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カリブの混乱がマイアミで新しい音楽活動を生み出すわけとは

Miami is nicknamed the “Capital of Latin America” because of its high population of Spanish-speakers.

(マイアミは「ラテンアメリカの都」と呼ばれるほどにスペイン語を話す人が多い)
― Wikipedia より

カリブ発の多彩な音楽がマイアミで融合する背景

 世界情勢を見ようとするとき、一つの国に起きていることだけに注目しても、全体像は見えてきません。
 
 ここで、ちょっと面白い現象を紹介しましょう。
 Karin Carriel(カリン・カリエール)という、音楽関係のマーケティングをしている人がいます。彼女の出身はプエルトリコで、母国語はスペイン語ですが、彼女の話す英語にまったくアクセント(訛り)はありません。彼女は今、マイアミに住んでいます。
 
 彼女が売り出しているのは、カリビアンのミュージシャンです。
 カリブの音楽といえば、サルサレゲエなど多彩です。そんな多彩な音楽が今マイアミで融合し、新しい音楽現象が起きようとしています。何年にもわたってマイアミを中心に注目を集めている「ラテン・アーバン・ポップ」と呼ばれる音楽が、さらに成長しようとしているのです。
 
 一体その背景には何があるのでしょうか。
 実は、そこには複雑なカリブ海とその周辺の事情がからんでいるのです。
 

「ラテン・アーバン・ポップ」成長の背景には人々の移動があった

 まず、ベネズエラではここ数年にわたって政治的な混乱が続き、人々は食料にも事欠く状況でした。
 また、カリブ諸国は最近大きなハリケーンに見舞われました。さらに、コロナウイルスによって経済的な打撃も被りました。
 こうした現象は、当然のことながら、国を捨てて豊かな国アメリカへ移り住もうという、移民の流れを生み出します。
 
 多くの人々は、もともとカリブからの移民が多かったニューヨークやマイアミへと移住します。
 彼らの中には、多くのミュージシャンが含まれていました。彼らは時にストリートミュージシャンとして、例えば、ニューヨークの地下鉄コンコースを行き来する人々からコインを集めて生活します。才能はありながらも、生活は決して楽ではありません。
 そこに、今回のパンデミックが襲いかかり、人々が街から、ライブハウスから姿を消したのです。
 
 そもそもアメリカの自治領となっているプエルトリコからは、1920年代から多くの人々がアメリカ本土に移住し、特にニューヨークには、プエルトリコ系の人々がすでに市民権をもって数多く住んでいます。そうした人々の中にもミュージシャンとして活動してきた人がいて、彼らもパンデミックの影響をまともに受けてしまいました。
 
 そんな彼らが、アメリカの各地からマイアミへと移住してきたのです。マイアミはもともとキューバ系の移民も多く、スペイン語も通じやすく、ラテン系の文化への受容性もありました。
 カリブやその周辺からやってきたミュージシャンは、マイアミでお互いに情報を交換し、協力して音楽活動を始めたのです。
 
 カリン・カリエールは、そんなミュージシャンたちが、カリブ世界のあちこちから持ち寄り、融合して生み出されたラテン・アーバン・ポップを広げるためのマーケティング活動をしているわけです。
 

人々の移動がアメリカ政治の勢力地図をも塗り替える

 ところで、フロリダ州は去年の大統領選挙で共和党が過半数を取った、いわゆる「レッドステート」です。共和党の票田ともいわれるフロリダ北部は、アメリカでも最も保守層の多い地方だといわれています。
 しかし、南部の都市部には今ニューヨークなどから、暖かい土地で老後を送ろうと多くの人が移住をしてきています。
 
 そこに、マイアミなどの都市部に、カリブ諸国から新たな人々が流れ込みます。
 それを象徴的に表しているのが、このミュージックムーブメントなのです。彼らはアメリカにやってきた新参者だけではありません。何年も前からアメリカの都市部で活動を始め、その後マイアミのスペイン語コミュニティに移住してきた、れっきとしたアメリカの有権者も多く含まれています。
 今、共和党は、もともと地盤の強かったこうした地域への、他の都市部からの有権者の流入を最も警戒しているのです。
 
 テキサス州の都市部、そして今回は民主党を支持する「ブルーステート」となったジョージア州アリゾナ州は、そうしたアメリカの新しい傾向を象徴している事例なのです。
 よくアメリカが分断されているといいますが、このように、州の中に新たな人口が流入し、それが有権者の投票行動にまで影響を与え始めたことへの抵抗感も、人々の意識の分断に拍車をかけているといえるのです。
 
 国際情勢を見るとき、我々はとかく一つの地域で起きていることだけに注目しがちです。しかし、ここで触れたように、カリブ諸国で起こった政変や経済危機、そして自然災害などが、マイアミでの新しい音楽活動の遠因となっている事実に注目したいのです。
 
 もちろん、これは今に始まったことではありません。遠い昔に起きた民族移動による文化の伝播が、今ではより迅速に人々を駆り立て、世界のあちこちで新しい人の活動を生み出しているのです。
 そして、このことが、例えばアメリカ政治の勢力地図の上にも、大きな影響を与え始めているのです。
 

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