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中国の異常なまでの積極外交の背景にあるものは

China’s Xi plans Russia visit as soon as next week.

(中国の習近平主席が来週にもロシア訪問を計画)
― ロイター より

中東でプレゼンスを高める中国の外交戦略

 ここ数か月、アメリカと中国との冷戦が、グローバルレベルに急拡大してきています。我々はこのことをしっかりと分析する必要がありそうです。日本の外交により多面的な発想が求められるからです。
 
 まず、日本からは遠く離れたイスラエルの話です。今イスラエルでは、パレスチナ自治政府への強い対応を支持する急進的な右派勢力に支えられたネタニヤフ政権が、司法制度を改革しようとしています。それは、立方と行政に、より大きな司法権限を与えようとするものです。日本と同じ責任内閣制度を採用しているイスラエルでこれが実行されると、裁判権、つまり司法の独立という三権分立のバランスが崩れ、パレスチナの自治に対しても強硬手段が取りやすくなります。
 これに反対するリベラル派の国民が大規模な抗議集会を行い、国が騒然としています。伝統的にイスラエルと同盟するアメリカにとっては頭の痛い問題です。
 
 そんなとき、イスラエルに敵対するイスラム系の勢力で、レバノン側からイスラエルを脅かすヒズボラを支援するイランに中国が声をかけました。イランでは、イスラム教の掟で女性が抑圧されることへの反発に端を発して、国内でデモの嵐が吹き荒れていました。イランはイスラム教シーア派の国家で、スンニ派の盟主サウジアラビアとは犬猿の仲でした。サウジアラビアは地域の安定のために、アメリカの核の傘に入る代わりに、イスラム教の盟主としてイスラエルとパレスチナ双方への調停に終始する政策をとってきました。しかし、今回のイスラエルの動きは、サウジアラビアとしても、イスラム教徒を保護する立場から看過できません。
 中国はそんな状況を見据えながら、イランとサウジアラビアに話しかけ、両者の国交回復を実現させたのです。今回の中国の調停は、そのタイミングから見て、ツボを心得た見事な戦略でした。それは、アメリカの中東戦略の中核に楔を打ち込まれかねない、アメリカにとっては嫌な出来事だったのです。
 

経済力を武器にアメリカへ攻勢をしかける中国

 一方、イランはアメリカと対立するなか、ロシアをサポートし、ロシアはレバノンの北東に広がるシリアとも同盟しています。
 そこで、次に中国はロシアのプーチン大統領に声をかけます。今までアメリカは日本とも協力してインドに接近し、インドのロシア離れを画策してきました。こうした変化のなかで、ウクライナ侵攻で西欧が思った以上に団結したこともあり、中国も動きがとりにくかったのです。そこに降って湧いたかのようなイスラエルの動きがあったことで、中国は中東で満塁ホームランを放つことができたのです。
 中国はインドを片目で見ながら、もともと関係強化に努めていたロシアに露骨に接近します。アメリカは中国が軍事援助までするのではないかと警戒しますが、ロシアにとっては戦争で疲弊する経済を中国がしっかりとサポートしてくれれば、ウクライナに対して有利に戦争を展開できるのです。
 中国は、その事実をぶら下げて、ウクライナにも話しかけようとしています。西欧寄りの政策ばかり取らず、ロシアとの妥協の道を探らない限り、ウクライナは疲弊するだけだと中国は詰め寄るはずです。出口の見えない戦争が長引けば、アメリカでも西欧でもウクライナへの厭戦気分が世論となって現れるだろうと。
 
 こうして中国は指導者である習近平のロシア訪問を実現させます。そして、それと同時にウクライナへもコンタクトする予定です。中東での出来事は、この大仕事のための土台作りでした。今、中国にとってアメリカと対決する好機なのです。
 中間選挙の後、アメリカは来年の大統領選に向けて内政志向になっています。さらに、ウクライナでも一進一退の戦争が続いています。中国はそんな手いっぱいのアメリカの事情を承知で、台湾問題に揺さぶりをかけ、北朝鮮のミサイル実験を黙認し、中東で華々しい外交的成果をあげ、ここぞとばかりに攻勢をかけているのです。
 中国にとっては、イランで女性が抑圧されていることも、ウクライナで人々の生活が破壊されていることも、あえて問題にはしないはずです。むしろそれを逆手に取って、イランの民主化やロシアの暴挙を非難するアメリカを牽制しようと、経済力をもって、アメとムチの政策を露わに世界での自国のプレゼンスを高めようとしているのです。国際政治の冷徹な一面が見えてきます。
 中国は、攻勢をかけながらも、国内の経済の立て直しにも取り組まなければなりません。そのためにはアメリカからの経済制裁にも打ち勝つ必要があるわけで、こうした行動の向こうには、彼らなりのアメリカに向けた巧妙な駆け引きが見え隠れします。
 

中国の積極外交によって世界の地図が塗り替えられるのか

 イスラエルから台湾、そして北朝鮮まで、さらにウクライナからロシア、そしてアフリカや中南米といった国々まで、超大国となった中国による世界地図を鳥瞰したような多面的視点での戦略に、日本がどう対応するか。それを考えるとき、日本の政治家の質の低下と外交力の非力さを思い知らされます。
 
 中米にホンジュラスという国があります。この国が最近中国からの債務に経済的に苦しみながら、ついに台湾と断交して中国との国交正常化を進める動きを鮮明にしたのです。中米ではこうしたケースが相次いでいます。伝統的にアメリカの影響が強く、台湾と友好的であったパナマやドミニカ、エルサルバドル、そして今度はホンジュラスまで、中国との関係強化に舵を切ったのです。これも日本では報道されない、アメリカへの強い脅威です。これは、ソ連時代にキューバとソ連が同盟し、アメリカの喉元に核施設を置こうとしたキューバ危機を彷彿とさせる動きなのです。
 
 この数か月の中国のあからさまな積極外交は、もちろん全人代で習近平政権の権力基盤が強化されたことと無縁ではないでしょう。
 ただ、ロシアにせよ、中国にせよ、政権中枢の実力者が国内で出世し、地位を得た人々によって占められていることは危険です。
 どこの国でも、海外から自分の国を見たことのある人物が出世できず、国内への配慮だけで外交政策を左右させたとき、世界の緊張が高まります。それは日本も例外ではないはずです。
 
 これから2年間、アメリカの大統領選挙までに世界の外交地図がどのように変わってゆくか注目されます。21世紀のこれからを占う最も大切な時期に、今差し掛かろうとしているように思えるのです。
 

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『中国語で読む 星の王子さま』サン=テグジュペリ (原著)、羅 漢 (中国語訳)中国語で読む 星の王子さま』サン=テグジュペリ (原著)、羅 漢 (中国語訳)
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