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今後が気になるトラック運転手の抗議が招いた欧米での混乱

It was a small protest at first. Not every driver wanted to protest, because it would hurt their business. But the extreme right wing in both countries began to celebrate the protesters as heroes.

(それは些細な抗議行動だった。そもそも運転手の誰もが望んだ抗議行動ではないでしょう。というのも、彼ら自身の仕事にも悪い影響を与えかねないのだから。しかし、両国の極右の連中が、抗議行動をする運転手を英雄に祭り上げたのです)
― 知人の手紙 より

小さな抗議行動が世界的な混乱をもたらすまでに拡大した背景

 ヘッドラインの通り、それはアメリカからカナダに入国するトラック運転手への検疫強化に対する小さな抗議行動から始まりました。この抗議は、カナダ政府がワクチンの接種とマスクの着用を法制化しようとしたことに始まりました。もし、カナダがコロナの感染防止のためにワクチン接種を義務化した場合、アメリカやメキシコなどからカナダへの物資の輸送を担うトラックの運転手が検疫に引っかかり、大きな混乱を招くおそれがあったのです。
 ところが、この抗議行動が思わぬハレーションを起こし、北米全域、さらにはフランスを中心とした欧米の広い地域に拡散したのです。
 
 運転手たちはカナダの首都オタワや、アメリカとカナダの輸送の要でもある国境の橋にトラックに乗って集結し、道路を封鎖してピケを張ります。北米の物流が大混乱に陥ったのです。
 小さな抗議行動がどうしてここまでエスカレートしたのでしょうか。
 その背景には、アメリカの右寄りの政治家の介在がありました。ワクチン接種を拡大し、マスク着用を推し進めようとする民主党政権への当てつけを狙い、カナダでのトラック運転手の抗議行動に対する支持を表明したのです。トランプ前大統領、テッド・クルーズ(テキサスの上院議員)氏など、多くの政治家が運転手の行動に賛辞を贈り、活動のための資金調達まで行ったのです。
 
 折しも、カナダのトルドー首相は自らがコロナの陽性者となり、隔離中でした。しかし、事態の深刻な展開に、2月7日になって公の前に姿を現し、抗議行動が民主主義そのものを力で破壊しようとしていると、議会において強い調子で非難し、活動の自制を訴えました。
 
 すでに抗議に参加している運転手たちは「フリーダム・コンボイ(Freedom Convoy)」として英雄視され、抗議行動はカナダ経済にも深刻な影響を与えるまでに拡大してしまいました。2月14日現在でトラックによる首都の道路、そしてアンバサダーブリッジというデトロイトとカナダのウィンザーとの間にかかる橋の封鎖は、すでに2週間以上におよびます。デトロイトはいうまでもなくアメリカを代表する産業都市です。この橋を通過する物資はカナダ・アメリカ間の貿易の4割にもなるといわれています。それでなくとも、コロナによる物資の不足や物流の滞りが問題になっている中、「フリーダム・コンボイ」の抗議行動は看過できないまでに人々に脅威を与えたのです。このままでは、単にカナダ国内の問題だけでは収まらなくなります。それは日本も含めたグローバルな経済活動そのものに水を差してしまいかねないのです。
 
 カナダ政府もたまりかねて警察によるデモの排除に乗り出しました。アンバサダーブリッジでの混乱はようやく収束に向かいつつあるものの、このことがもたらした社会的な混乱は今後も尾を引いてゆきそうです。
 もちろん、影響はカナダだけにとどまりません。今週、アメリカンフットボールの優勝決定戦として知られるスーパーボウルが行われるアメリカでも、警察官による厳戒態勢が敷かれています。さらに、「フリーダム・コンボイ」の活動に触発された人々が、フランスでも政府のコロナ規制に対して大規模なデモを行うなど、影響の拡大が懸念されているのです。
 

実力行使の動きに見るアメリカ社会の分断の複雑さ

 今回の騒動は、昨年の1月6日にアメリカ大統領選挙の結果に不満を抱いた暴徒が、米国連邦議会議事堂に乱入した事件と類似しています。言論ではなく、実力で社会秩序に影響を与えようという動きが収まりそうで収まらず、何かのきっかけによって執拗に再燃する状況を見るときに、社会の隅々に広がる確執の根深さを見せつけられます。
 それは、長年にわたって鬱積した、経済、教育、さらには都会と地方の格差などが複雑に絡み合い、人々がすでに会話では和解できないまでに対立していることを物語っています。
 
 分断の構造は複雑です。アメリカなどで頻繁に起きているアジア系へのヘイトクライムの場合、それは単にコロナウイルスが中国からもたらされたことに起因しているわけではありません。また、白人と黒人との対立が差別の原因という単純なものでもありません。経済的に困窮し、教育の機会にも恵まれなかった人々が安易なプロパガンダに喝采を送っていることを、一部の政治家が巧みに利用することで、こうした問題がさらに深刻になっているのです。それは、アジア系への暴力行為の多くに、本来差別されてきた黒人が関わっている現実からも見て取れます。
 
 コロナは医療サービスを充分に受けられない貧者に対して猛威を振るいました。そこに、トランプ前大統領がコロナのことを「チャイナウイルス」と公言し、人々を煽ったことがアジアヘイトの原因になりました。誰もが心の中で思っていた鬱々とした閉塞感に油を注いだのです。
 そうした意味では、今回のトラック運転手の抗議活動にも同じ図式が当てはまります。北米の物流を担う巨大トラックの運転手の抗議活動は、右翼の政治家にとってはまさしく絵になるものでした。刺青をした逞しい腕と大きな体、そしてジーンズとTシャツでハンドルを握るマッチョな男の姿というステレオタイプなイメージに、「自由の国アメリカ」というスローガンを重ねることで、彼らはコロナへの繊細な対応を余儀なくされている政府を容易に批判できたのです。
 
 さらに、アメリカ社会の分断は、アメリカそのものの経済力や国際的な影響力にも影を落としてしまいます。中国にしろ、ロシアにしろ、それは自国の力を外に向ける絶好のチャンスです。ですから、こうした分断を促進する背景にロシアの存在を疑う人が多くいることも、ここで付け加えておきます。人々が内政でも外交でも疑心暗鬼に取り憑かれ、不安が恐怖へと移行しないよう、冷静な対応が求められているわけです。
 

コロナウイルスの感染対策が政治利用されてしまう悲しい現実

 そして、そうした願いとは裏腹に、悲しいことにコロナウイルスの感染拡大という人類にとっての惨事を、政治家がそのまま自らの利益のために政治利用しているという現実を見逃してはいけないでしょう。
 ワクチン接種とマスク着用というごく当たり前の対策が、ここまで社会の分断のために繰り返し利用されたことに、多くの人は失望しているはずです。その背景には、なかなか収束しないコロナの脅威に人々が心身ともに疲れきっていることも挙げられます。
 
 今、政治家は誰がリーダーになっても、予測がつかないコロナ対応への課題に翻弄されるはずです。コロナを使って相手を陥れても、そこには誰も勝者はいないはずです。しかし、アメリカのみならず、欧米各地、さらには日本でもコロナは頻繁に政治利用されてしまいます。
 今回の「フリーダム・コンボイ」のデモンストレーションが政治利用されることで、欧米社会にこれ以上の混乱を招かないことを祈るばかりです。
 

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『The Elon Musk Story イーロン・マスク・ストーリー』トム・クリスティアン (著)The Elon Musk Story イーロン・マスク・ストーリー』 トム・クリスティアン (著)
ファンタジーやSFの世界が好きだった少年は、わずか12歳でゲームソフトを開発・販売するなど、早くから異彩を放っていた。再生可能エネルギーの可能性と人類の宇宙旅行を夢見て、まだ誰も挑戦していない分野に商機を見出した彼は、並みいる世界的企業の経営者たちを追い抜き、世界一の富豪へと上りつめる。その男の名前は、イーロン・マスク。ガソリン車からEV(電気自動車)への転換をもたらし、民間で初めて人類を宇宙に運ぶことに成功した彼の半生をやさしい英語で綴る。

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