South Korea president survives impeachment but party seek his resignation.
突然の戒厳令の下、抗議に集まった市民たち
韓国で戒厳令が発布されたとき、最も驚いたのは、あまりにも早くソウルの市民が国会議事堂に集まり、その実施を阻んだことでした。この迅速さについて、日本ではあまり多くは解説されていません。
こうした韓国市民の行動の向こう側に、現在の官と市民との関係が見事にあぶり出され、未来の国家像のあり方をみたのは私だけではないかもしれません。
それから1時間もしないうちに国会議事堂に市民が集まります。戒厳令のために軍隊が到着したときは、すでに市民も抗議運動をはじめ、国会議員も議事堂に急行していました。SNSのトークルームなどでネットワークした人々が最初に議事堂に到着します。そして、彼らからの発信で街のあちこちから人々がソウルの政治の中枢に押し寄せたのです。
派兵での混乱とユン大統領が犯した誤算
派兵された兵士はいわゆるプロの軍人だったようです。つまり、徴兵されている若者とは違い、正規の訓練を受け、熟練した兵士が派遣されたのです。ところが、彼らは命令を受け移動をはじめたとき、これは北朝鮮との有事かと不安に思っていたそうです。その後、自分たちが国会議事堂にやってきたことで、戸惑いを抱いていたといいます。その同じ時間に市民はすでに集会を開いていたのです。
わかりやすく解説すれば、市民のSNSのネットワークの方が、戒厳令による政府や軍隊の動きよりも迅速だったことになります。
韓国では週末には国会議員の多くが地元に戻る習慣があります。つまり戒厳令の発令された火曜日は、逆に国会議員のほとんどがソウルにいたわけで、大統領が議会の動きに対して先制攻撃をしかけ議員を拘束するよりも迅速に、議員もSNSで連絡を取り合いながら議事堂に集まれたのです。結果として、そんなSNSでのコミュニケーションに市民も合流したことになります。
大統領がもし綿密に画策し、週末であった11月30日か12月1日に今回の行動にでていれば、ソウルは今でも混乱の渦中にあったかもしれません。しかも、今の韓国の軍隊は、過去の軍事政権下の兵士と異なり、民衆を制圧することには慣れていません。実は、軍隊が体制を整える前にデモの扱いに慣れている警察を出動させれば、戒厳令はより長く維持できていたかもしれないのです。つまり、戒厳令を成功させるには、警察と軍隊との緻密な連携が不可欠だったのです。
それは、現在の社会ではどんなに強い指示をだしても、民衆のSNSなどによるネットワークの方が、政府の組織的なネットワークよりも迅速に稼働するのだということへの無知です。政府が市民の上にあり、その頂点に自分が立っているという時代錯誤に陥り、強権が発動できると誤解したことが、彼の足をすくったのです。これは日本の役所や政治家にもいえる未来への深刻な課題です。
戒厳令が証明した韓国の民主主義の成長
それは、数年前の香港での民主化運動が、中国政府によって制圧された過程とは対照的な結果となりました。表題のように大統領の弾劾による失職は与党が阻んだものの、今後の政治状況は二転三転しそうです。民主化が進む過程で共に民主党の運動が反日へと傾斜する可能性も否めません。ただその結果、今後さらに韓国社会が混乱したとしても、その過程は、むしろより高次元な民主主義国家へ向けた産みの苦しみであると評価されるかもしれません。何かがおきたときの日本側の対応にも検討が必要なのです。
さらに、今回の事件は、SNSという新たなメディアの存在と政治権力がいかに共存してゆくかという課題をまたも突きつけるような事件でした。そうした意味では、先の兵庫県知事選挙で、弾劾により失職した知事が再選された過程とも照らし合わせて考えたい事件であったといえましょう。
日本でもこうした事態のとき、韓国と同じように大きな抗議運動がおこせるのかという疑問を抱いてしまいます。
多くの人は、日本は韓国とは違い、こうした事件そのものが発生しないというかもしれません。しかし、例えば憲法を改正し自衛隊が軍隊となった場合、軍隊が緊急時代の折に社会を統率できるというのが戒厳令の概念であるという事実を突き詰めれば、今回のことは未来の日本への教訓であるといっても過言ではないはずです。
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『日韓対訳 韓国Q&A』キム・ヒョンデ (著)
韓国に対する関心が高まる中、韓国語を学ぶ学習者も年々増加しています。本書は、韓国をもっと知りたい学習者が、韓国語を学びながら、できるだけ多様な情報と観点を得ることを目的に作成しました。韓国人の著者自身が直接日本人から受けた質問や、日本人が韓国を理解するために必要だと思われる質問を厳選。韓国に関する基本情報をはじめ、文化・歴史・政治・経済・社会など、さまざまな角度から「韓国」について知ることができます。地理的に最も近い国である日本と韓国には、お互いに理解し難い特有の文化があります。ある一面だけではなく、多様な側面を知ることで、より深い交流の手助けとなる一冊です。
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