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能登半島地震でみえてきた日本のアキレス腱

The Prime Minister, Fumio Kishida, said that emergency services were locked in a “race against time” to rescue survivors.

(岸田文雄首相が、救急サービスは被災者の救助に向けて「時間との戦い」に追われていると言明)
― BBCニュース より

海外からの援助要請に対する日本政府の「謝絶」

 能登半島地震では、今でも余震が続き、地震後に起こった火災や崩壊した建物の下などにどれだけの被災者が閉じ込められているか、わからない状況が続いています。
 日本政府は在日米軍の要請に基づいて、米軍にも協力を依頼して、現地の救援活動を進めています。台湾からも支援金が届く予定になっています。
 しかし、その他アジアや欧米のさまざまな国からの援助の要請については、日本政府は感謝の言葉を述べながら、いわゆる「謝絶」を繰り返しています。
 
 この理由としては、今現地に通じる道路が寸断され、混乱が続いているうえに、受け入れるための準備も充分ではないということが挙げられています。実は、今日本と緊張関係にある中国からも援助の要請がきていて、面白いことに北朝鮮からもお見舞いのメッセージが届いています。この地震を一つの機会に彼らが何らかの新しい動きを示したかったのかもしれません。
 
 外交とは、微妙なもので、こうした小さなメッセージの向こうに、思いのほか大きな意図が隠されていることも多々あります。そして、日本は伝統的にそうした意図を敏感に汲み取り、迅速に反応することが不得手です。
 
 今回、世界から援助の要請がきたときに、援助する側は被災地での道路が寸断されていたり、現地が混乱したりしていることは織り込み済みです。食事も不自由で思い通りにならないことですら理解しています。彼らは別にテントに寝泊まりしても構わないのです。たとえ混乱していても、被災しているお年寄りに寄り添って血圧を測ってあげたり、ビタミンの注射をしてあげたりといったことだけでも大助かりのはずです。しかも被災地域に住んでいたり、観光で訪れていた外国人で、言葉の問題で適切な救援が受けられず困っている人も多数いるという報道も多くみられるのです。
 
 自衛隊は世界でも最も規模の大きな軍隊組織です。海外からの救援隊のために現地にヘリコプターを飛ばし、宿泊できるテントを用意し、必要な機器を装備することなど全く問題なくできるはずです。何のための大規模な防衛予算なのでしょうか。海外との友好関係を築くことが、最も効果的な防衛手段であることは明白です。
 もしも、日本人と海外の人との間で言葉や習慣の問題があれば、それを話し調整することのできる人をリクルートし、ときには米軍にそうした人材を供与してもらうことも簡単です。
 災害救助のプロが世界から集まり、そうした言葉の壁などを取り除く人を、例えば当該国の大使館なども通して適宜用意すれば、より多くの人の命も、生存者の健康被害も救えることになるはずです。必要であれば、豪雪地域であるだけに雪かきですらお願いできるはずです。
 

完璧を求める「日本らしい」対応が誤解を招く

 こうした行き違いの背景には、文化の問題があります。
 日本側にはいわゆる「遠慮」とか、「迷惑をかけては」という発想があって、準備が整わないまま、海外の人を受け入れることに躊躇があったのでしょう。過去に何度か繰り返しているように、完璧な受け入れ体制がなければ、海外からの救助隊を受け入れることはできないと思ったのでしょう。
 しかし、断られた海外の人はそうは捉えません。またも、不可解な日本人のプライドなのか、それとも決断の遅い日本の非効率的な組織のせいなのかと誤解してしまいます。その日本の曖昧さへの誤解が、日本そのものへの不信感を募らせる原因になります。
 しかも人の命を助ける目的で、中国と台湾という対立している国同士が北陸で共同の救出作業に参加するチャンスもあったのです。それを台湾からの支援金だけ受け入れて、双方からの人材の派遣を断れば、外交的に貴重なチャンスですら失われてしまいます。台湾での総統選挙が近づいているだけに、こうした繊細な行き来が対立の解決への思わぬ糸口となるかもしれません。その糸口から迅速に次の行動にでるのが、本来の外交の醍醐味なのです。
 
 実のところ、これは政府だけではなく、日本の多くの大企業にもいえる海外との付き合いかたの課題なのです。
 この話をしたときに、ある台湾の人、そしてアメリカの友人が、「それはなんとも日本らしいリアクションだね」と言って苦笑いをしていました。
 文化の違いによる誤解をそのまま放置しておくことは、その国の逸失利益に直結します。そのことを忘れないようにしたいものです。
 
 大きな目で捉え、微細なリスクは現場でその都度解決しながら物事を進めることが、日本の組織ではできなくなり、その硬直化の象徴が今回の海外からの援助に対する「謝絶」というリアクションになったのでしょう。
 これは、世界との外交という意味でも、被災地の救済という意味でも、さらには今後の日本と海外との人と人との信頼関係の醸成という意味でも、しっかりと考えなければならない課題なのです。一緒に試行錯誤して、手を取り合って問題を解決していこうという姿勢こそが、海外とのより強い信頼関係を構築する方途なのです。
 

ある国の総領事が語ってくれた日本への思い

 実名は避けますが、つい先日、日本に駐在している主要国の総領事と会談を持ちました。その国の大使との面談の下打ち合わせが目的でした。その席上、彼はこう言いました。
 
「我々は日本のことがとても好きなのです。尊敬もしています。でもその愛情を地方の都市に訴えても、行政は表面上の外交儀礼だけで何も動きません。というか組織が硬直しているせいか、動こうとしないのです。文化の違いはわかっているものの、忸怩たる思いがあります。日本には素晴らしい技術があります。しかし、日本には海外でそれを活かす効率性(efficiency)が欠如しています。我々の国の製品は日本ほど完璧に作られてはいません。でも、我々には世界と交流しそれを売り込む効率性があります。この二つの長所を日本と我が国で活かしていきたいと思っても、それができないのが残念です」
 
 総領事は私に1時間にわたって思いを語ってくれました。
 
 能登半島地震での海外からの援助に対する謝絶の背景にある日本の課題と、この総領事が語る日本への思いは、皮肉なことに一本の太い線で通じるものがあるようです。
 ちなみに、この総領事は派遣国の指導者の側近でもあった方で、彼の思いはそのまま、その国の日本に対する意識へとつながっているのです。
 

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アンドリュー・ロビンス (著)、岡本茂紀 (編・訳)
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