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求められる成長に寄り添った国際協力

Prabowo Subianto emphasized the Indonesia’s severe poverty issues including tackling malnutrition and unemployment and outlined policies aimed at improving the country’s self-reliance in food and energy protection.

(プラボウォ・スビアント大統領は、インドネシアの深刻な貧困がもたらす栄養問題と失業問題を解決し、国家が自力で食糧とエネルギーを確保する戦略を実施することを表明)
― スビアント大統領の大統領就任演説の要旨 より

インドネシアとベトナム――成長が期待される国の課題

 レザ・ユスフは、ジャワ島中部の中核都市でもあるバンドンのホテルで、運転手をしています。彼には二人の子どもがいて、一人はもうすぐ小学校に入学します。
 彼は敬虔なイスラム教徒で、ホテルの顧客のために真面目に勤務しています。スンナ派やシーア派といったイスラム教の派閥を超えて、全ての人のイスラム教であるべきだという信念も持った人物です。
 彼の月収はおおよそ4万円ですが、ここのところ顧客が減っていることが心配の種です。当然高騰している生活費はまかなえないので、運転に影響のない範囲で副業をしています。さらに、子どもは母親に預けながら、妻も就労して生活費をまかなっています。インドネシア人は堅実で、あまり高額な利息を伴う借金に依存することはありません。それでも、クレジットカードローン等の比較的安易に利用できる金融商品に頼るケースも増えています。
 
 一方、ドゥビン・ティンはベトナムの中部フエの大学で英語を学び、その後地元で観光ガイドを生業としました。
 英語が達者なため、フエの駅に降り立った欧米の観光客をその場で勧誘し、観光案内をするうちに、タクシーの運転手などとのネットワークも作り上げ、さらに地元のレストランなどとも提携します。今、ドゥビン・ティンは夫婦で地元のインバウンドの旅行サービスの要として活躍し、一家八人の生活を支えています。
 
 インドネシアとベトナムは経済力、人口構成、国土の規模や将来性からみて、極めて似た状況にあるといえましょう。
 この二つの国はともにその経済成長に世界が注目しています。
 国の経済規模が拡大するなかで、どちらの国でも国民の生活レベルの向上が最も重要な課題です。
 例えば、2045年までに個人所得のレベルを先進国並みの3万ドル前後まで引き上げたいというのが、去年インドネシアの大統領に就任したブラボウォ・スビアント氏の掲げた公約です。そのためには、少なくとも学校給食の無償化をまず進めたいと彼は訴えます。
 
「インドネシアは広大な国家に3億近くの国民が生活しています。その隅々まで無償の給食制度を整えるのには相当な課題を乗り越えなければなりませんよ」
 
 そう話すのはJICAでジャカルタに勤務する職員の方です。
 
「日本の場合、給食提供のための様々なシステムができあがっていて、食材の調達から配膳までのロジスティックなインフラも整っています。さらに栄養士などの専門のサポートもついているのですが、こちらではこれら一つひとつを構築し、そのための様々な課題をこれから解決してゆかなければなりません」
 
 プラボウォ・スビアント大統領は、給食などの生活インフラを整備する予算を保持するために、施設建設などの大型のインフラ部門への投資はしばらく抑制しようしています。
 

国民意識に寄り添った国際協力と外交関係の構築

 ジャカルタの都心から少し離れたところに立派な駅舎があります。そこがインドネシア初の新幹線の起点となっているハリム駅です。ここからの新幹線がバンドンまで伸びていて、所要時間は40分少々。バンドン側の駅も都心から離れたところにあって、バンドン中央駅まではローカル線のシャトルに乗り換えなければなりません。この新幹線は当初日本が受注して建設を行う予定でした。しかし、一帯一路戦略を推し進める中国が土壇場で日本への発注をひっくり返し、建設をしたものです。
 
 周辺と比べて突出して豪華な建物をみたときに、こうした不便な場所にわざわざ新幹線を建設することが、利便性に貢献しているのかと思ってしまいます。
 新幹線はバンドンの先まで伸びたまま工事が進んでいないために、日本でいえば「のぞみ」が「ひかり」や「こだま」を追い抜くために敷設された線路には錆が付着し、使用されていないことがわかります。中国の投資がこの国のためになったのかどうか評価が分かれます。しかし、この教訓は日本の国際協力のあり方にもいえそうです。国際協力で最も必要なことは、その国の人に寄り添った協力関係をつくることです。
 
 その意味で面白いのは台湾の留学制度でしょう。台湾にはインドネシアやベトナムの学生を数千人単位で受け入れている大学が多く、今回も台北のある大学を訪問したとき、2千人のベトナムからの留学生を受け入れ、半導体産業をはじめとした様々な分野での技術者を育成しているという統計資料を入手しました。日本の学術機関とは受け入れの桁数が違います。
 
「今日本の技術力がといっても、こちらでは相手にされません。台湾にしろ、中国にしろ、韓国にしろ、経済成長を遂げた国がどんどん東南アジアへの投資を進めています。日本人はとかく我々の技術がと自慢しがちですが、こちら側からみると、だからどうしたというだけのことなのです」
 
 JICAの担当者のコメントには確かに頷けるものがあります。バブルの頃の栄光から抜けきれないプライドが実際は有名無実のものになっていることに、いまだに気づかない日本人が多くいるのは残念なことです。
 
 さらに、この地域で気づくことは、アメリカの影響力の低下です。トランプ大統領になって外交方針が大きく変化したことに、台湾以北の東アジアの人々は戦々恐々としていますが、東南アジアの多くの人はさほど気にかけていません。もちろん中国の海洋進出に対する政治的な脅威には過敏になっているものの、米軍の存在や経済力への期待は我々が思うほどに強くないのです。これは中国が直接の脅威となっているベトナムでも肌で感じた国民意識です。
 明らかに、この地域の人々は全方位外交でのしたたかな国家の成長を求めています。そして、自力で国家を守り成長させようというプライドが人々の心の奥底に宿っていることを実感します。外交戦略を考えるうえでも忘れてはならないポイントです。
 

当事国の成長性と現実に見合った交流が求められる

 レザ・ユスフは、十分な教育を受ける機会が少なかったことから、英語でのコミュニケーションは極めて困難です。なんとか携帯のアプリを使って情報をとることで、彼の言うことを理解できます。
 そこで、ベトナムのドゥビン・ティンの例を紹介し、レザ・ユスフに英語を学習すれば、世界中の顧客をネットワークできることを伝えます。実際ドゥビン・ティンのようにWhatsAppを交換することで、世界中のビジネストラベラーと直接連携している運転手が東南アジアには多くいて、私も土地土地でそうした運転手を事前に手配しておくのです。まだ30代になったばかりのレザ・ユスフは、目を輝かせてその話に聞き入ります。
 
 将来の成長が大きく期待できる東南アジアとの交流は、過去の事例にとらわれない、彼らの文化や経済的現実、さらには日々成長する国力をしっかりと理解した戦略に基づくものであって欲しいものです。
 

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