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パンデミック下でのアメリカ人の楽天的未来志向とは

Unchecked inflation may be running off with your money… but, if you pick the right investments, you can make a fortune should prices start to spiral out of control.

(対策もなく放置されたインフレがあなたの財産を奪うかもしれない。でも、もし正しい情報をもって投資をすれば、逆に天井知らずの資産へとつながるはずだ)
― ある投資家のニュースレター より

投資ブームやインフレに見るアメリカ経済の混乱

 アメリカへの長期出張も終わりに近づき、ロサンゼルスに来ています。こちらの取引先と3日間の打ち合わせの後、サンフランシスコに戻り、その後帰国します。きっと、この記事が掲載されている頃には、日本に着いているはずです。
 
 こちらにいると、よく日本の知人からアメリカの景気はどうかと尋ねられます。
 そして、今回ヘッドラインで紹介したような投資情報が、今アメリカではあちこちで拡散しています。実は正直なところ、どう解説してよいかわからない奇妙な現象が起きているのです。
 
 市場には資金が溢れ、投資ブームが巻き起こっています。
 特に住宅価格が高騰し、ロサンゼルス近郊の富裕層が住むちょっとした瀟洒な住宅に4億円の売値がついていて、戸惑ってしまいます。巷では国が低金利政策をとっているために、より高い金利収入をと、住宅の建設を投資対象とした金融商品が人気です。
 私の知人も最近、テキサス州のアパート建設資金への投資商品に250万円を預けて運用しようとしています。商品の目標金利は18%です。
 
 このように、住宅価格が高騰しているときは、経済の先行きは明るいはずです。
 しかし、それと逆行した現象も起きているのです。例えば、レストランや小売店は雇用難で困っています。パンデミックによる政府の補助金で人々の生活が成り立つこともあり、さらにインターネットの普及により、自宅で仕事をする人が増えたため、職場に人が戻りません。
 これは、小売業に限ったことではありません。急激に需要の増えた航空業界では、パンデミックで解雇した従業員の復帰が間に合わず、スケジュールにも大きな影響が出ています。しかも、国内線はともかく国際線はと言えば、いまだ世界の状況が不安定なため、赤字が大きく膨らんでいます。
 
 しかも、マーケットの専門家は、パンデミックのみならず、最近の急激なAI化によってセミコンダクターや様々な物資が不足し、オイルショック以来のパニックに見舞われるのではないかと警告を発しています。
 ですから、株価は乱高下とまでは言わなくとも不安定で、多くの人がどの企業に投資したらよいかわからずにいるのです。とりあえず需要の増えているセミコンダクターを設計する企業やIT系のベンチャー企業へ、という人もあれば、こうした時だからこそ安定した伝統的な大企業へ、という人も多くいます。専門家でさえ、先が読めないのです。
 
 それだけではありません。バイデン政権は、市場の要求で大型の財政出動を行おうとしていますが、そもそもインフレ気味の経済の中に、さらに公共事業などのインフラ整備の資金を放出してよいのか、戸惑いも残っています。
 しかも、パンデミックは決して収束したわけではありません。レンタカーに乗ってラジオをつければ、あちこちの局でワクチンを接種しようというキャンペーンが流れていますが、毎日7万人近くが新たに感染しています。それにもかかわらず、11月初旬からは海外からの入国が大幅に緩和され、コロナの流行が再燃し始めているヨーロッパなどを含めた国々から、人々の入国が増え始めているのです。
 

先行き不透明な中でも日常を謳歌する西海岸の人々

 まさに不透明な未来です。株価の大暴落や流通網の世界的な混乱による恐慌など、警戒する要因は数えきれないほどにあるはずです。
 しかし、西海岸の高速道路を走れば、比較的経済に余裕のある人が購入したテスラが、2年前とは比較にならないほどに目立っています。高級住宅街が海辺に迫るマリブという地域のレストランで会食をすれば、そこには多くの人が、先行きの不透明さなどどこ吹く風と言わんばかりに、賑やかに夕食のテーブルを囲んでいます。
 この国に、貧富の差や人種間の対立など、様々な分断があり、ロサンゼルスの富裕層の生活はその富の部分を象徴しているとはいえ、ここにいるとアメリカは絶対に安泰だと錯覚しそうになるほどに、人々は日々の生活を楽しんでいるのです。
 
 そんなロサンゼルスの近郊、太平洋に面したところに、パシフィック・パリセードという地域があります。ここはビバリーヒルズにも近く、いわゆるアメリカの「中の上」と言われる人々と、富を享受する人々とが混在する地域です。
 その街で、Netflix(ネットフリックス)が経営するリアルな映画館を見つけました。映画を鑑賞する料金は10ドルで、Netflixが制作した作品が上映対象の中心となります。そこの関係者に聞けば、パンデミックの影響で同社への需要は高まったものの、自作の映画はまだ充分にプロモーションされていないと説明してくれます。ハリウッドも近くにあるこの地域でリアルな映画館を開き、それによって自作の映画をケーブルやネット上でアピールするだけではなく、実際に映画を楽しむ人に鑑賞してもらうことで、様々な賞の受賞にもつながるというのが映画館を始めた動機だと言います。
 
 パシフィック・パリセードで見かけた映画館は、まだ全米に4カ所しかない映画館の一つだったのです。
 そして、そのすぐそばには、すでに数年前からオープンしているAmazon(アマゾン)のリアル書店も営業しています。以前と変わったことは、その店内に書籍以外の様々なグッズのコーナーが目立ってきていることでしょうか。Amazonの書店はすでにアメリカ各地で営業していますが、当のAmazonの株価はというと、前述のグローバルな物流危機による小売商品の供給不足を懸念してか、今一つ伸びがありません。そんなところにも消費者の複雑な心理が反映されているのです。
 

アメリカ人を象徴する「成り行きまかせ」の未来志向

 では、こうした現実の中で、アメリカ国民は実際に状況をどう受け止めているのでしょうか。
 このことを考えたとき、アメリカ経済の将来を占うひとつの視点が見えてきます。彼らの多くは、日本流に言えば「成り行きまかせ」なのです。警戒感のために慎重に準備をしたり、緻密な分析によって企業の将来を占ったりする以上に、自分にとって今現在、何が利益につながるのかという点に対して、敏感に反応しているのです。
 このことは、日本人から見ると無責任にも思えます。しかし、この「成り行きまかせ」の行動こそが、アメリカの柔軟性であり、強みの原点なのではないかと思われてなりません。予想が外れたときにはいかに臨機応変に処断するかが大切で、未来への緻密な予想など難しいというのが、おそらく専門家も含めた本音なのでしょう。
 
 では、彼らは単に現実的なのかと言えば、極めて未来志向です。つまり、現実に起きている状況から常に未来を見ながら、それをビジネスの好機と捉え、動いているわけです。
 ですから、過去の検証に躍起になりがちな日本人からしてみると、彼らがあっという間に物事の判断や戦略を変更することについていけず、不満が蓄積します。今の状況にエネルギーを注ぎ、そこから未来をつくろうと試み、過去はもう過去のことでこだわらない。この発想に日本人は、アメリカ人は短絡的だとか、責任感が欠如している、あるいは自己中心的だという感想をもってしまうのだということを実感させられます。
 
 サンフランシスコでの仕事を経て、帰国までわずかです。来週の記事は再び東京から配信したいと思います。
 

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