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食事を共にしながら文化を考える、インドのあれこれ

Religion, Caste, Language, and Cuisine are the most important elements to understand India.

(宗教、カースト、言語、そして料理はインドを理解する最も大切な要素です)
― インド人の友人の言葉 より

インドに住む人たちと食事を共にすればわかること

 海外に行けば、その土地の人と一度は夕食を共にすることをおすすめします。食事の機会は、ビジネスでもプライベートでも、異なる文化環境で生活をする相手を理解し、交流を深める第一歩になるからです。
 例えば、インドに出張した人は、現地のしきたりや常識が日本や欧米で一般に通用するそれとは異なっていることにびっくりするかもしれません。
 そこで、現地でパーティーなどに参加して、夕食を共にすれば、そこにインドに住む人々の文化の要素が多々含まれていることがわかります。
 
 まず、招待する人はヒンドゥー教徒なのかムスリムなのかといった、宗教について考えなければなりません。よく知られたことですが、ヒンドゥー教徒は牛を神聖視しているので、牛肉を出すのはタブーです。同時にイスラム教徒の人は豚肉を嫌います。となると、チキンが一番無難ですし、中にはベジタリアンも多くいるために、工夫を凝らした野菜カレーやカバブまがいのベジタリアン料理などを多様に用意しておくこともおすすめです。インドでは100キロごとに、同じチキンを使った料理でも、その料理法が異なるのだとある人は解説します。我々が知っているインド料理は、そんなごく一部のものに過ぎないわけです。
 飲み物も、一般的なヒンドゥー教徒の人はアルコールが好きで、お酒を飲みながら談笑しますが、ムスリムの人々はといえばお酒は当然飲みません。ヒンドゥー教徒の人の中にも禁酒をしている人がいることはもちろんです。
 
 さて、では現地でパーティーや会食が始まるのは何時頃でしょうか。欧米では6時ごろを目安に多くの人が集まり、通常であれば9時ごろにはそろそろお開きです。しかし、インドでは8時過ぎごろに集まってドリンクで散々話した後、9時半ごろから徐々に夕食が始まります。人によっては10時ごろからというケースもあるほどです。
 
 さて、パーティーでは現地の人は往々にして現地の言葉で話をします。そして、ある程度教養のある人なら、英語は当然のこと、インドの主要言語もいくつか操ります。例えば、産業都市ムンバイのあるマハーラーシュトラでは現地の公用語マラーティー語があり、彼らはその言葉で交流し、同時に外国人にはインド特有のアクセントのある英語で対応します。
 

インド人が考える多様性とコミュニケーション文化

 インド人にとっての多様性とは、宗教と言語、そして食事、さらには我々にとってはあえて触れない方が安全なカーストという昔からの身分制度の4つです。カーストによる身分制度は今では違法で、差別を打破するために、いわゆる身分の低いカーストに属する人々が公的な仕事に優先的に就けるような制度もあるほどです。
 多様性といえば、とかく多様な人種が共存することを考えがちですが、インド人にとってはインド国内に住む人々は概ねインド人で、そこにそれほど多様性は見出せません。ここに挙げた4つの多様性がインド人の誇る、あるいは意識する多様性なのです。
 
 食事の席などでも、彼らはどんどん個人的な質問をします。極端な場合、「日本はインドよりも豊かだろう。いったい君の年収はどれくらいなの」といったプライバシーに関わるような質問も多くあります。
 最近シンガポールで出会ったインド人は、日本人の若者に「君はガールフレンドはいるのかい」といきなり質問し、「どうして一人しかいないんだい」とさらに突っ込まれてしまう有様です。欧米の常識ではあり得ない、むしろ忌避されるような質問に出会うこともあることがここでわかります。
 
 このインド人による好奇心の赴くままの行為や行動を、彼らはインド人は極めて Individualistic(個人主義的)だからねと説明します。しかし、この Individualistic という概念は、欧米では自分の意思をしっかりと表明する自発的な行為をポジティブに捉える概念として規定していて、決して相手に対して自分の好奇心を奔放に表明する概念としては意識していません。多様性と同様に、ここでも同じ語彙に対するインド人独特の捉え方があるわけです。
 
 さて、パーティーの中で、人々はビジネスについてもどんどん話し合います。この人を知っているとか、この計画を次には語り合おうなどといったことを積極的に話してきます。しかし、それは約束事では全くありません。ですから、そこでの会話を真に受けるのではなく、もし本気で相手と仕事の話をしたいのであれば、より具体的に次のアポイントメントを取って、しっかりと確認に次ぐ確認を持って積み上げるべきです。彼らは複数のことを同時に話すこと、さらに思いつきと真剣なことを同時に話すことへの抵抗がありません。それがいわゆる複眼的文化(ポリクロニック文化)ともいわれる彼らのコミュニケーション文化なのです。
 

食文化を通して考える世界の多様性

 さて、ほぼ午前になりそうな時間にパーティーが終わります。
 すると今までニコニコして出会っていた人が、「さよなら」と言った瞬間にいきなり人が変わったように、無表情に去ってゆきます。この変化を経験した人は、インド人の意識の切り替え方の向こうに何があるのかと不思議に思います。決してその出会いが不愉快だったのではありません。お見送りするとか、相手に別れに際して手を振って挨拶を繰り返すといった習慣が単純にないのでしょう。
 
 最後に、こうしたインド人も印僑という言葉で象徴されるように、19世紀以来海外へと移民を繰り返し、世界中に拡散していることに触れておきましょう。
 今では、例えばアメリカで、優秀なシステムエンジニアとして活躍するインド人も無数にいます。
 こうした海外を経験しているインドの人々は、当然欧米や他のアジア圏の習慣や文化にも精通しています。先に挙げた会食の事例はあくまでもインド国内でのことなのです。
 
 さて、日本人の会食の習慣は、他の国の人にどのように捉えられているのでしょうか。インド人は言います。インドでは決して生の魚もヌードルも食べない、と。
 食文化こそ、まさに世界の多様性を象徴しているといえそうです。
 

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『言い返さない日本人[新装版]海外との究極のコミュニケーション術』山久瀬 洋二 (著)言い返さない日本人[新装版]海外との究極のコミュニケーション術』山久瀬 洋二 (著)
その態度が誤解を招く! 異文化の壁を乗り越え、ビジネスを成功させるコミュニケーション術を伝授! 欧米をはじめ、日本・中国・インドなどの、大手グローバル企業100 社以上のコンサルタントの経験を持つ筆者が、約4500名の外国人と日本人への取材で分かった、“グローバルな現場で頻繁に起こるビジネス摩擦”の事例を挙げ、それぞれの本音から解決策を導き出します。外国人とのコミュニケーションで、単なる言葉のギャップでは片付けられない誤解や摩擦、そして行き違いに悩むビジネスパーソンに向けた「英語で理解し合う」ための究極の指南書です!

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