It is exactly a bull in a china shop!
(これこそ、まさに雄牛が陶器店に入ったようなものだよ)
― 友人の発言 より
トランプが破壊するアメリカから逃げ出したい人々
このところ、ついついトランプ大統領についての記事が多くなります。
昨日、アメリカのある実業家とZoomで話をしたところ、思った以上に多くの人が、現在のアメリカの状況を深刻に憂いていることがわかってきました。
ヘッドラインの表現は、雄牛を陶器の店に放したように、あたり構わずものを壊しまわり、迷惑をかけているということから、現在のトランプ政権がそれまで培ってきたアメリカ社会の伝統を片端から壊しているといって彼が嘆いたことから引用しました。
以前、解説したように、この人の家はカリフォルニアでの山火事に遭い、焼け出されてしまいました。しかし、被災地域の復興は一向に進まず、その地区の道路も復旧されていないのが現状です。
「いや、トランプはカリフォルニアが民主党の牙城なので、特に意に介していないんだよ。だから復興が遅れているんだろうね」
そういうと、彼も私の意見に同意します。
「これは、カリフォルニアに独立しろといっているようなものだよね。南北戦争の時みたいにアメリカが二つに割れるんじゃないかな」
そう言って彼は続けます。
「そもそも、カリフォルニアのGDPは単体で世界でも6番目。だからアメリカにいなくても全く問題ないしね」
21世紀になって、アメリカの一部の州が合衆国から離脱することは、厳密にいえば不可能でしょう。仮に百歩譲って憲法論議で争っても、現在の最高裁判所の判事は保守派が多数派ですから、こうしたことが認められるはずはありません。しかし、実際に今のアメリカから逃げ出したいという人はそう少なくないのです。
シアトルに住む友人は、トランプは本気で三選を考えているかもしれないと警告します。
「副大統領のバンスが次の大統領選挙に出てね。トランプを副大統領に指名して、当選したらそのあとで辞任する。そうするとトランプが見事に返り咲くというわけだよ」
「それって、まさにロシアのプーチンがやったことだね。そうなるとアメリカは民主主義国ではなくなるね」
シアトルの友人も同様に、仮にこのやり方が憲法違反だと提訴されても、最高裁判所がそれを認めるかどうか疑問だといいます。
「となれば、次の中間選挙で民主党がどんなことをしてでも勝たなければ、大変なことになるわけだ」

精彩を欠く民主党と実情がみえないトランプ政権内部
シアトルもカリフォルニアも、多数派は民主党支持者です。
しかし、このときに、以前マニラに出張したときに打ち合わせをした、あるアメリカ人のコメントが頭をよぎりました。
「実は、俺はトランプに投票したよ。だって、民主党のやり方はあんまりだ。多様性や人権ばかりを強調して、小学校にまでトランスジェンダーについての授業を導入しようとしたりする。このやり方にはうんざりしている人が多いんだ。アメリカは人権問題に過敏になりすぎて、住みづらい国になっている。特に我々のような白人の中年男性にはね」
民主党がもっとアメリカ市民に受け入れられる政策を展開しない限り、トランプ氏本人は三選を否定したものの、シアトルの友人の危惧もまんざら杞憂ではないかもしれません。選挙に勝つには、理想以上に妥協と大衆にアピールする戦略も必要なのです。それが欠如していることが、民主党が過去の精彩を失っている理由かもしれません。
「いや、今回トランプが破壊しているアメリカは、なかなか元にはもどれないと思う。ある学者は、20世紀初頭の常識にまでアメリカは退化したと頭を抱えているんだよ」
分断からくる苦悩が如実に伝わってきます。
そこで、ワシントンD.C.近郊に住んでいる友人にどう思っているか聞いてみました。彼は、子どもの教育のために長年住んでいた日本を離れ、故国に戻ってきました。彼の居住する地域はリベラルで教育レベルも高い地域で、彼の二人の子どももそこに通っています。
そんな彼も、もし子どもの通う教育現場に変化があれば、日本にリターンすることも考えなければと、こぼしています。明らかに、アメリカを包む殺伐とした空気に沈んでいる様子がわかります。
そんな物議を醸しているトランプ大統領が、SNSに自身がローマ教皇の衣装を着ているAI画像を掲載し、新たな論議を呼んでいます。元々、プロテスタント系の背景をもつトランプ大統領ですが、最近は一つの宗派にこだわらず、ひろくキリスト教の保守層から支持を得ようとしています。しかし、彼の政策に、先月亡くなったローマ教皇フランシスコが強く反発していたことは事実です。今回の彼の態度は、そんなローマ教皇を皮肉った行為として批判されているわけです。
そこで気になるのが、2021年にあえてカトリックに改宗したバンス副大統領が彼の行為をどのように思っているかということです。宗旨と政策とは別ものとはいえ、オハイオの貧しい家庭に生まれ、ドラッグ中毒の母親を抱えて貧困に苦しんだ経験のあるバンス副大統領が、どうしてあそこまでトランプ氏の「イエスマン」となっているのか理解に苦しみます。
実はバンス氏は、教皇が逝去するほんの一日前に面接した、文字通り最後に教皇と会談した人物です。
「政治的には意見の相違はあったものの、素晴らしい教皇だった」と、彼は葬儀にあたってコメントしています。その葬儀に出席したトランプ大統領はドレスコードを無視したブルーの背広によって、これまた人々を驚かせました。

トランプはこれからもアメリカ社会を破壊し続ける
先の見えないアメリカが世界に与えている影響は甚大です。しかし、世界どころかアメリカ国内に与えているショックが、我々が思っている以上に大きいことをここで確認したいのです。
彼の発言や行為はこれからも、政権の内部にもさまざまな波紋を広げてゆくでしょう。イーロン・マスクとバンス、そしてルビオなど関係者の不和も取り沙汰されていることは周知の事実です。人気があるから今はついていこう、という政権関係者も多いはずです。
それだけに、民主党側でトランプ大統領に対抗できる強い指導者が、一日でも早く直球で勝負してくることを願いたいのです。
しかし、そんな頼れる民主党ではないという現実、行き場所がなく失望しているアメリカ人も多くいるのです。雄牛はこれからも多くの陶器を壊して暴れ続けるのではないでしょうか。
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