防止を厳しく要求することは、日本側が充分にイニシアチブを取って詰め寄れる事柄なのです。
 また、ただ漠然と「感染防止に協力を」という方法では、国際社会は動きません。曖昧な表現は誤解のもとで、相手にアドバンテージをとられる原因にもなりかねません。具体的にどのような規定を設け、どのような感染防止対策をとるのか、細かい要求をするべきです。
 
 よく、国際社会では内政干渉はタブーであると言われ、日本はその国際法の精神を律儀に守ろうとします。しかし、例えば、アメリカは中国国内の人権問題に対して抗議をし、経済制裁などを課しています。内政干渉はしていないものの、自国の影響力を行使することで、他国に堂々と圧力をかけているのです。
 日本もアメリカに対して、必要であれば同様の圧力をかけることができるはずです。極東での米軍のプレゼンスは、日本が協力してこそ成り立つわけですから。これは交渉術のノウハウであり、交渉能力の問題なのです。ここ数ヶ月コロナの感染者がかなり抑え込まれていただけに、この失態による感染拡大は実に残念なことと言えましょう。
 

日本の官民に求められる交渉能力と大きな課題

 最後に、もう一つの事実をお伝えします。
 日本はアメリカ軍に無料で守ってもらっているわけではありません。日本政府は我々の税金から、米軍の駐留と活動に対して約5,900億円の経費を支払っており、これは国家予算の0.5%以上を占めています。その額は、海外の事例と比較しても突出して大きなものです。
 問題は、この支出についてアメリカの有権者のほとんどが無知であるということです。大学卒業者をとってみても、その事実を把握している人はごく一部で、一般的にはアメリカが自分の努力で日本を守っているというのが常識になっています。
 
 交渉力の一つに、世論形成があります。世論形成と、相手の利益とそれに対するリスクを周知した周到な交渉力。さらに、迅速で具体的なアクションの要求とその事実の公開という3つの基本動作が、日本に求められる大きな課題です。
 そして、このパフォーマンスの低さの実情は政治家、官僚のみならず、民間企業の海外との交渉においてもしばしば見られる現状だということを、警鐘として記しておきたいと思います。
 

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