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AIが進化するときに知っておきたいこと

As a former philosophy professor with over 12 years of experience working on emerging tech, Dr. Van Hollebeke is committed to confronting the socio-technical challenges that strain existing legal and societal norms and make people think through what they value most (and how to preserve and enhance those things!).

(最先端技術の分野で12年にわたり、法的、社会的な規範のなかで我々が最も大切にしなければならない価値について対処するため〔そしてそれを守るため〕に元哲学者のバン・ホレベッケ氏は業務を続けている)
― ピュージェットサウンド大学学報 より

AIが社会に不可欠な存在となってきた今、人間は

 AIが社会生活のなかに浸透しはじめているなかで、現在を生きる我々は、大きな課題を突きつけられています。我々は、どこまで人間が人工知能に頼り、どこまで人間が人間としてものごとを考え判断し、仕事をこなすことを続けられるのかというテーマへの漠然とした不安、不確実性への答えをだせずにいるのです。
 ある人は、翻訳や通訳はもはや必要がなくなるのではないかと指摘します。また、多くの人は物語の創作や出版活動は今後急激に衰退するのではないかと予言します。
 
 しかし、そうなったときに、人間はどのように物事を考え判断するようになるのかという問いかけへの模索を、多くの人はあえて避けながら、この急激な変化に晒されている現実があることも知っておかなければなりません。
 

AIは異文化コミュニケーションを代行できるのか

 ここで、ある実験をした友人がいます。果たして人と人とのコミュニケーションをAIが代行できるのかという実験です。
 実験では、日本人とアメリカ人との間で会話をしてもらいます。まず、日本人が自らの考えを口頭で述べて、それをAIが聞き取り、自動翻訳して相手に伝えます。そのインプットを受けたアメリカ人が、インプットへの返事を音声で語り、今度は日本人にフィードバックをするのです。
 すると、目的地までの道案内といった単純な会話であれば、AIはほぼ通訳の任を果たしてくれます。
 
 しかし、物事に対する意見や懸念、あるいは何かのアイディアを披露する段階になると、ミッションを完遂することが困難になることがわかりました。日本人の論理展開の方法と、アメリカ人のそれとの違いに対処する段階でAIに錯誤が認められたのです。AIでの自動翻訳だけでは意思疎通ができないことがわかったのです。
 
 日本人は多くのアジアの人々と同様に、論理展開をするときにまず背景説明から話をはじめます。それに対して、アメリカ人は自らが語りたいポイントから話に入ります。ですから、例えば日本人が「気象異変への懸念」をテーマに話したいときに、最近日本を襲った大型台風の話からスピーチをはじめたとき、アメリカ人はその大型台風の話を日本人が伝えたがっていて、実際には最も伝えたい気象異変への懸念について強調していることを理解できないのです。
 アメリカ人からみれば、最も伝えたいはずのテーマが「気象異変への懸念」であるならば、台風の話からはじめるのではなく、その懸念を真っ先に述べるはずだと思っているからです。
 したがって、日本人が台風のことを話したがっていると誤解したアメリカ人は、最近フロリダを襲ったハリケーンの話を持ちだして、そのエネルギーの凄さを述べようと日本側に話しかけたのです。
 
 他の事例では、そもそも日本人の言いたいことを理解できないために、アメリカ側からの返答のコメントそのものに大きな混乱が認められました。
 この混乱や誤解を克服するためには、AIに指示をだすプロンプトの作成段階で、相当詳細な命令をインプットしなければならず、実際の会話のやりとりに対応してそれを実行することはほぼ不可能だったのです。
 
 さらに次の実験をしてみました。今回は、AIの仲介なしに、異なった国の人どうしで英語を使って会話をしてもらいます。
 英語を母国語としているフィリピン人に、アメリカ人の英語を聞き取ってもらったのです。そして、その内容をどれだけ理解できたかを問いかけます。するとフィリピン人は、言葉としては100パーセント理解できたと回答してくれました。そのうえで、さらにアメリカ人が最も強調したいことは何だったのかと問いかけたところ、言葉は理解できたものの、そこに込められた仕事上での緊急性や重要性については十分に理解できなかったと答えたのです。
 何度か似た実験をした結果も同様でした。つまり、英語で語り合っている者どうしでも、レトリックとコミュニケーションスタイルが異なっている二つの文化を超えて、その意図を完璧に伝達することは困難であることがわかったのです。この意思疎通を可能にするためには、何度かお互いに確認をし合い、疑問点を出し合いながら、慎重に会話を進めなければならないことが証明されたのです。
 
 ここでわかることは、同じ言語どうしでもコミュニケーション文化が異なれば誤解が発生するのであれば、それよりもさらにハードルの高い異なる言語を翻訳したり通訳したりする作業の場合、現在のAI技術では、文化の違いによるレトリックの違いを解釈したうえで、相手に意図を正確に伝達することは、極めて困難であることがわかったのです。
 

人類が迎えるのは思考の深化か、退化か

 人と人とのコミュニケーション上の不確実性をデータベースで学ばせ、そこで起こりうる誤解を計算したうえで、より正しいメッセージを相手に伝える作業をAIがこなすには、相当の技術革新が必要になるわけです。我々はビジネスの場などで単純に自動翻訳やAIでの通訳に頼って作業をすることの危険性を知っておくべきだということがこの実験からもみえてきます。
 
 このことから、我々はデジタルなメッセージとアナログなメッセージとの間には大きな誤差があることに改めて気づかされます。例えば、iPhoneでイヤホンをして音楽を鑑賞するときと、コンサートホールという大きな空間でオーケストラの一つひとつの楽器の音を、緊張感をもって鑑賞するときとでは、心に響く音の質そのものに差があることは多くの人が経験しているはずです。それは、小説家が微妙で繊細な描写によって情景を読者に伝える作業と、AIがただメッセージとして情景を伝達する作業との違いがあることと同様です。
 
 Googleなどでは、AIの開発にアナログな発想で思考をする哲学者や詩人を導入しているといわれます。ユーザーである我々も、その事実を重く受け止め、インプットされる情報を取捨選択する必要があるようです。
 
 21世紀も4分の1が終わろうとしている現在、我々はAIとどのように付き合ってゆけばよいのかというテーマに直面しています。その判断を誤ると、人々がただ氾濫する情報に翻弄され、思考を深めようとする作業が退化する可能性があるのです。
 科学は、人間が抱くさまざまな脅威を取り除くためのツールを提供してくれます。しかし、時には科学が発展すれば、人間の行動パターンが変化し、肉体的にも意識のうえでも不要となった部分が退化する可能性があるはずです。
 我々はそのバランスのあり方を今まで以上に求められるような時代に入ろうとしているのです。
 

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『英語で読む大阪』エド・ジェイコブ (著)英語で読む大阪』エド・ジェイコブ (著)
2025年、万博開催で世界が注目する街「大阪」をシンプルな英語で紹介! 英語の多読学習をサポートする「ラダーシリーズ」の特別編、日本の魅力溢れる街を紹介する【ご当地ラダー】に“大阪”が登場です! 人口800万人を超える西日本の中心的都市、大阪。豊かな食文化などはもちろん、古来より政治、経済、文化の中心地として繁栄した大阪には、古墳や寺社仏閣などの歴史的建造物も多く、日本人はもちろん、海外からの観光客も多く訪れています。今年、万博が開催されることで、ますます世界から注目される「大阪」を英語で紹介します!

 

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