ブログ

人の流れから世界経済の未来を考えよう

Water changes its form to fit the shape of the vessel, and freely adapts its form to the occasion. Like water, we should live in a supple and flexible manner.

(水は器の形によって柔軟に変化する。我々も同じしなやかさと柔軟性が必要だ)
― 中国の古典 より

移民が流れるところに金融資産も流れる

 ロサンゼルスの西、太平洋に面したサンタモニカのビーチに近いレストランで、先月一組の夫婦と夕食を共にしました。夫は金融投資家、そして妻はファッション関係のジャーナリストとして活躍したキャリアをもっています。彼らはユダヤ系で、そのルーツはロシアへとつながります。
 
 19世紀から20世紀初頭にかけて、当時のロシア帝国は組織的にポグロムといわれるユダヤ人の迫害を行います。
 それを逃れて多くのユダヤ人がアメリカなどに亡命するわけですが、夕食を共にした夫婦の妻の方の祖先は中国東北地方、つまり旧満州の北部へと逃れ、ハルビンに移住したとのことでした。当時のハルビンや旧満州南岸の港湾都市・大連には、こうした人々が多く定住していたのです。
 彼らはそこで様々なビジネスをし、資産も蓄えます。
 戦後に中国が共産化されると、彼らは再び安住の地を求めて旅立ちます。彼らの居住先は、20世紀末までイギリスが支配していた金融都市、香港でした。香港は中国からの難民に加え、彼らのような海外から移住してきた人々によってアジアの金融のハブに成長したのです。
 
 一方、アメリカにはロシアや東欧から逃れてきたユダヤ系の人々以外にも多くの移住者が押し寄せます。オスマン帝国による厳しい迫害から逃れてきたアルメニア系住民などはその代表といえましょう。
 サンタモニカのすぐ隣にある高級住宅地マリブには、こうした人々の子孫が多く暮らしているのです。彼ら移民の流れを追うことは、世界経済の趨勢を知るうえでも重要です。
 最近、香港が中国によって統制されるようになると、香港の資産の多くがシンガポールなどへと流出します。そこにはユダヤ系に加え中国系、さらにはアルメニア系に代表される中東系の金融資本も含まれます。
 

移民による祖国への再投資が経済圏を発展させる

 20世紀の後半、カリフォルニアにはさらに二つの移民の波が押し寄せました。一つは、ベトナム戦争を経て祖国を出てきたベトナム系移民。そして、その次が豊かさを求めて南インドからやってきたインド系の人々です。彼らも数十年の年月を経て成功し、資産を蓄えます。よく言われる越僑や印僑と呼ばれる人々です。
 ユダヤ系やアルメニア系、さらに中東系の人々が盤石な経済層を作っているアメリカ西海岸で、その資産によって整えられた有形無形のインフラを享受しながら、アジア系の人々が自らの地位を伸長させたのです。
 
 興味深いのは、アジアからの移民の多くがアメリカで成功したのちに、そのノウハウや資金をもって祖国に再投資を行ったことです。
 21世紀になりベトナムやインドが飛躍的に発展し、さらに国力を充実させている背景はここにあるのです。マイクロソフトやアップルの本社など、さらに UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)などの有力な学術センターを訪ねれば、彼ら移民グループがいかにマジョリティとして活躍しているか実感できます。
 さらにインドを例にとるならば、南インドからの移住者はアメリカに限らず、シンガポールや香港にも大きな地盤を作っていました。そのネットワークがアメリカの印僑とリンクし、本国への再投資を加速させたわけです。
 
 19世紀から20世紀にかけてのユダヤ系や中東系の人々の動きと同様に、移民は受け入れてくれた国を豊かにするだけではなく、そこで得た資産を彼らのルーツである国家や地域の振興にも活用するわけです。
 この富の流れが数十年というスパンを経て、イスラエルやドバイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インド、そして台湾などの活力の原資となっているわけです。今、アフリカにも、こうしたアメリカやイギリスなどへの移民のリターンによって、力を蓄えようとしている国が増えつつあります。ナイジェリアやエチオピアなどといった事例が注目されます。
 
 ここで、さらに理解したいのは、これらの地域が相互にリンクし始めていることです。代表的な例が、ASEAN経済圏とインドとの融合です。
 東南アジアと南アジアを別々の枠組みで捉える時代は終わりつつあります。インドと東南アジアの経済圏を一つの融合体として捉えれば、それはEUやアメリカ、中国をしのぐ世界最大の経済圏へと変貌するわけです。
 シンガポールがこの10年で経済センターとして再生された背景は、この地が、そうした連携の要となり、香港の地位までも引き継ごうとしているからです。
 

日本にも人と資産が流れる将来を考えるためには

 サンタモニカでの夕食の翌日、マリブに住む友人に夕方のカクテルパーティーに招待されました。
 そこを訪ねれば、すでに移民2世や3世として富と成功を勝ち取った人々が老齢化し、余生を楽しんでいる様子が見えてきます。アルメニアやトルコなどにルーツを持つ人々が集まっているのです。彼らの子供や孫が、越僑や印僑の2世、3世たちとアメリカ経済を牽引する様々なベンチャー企業をおこしているのです。そんな彼らに投資しているのが、すでに成功しインドなどで金融業に携わっている人々ということになります。
 教育産業のデジタル化について、シンガポールに住むインド系の友人と話したとき、そんな金融のルートについて詳しく解説を受けることができました。
 
 世界は人が流通できる場所に富が流れます。人は水のように、その器の形に合わせて満たされ、喉を潤すわけです。日本の将来を考えたとき、日本企業はこうした人の流れのツボを掴み、より多くの水を蓄えることのできる文化への受容性のある器を育て、組織を作らなければなりません。
 国が出遅れている分だけ、企業として海外との人材交流を育成するノウハウを獲得する必要性を、日々痛感するのです。
 

* * *

『働く選択肢を世界に広げるためのグローバル就活・転職術』大川 彰一 (著)働く選択肢を世界に広げるためのグローバル就活・転職術』大川 彰一 (著)
終身雇用という神話が崩壊した現在、これからの就活は最初から世界を見据えて、自身の専門性を高めていく活動が必要となっています。本書は、日本で生まれ育った人、長期の留学経験がない人でも、グローバル就活のスキルを得られるように構成しています。それは、社会人でグローバル企業への転職や海外での再就職を検討している方にも応用できるものです。グローバル就職のためのマインドセット、英文履歴書の作成方法、英語面接の際に絶対押さえておきたいポイント、休み期間やギャップイヤーに参加できる海外経験の積み方など、徹底的に、そして具体的に体験談も交えながら紹介します。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP