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移民社会アメリカでのアフガニスタン難民と英語教育

Now, many people from Afghanistan are starting their lives again, and in some cases reconnecting with Americans, they knew during the war.

(今アフガニスタンから移住してきた多くの人々は、彼らが戦争中に出会ったアメリカ人と連携しながら新しい生活を始めている)
― PBS より

アフガン難民を受け入れるアメリカの英語教育産業

 コロナの影響で、アメリカで学ぶ留学生の数が激減し、大学や留学に関連したアメリカ国内の英語教育産業が大きな損失を被ってから、すでに2年が経過しました。
 しかし、2021年の後半からその動きに変化が起きています。まず、アメリカがいわゆるコロナとの共存を政策に掲げ、海外からの入国についても無条件で門戸を開いたことで、留学生も以前より気軽に渡米できるようになりました。
 それに呼応するかのように、中南米やヨーロッパ、さらに中東などからの入国者が増加しているのです。日本や中国のような海外からの入国に対する厳しい規制がすでに撤廃されていることは、そのまませき止められていた留学生の入国にも良い影響を与えたわけです。
 
 その中で、アメリカの語学学校に注目すべきことが最近起きています。
 それは、アフガニスタンからの難民のアメリカへの帰化を促進させるために、英語教育業界が彼らを積極的に受け入れているという事実です。彼らは決してボランティア活動をしているわけではありません。アメリカは去年のカブール陥落の際に8万人近く、最終的にはおおよそ12万人のアフガニスタンからの避難民を受け入れ、アメリカでの居住を認めています。
 そもそもアメリカは、長年にわたってアフガニスタン問題で最も中心的な役割を演じてきただけに、今後もアフガニスタンからの難民は増え続けるのではないかと予測されています。それは、国際社会へのアメリカの責任であるという指摘もあるほどです。タリバン政権下で生命の危機のリスクにさらされているアフガニスタン人は500万人ともいわれ、彼らが国外に逃れた場合、その主要な目的地がアメリカなのです。
 
 元々移民国家であるアメリカには、アフガニスタンのみならず、世界各国から経済的政治的な事情によって多くの人々が亡命してきました。その関係で、アメリカでは移民への支援組織も行政と民間の双方で充実しています。
 今回もアフガニスタンからの避難民が到着すると、さまざまな団体が彼らを迎え入れ、新しい生活に馴染めるように扶助を行いました。ヘッドラインで紹介しているような、アフガニスタンで活動していたアメリカ人が組織した支援団体もその一つです。それ以外にもさまざまな民間の支援団体、教会での救済活動など、多様な組織がそうした活動に加わっています。英語教育はその一環に他なりません。支援組織は多くが非営利団体ですが、彼らは避難民の教育の費用を予算化し、それを英語教育産業に支払うのです。
 もちろん、今回のアフガニスタンからの避難民に対しては、政治的な亡命であるという観点からも、政府も予算を割いて、さまざまな扶助を行っています。それは、コロナによって経済的なダメージを受けた英語教育産業にとってもありがたい機会となり、双方にとってウィンウィン(win-win)の環境ができ上がるのです。
 

カブール陥落からアメリカに来たアフガニスタンの人々

 アフガニスタン問題におけるアメリカの失敗には、アフガニスタンでの伝統的なしきたりや風俗習慣をあまりにも急激に改革しようとしたことへの反発が、原因の1つだという指摘もあります。それは、イラクでのISの勃興などとも共通する現象でしょう。民衆はアメリカの価値の押し付けへの反抗の証として、タリバンを支持し、その波が地方から首都カブールへと波及したのです。
 一方、カブールには、タリバンから解放され、国際社会の仲間入りをしたことによって恩恵を被った人々も多数いました。女性が解放され、そうした新しい機会へ自分の将来の夢を託しました。こうした人々はアメリカをはじめとした多くの国際機関にも勤務し、都市部では次第に海外の常識が通用する社会環境が整えられていきました。その矢先にカブールが陥落したのです。
 
 ですから、アメリカに逃れてきたアフガニスタン人の多くは、それなりのレベルの英語を話す人々も多いはずです。彼らはアメリカでさらに自らの生活レベルを向上させようと、英語力に磨きをかけるわけです。
 ある意味で、彼らがアメリカに来たタイミングが良かったとも言えるでしょう。移民を受け入れることに批判的だったトランプ政権下では、カブールに何が起きようと、アメリカの門戸がここまで開くことはなかったかもしれません。
 
 我々は、アメリカで起きているアフガニスタン問題への処理を見るとき、アメリカという超大国の2つの顔を見るのです。
 1つは、アフガニスタン問題での失政に象徴される、アメリカの利害によって世界情勢を左右させようとする大国の横暴な姿です。そして、もう1つは世界からの移民を受け入れ、それに寛容であることから社会が育成されるアメリカの姿です。この全く異なる2つの顔が、アメリカの政策や世論の動向に常に影響を与えるのです。
 今回は、この2つの顔のうち、アメリカの移民社会とアフガニスタンとの関係に目を向けてみました。
 

アメリカに同化し世界戦略を支える移民たち

 アメリカにアフガニスタンからの移民が入国した歴史は19世紀にまで遡れます。
 しかし、特に1979年に旧ソ連がアフガニスタンに侵攻し、同国の政情が不安定になって以来、移民の数は増え続け、アフガニスタン系の血を直接受け継ぎアメリカで生活する人々は、2019年の段階で15万人以上と言われていました。この数はアフガニスタン系1世とアフガニスタンに生まれた後、幼くしてアメリカに移住してきた1.5世と呼ばれる人々の人口で、実際にアフガニスタンにルーツを持つ人々の総数は、さらに多くなることは言うまでもありません。
 彼らはすでにアメリカに同化し、アメリカの中産階級、さらには高所得者の仲間入りをしている人も増えています。彼らは他の移民と同様、母国のアフガニスタンとも家族や親族の関係を通して深くつながっています。今回新たにアメリカに移住してきた人々は、アメリカ社会に同化してゆく過程で、こうした移民の「先輩」からの支援も受けることになります。
 
 また、アフガニスタンからの移民の中には、外交官や大学の研究者として活躍する人も多くいます。彼らは、アフガニスタンや中東への知識や外交のノウハウを提供する重要なリソースとして活動しているのです。彼らがアメリカのアフガニスタンや中央アジア関連の専門家の一翼を担っているわけです。
 こうした現象は、アメリカの移民社会全般に言えることです。アメリカの世界戦略を支えているのは、それぞれの国から来てアメリカで生活する移民に他ならないのです。
 

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『映画シナリオで学ぶ英語表現365』鶴岡 公幸、佐藤 千春、Matthew Wilson (著)映画シナリオで学ぶ英語表現365』鶴岡 公幸、佐藤 千春、Matthew Wilson (著)
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