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自衛隊の事件から見える日本の課題とは

As far as the explanation of this training is concerned, you are just following the manual and the rules.

(この訓練の解説を見る限り、ただマニュアルや決まりごとに従っているだけじゃないですか)
― 海外の軍事関係者のコメント より

戦争を知らない自衛隊員と世論が意識すべき「有事」とは

 陸上自衛隊の隊員が発砲し犠牲者が出るという悲しい事件が発生してから1週間が過ぎようとしています。
 軍隊での新兵教育は世界中どこでも行っていることで、実際に海外でも似たような事件は起きています。ただ、今回の事件を考えるとき、日本人にとっての自衛隊とは何だろうという課題をもう一度見直さなければと思ったのです。
 
 それには理由があります。戦争体験のない世代が人口の大半を占めるようになった現在、隊員がどこまで本当の戦争を意識した訓練を実施し、それに実感をもって取り組んでいるのか考えさせられるのです。有事という言葉のもとに、自衛隊の装備の強化などへの議論が行われている中で、本当の有事とはどういうことなのか世論が意識できているのかが問われているようにも思えるのです。
 
 そこで、今回の事件の折に自衛隊がニュースで公開した訓練の模様を、海外の複数の知人に見てもらいました。彼らは皆、戦争や国際間の緊張を体験し、その中で新兵としての訓練を受けてきた人たちです。
 

実戦経験者たちが語ってくれた訓練と戦場のリアル

 まず、北アフリカで徴兵され戦争を体験した人がコメントします。
 
「私が徴兵された翌日、まず訓練だと広場に集まると、いきなり後ろから足元に実弾を撃たれました。石やほこりが飛んで足に当たったことを覚えています。驚いて前に飛び出すと、発砲した上官が言いました。お前死にたいのか。いいか、これが戦争だと」
 
 彼は続けます。
 
「翌日、森に連れて行かれました。何も教わらずにいきなり前にあった木に登れというのが命令です。必死で幹にしがみつき登ろうとしても無理に決まっています。たちまち擦れて体は傷だらけです。それを見た上官が言います。いいか、自分で考えるんだ。お前は何を持っていて、どう使えばいいかを。そこで私はズボンのベルトを外して幹に巻くと、ベルトの両端を手に持ってほんの1メートルも登れたでしょうか。そこで、落下。でも何日もすると、ちゃんと木の上まで登ることができるようになったのです」
 
 もう一人はベトナム戦争のときに受けた訓練の模様を語ります。
 
「密林の湿気と熱気の中で、黙って伏せるのです。装備は重く、汗が滝のように吹き出ます。その臭いをかいで虫がきて体を刺します。それを手で払おうとすると、上官から怒鳴られるのです。手を動かすな。音を立てたり動いたりすると、そこを狙われ、部隊全体が危険に晒される。じっとしていろと。その次にやったことは森の中に入って数日生き抜く訓練でした。鶏を数羽放たれ、それを自分で追いかけ、皮を剥いで食べながら生き抜くのです。実際の戦争では、敵の村の食糧を奪わないと自分たちが死んでしまうと上官は訓示しました。その上官は、飢えたとき、撃ち殺した敵の人肉を食べてしのいだと語ってくれました」
 
 次の人はイラン軍での体験者です。
 
「訓練は過酷でした。日本での鉄棒での移動を見ていると小学生の訓練のようです。ロープにしろ鉄棒にしろ、あんな高さではないですよ。ブドウ棚のようなところを重い装備を持ったまま渡ってゆくんです。下は深いプールで、時々上官が水に向けて発砲します。驚いて落ちると怒鳴られ、最初から何度でもやり直しです。訓練自体が命懸けのように思えました。上官は常に言っていました。お前がノロノロしたり、気を緩めたりすると、仲間も命を落としてしまう。お前だけでなく、仲間が殺されるんだと」
 
 そして、中央アジアでの紛争に参加した人もその体験を語ってくれました。
 
「敵なんて見えないんですよ。当たり前でしょ。お互いに殺し合っているわけだから、お互い隠れているんです。だから建物はあっても、そこには誰もいないんです。それは恐怖そのものです。砂漠では、上からも攻められるし、地上は360度危険です。ですからヘルメットで穴を掘って身を隠す。でも敵は人だけではありません。サソリや毒蛇も潜んでいる。こうした生き物はナイフで音を立てずに殺さないと、たちまち相手に自分の位置を晒してしまいます。さらに大変なのは、ヘルメットを使い片手で穴を掘っているときです。急がないと大変です。できるだけ両手が使える状態を保たなければ命に関わるので、その点は上官からも厳しく指導を受けるのです」
 
 アメリカ人の元兵士も語ってくれました。
 
「誰しも敵が現れれば容赦はないですよ。国際条約や人権のことを考えていると、自分が殺されます。だから、そんな余裕はないし、それは紙の上だけのことですよ。上官の命令が実情に合わなければ、無視することだってありましたね。目の前のことに対処しなければ。理論ではなく、その場の判断と行動が自分や仲間の命を左右するわけですから。アメリカ軍は装備がいいからと言って安心できません。実際の戦場では、戦車の脇からいきなり敵が現れ、戦車のキャタビラに鉄棒を突っ込んで、走行を止めます。そして隙間から火炎瓶を投げ込まれると全員焼死です。それが実戦です。こんな経験をすると敵も味方もみんな目つきが変わり、顔が変わってくる。日本の自衛隊にはそんな顔つきの人は誰もいません」
 

マニュアルに従うばかりの日本社会はどうなっていくのか

 話してくれた人たちは口を揃えて言いました。
 
「この訓練の解説を見る限り、ただマニュアルや決まりごとに従っているだけじゃないですか。単なるゲームをしているだけですね。マニュアルがないのが実戦です。教えている人も甘すぎる。マニュアルに従うことをうるさくいうと才能が伸びず、人はプレッシャーを感じるだけで、実戦で通用するノウハウは学べません。規律やマニュアルは大切ですが、本当に求められるのは、その場でいかに自分と仲間の命を守るために判断し、行動できるか。ただその一点です。日本の装備は素晴らしい。でも武器だけ買って弱点をカバーしている。高価な車を買って、その使い方がわからない人たちばかりです。パンクしたら戦いながら自分でその場で修繕できますか。ガソリンタンクをやられたら何かできますか?」
 
 ウクライナ軍が善戦できるのは、ソ連時代にこうした実戦の経験を積んだ人が多く残っているからで、ただ西側から進んだ兵器を援助してもらっているからではないんだと、彼らは強調していました。
 「確かにここで語られた訓練を日本で行えば、すべて違法になるでしょう。でも、戦争そのものが違法行為の連続なんです」というコメントが心に残りました。
 これは、こと自衛隊だけではなく、マニュアルや決まりごとが優先されがちな日本社会そのものへの問いかけのようにも聞こえてきました。
 
 平和であることは素晴らしいことです。この平和な日本を守るという課題の背景に、こうした現実と直面しなければならない世界の事情、人類の事情があることを、今回は実際の軍事経験者のコメントを通して投げかけてみました。物事の良し悪しを超えた現実を見据えて様々な判断をすることも、日本の将来を考えるときには必要なのかもしれません。
 

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『世界の重大事件[増補改訂版]』ニーナ・ウェグナー (著)世界の重大事件[増補改訂版]』ニーナ・ウェグナー (著)
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