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アンドリュー元王子のスキャンダルが問いかけること

King Charles III’s family, long rocked by infighting and grievous losses, is facing what could be the gravest threat to its moral authority in more than a generation.

(チャールズ3世〔チャールズ国王〕と彼の王室は、長年にわたる王室内の内紛などに見舞われてきたが、今や王の世代を超えた最も深刻な道義的脅威に直面している)
― New York Times より

アンドリュー元王子の逮捕が突きつけた課題

 先週、イギリスでチャールズ国王の弟アンドリュー元王子(アンドリュー・マウントバッテン=ウィンザー/アンドルーと表記することもあります)が、アメリカの実業家であったジェフリー・エプスタイン元受刑者に国家機密をリークした疑惑で逮捕されました。容疑はかなり重罪となりえるものです。
 この一件は、イギリス王室の長い歴史の中でも際立ったスキャンダルとして、世界中の注目を集めることになりました。
 
 アンドリュー元王子は王位継承順位が第8位という地位にあり、その王子が著名人との人脈づくりのために、児童売春を行なっていたエプスタインと長年にわたって交流があったことは、何年も前から知られていました。
 実際に児童売春に関わったのではという疑惑も向けられていて、その疑惑を強く否定してきた経緯があるだけに、今回の逮捕劇は社会に大きな衝撃を与えたのです。事態は今後さらに大きな波紋を広げてゆくはずです。
 
 王子逮捕の直後、チャールズ3世は「王族といえども刑事訴追から逃れることはできず、今回の捜査には全面的に協力する」という旨の声明を、即座に発表しました。チャールズ国王が即位する以前、すでにエプスタインの誘いで児童売春に王子が関与していたのではという疑惑が浮上したとき、王室はその疑惑を否定し、当時の女王で王の母でもあるエリザベス2世がずっと沈黙を続けていたことも、チャールズ国王の心の中に重大な危機感を煽ったはずです。さらに今後、被害者との和解や隠蔽に王室がどのようにして資金を流したのかという税務上の疑惑への発展まで予想されています。
 
 実際、今回の逮捕劇はいくつかの課題を社会に突きつけました。
 まず、No one is above the law.(誰も法の上に立つことはできない)という法治国家の原則をイギリスが踏襲し、王族といえども捜査から逃れられないという実例を示したことからくる影響です。エプスタイン元受刑者が所有していた児童買春などに関わった要人のファイルが公表されたあと、アメリカでは現職の大統領を含む多くの著名人への疑惑が逮捕に進まないことに対する批判が、これで炎上する可能性があるのです。
 
 さらに、イギリス国内のみならず、日本も含めた皇室や王室をもつ国家での王族、皇族にどのような特権があるのかということに世論が注目していることも忘れてはなりません。
 

法治国家イギリスにおける王室の社会的な地位

 そこで、今回の逮捕劇の背景にあるイギリス王室の社会的な地位について考えてみたいのです。
 イギリスで王族が逮捕されたのは、1649年の清教徒革命の結果、チャールズ1世が逮捕され処刑されて以来のできごとです。1649年といえば江戸時代初期のことですから、今回のことが、いかにイギリスにとって大きな出来事か理解できると思います。
 
 ただ、チャールズ1世は逮捕されたとき、王は絶対であって裁かれるべきでないと主張しています。しかし、その主張の根拠となる法律や制度自体が革命によって破壊されたことが、王の処刑につながったのです。
 以来、イギリスは年月をかけて議会制民主主義の中で王や王室を敬いながらも、その権利は議会が制限できるという伝統を作り上げてきました。王位継承も議会の承認が必要とされるようになっていることも付け加えておきます。
 では、仮にチャールズ国王が罪を犯した場合はどうかというと、おそらく議会の圧力によって退位となり、新たな王へと王位が継承されるはずです。その上で犯罪の軽重による裁きへのプロセスがはじまるのではないかと思われます。
 
 とはいえ、今回のアンドリュー元王子の逮捕も、最初に王子への疑惑が浮上したのは10年以上前のことであることを考えると、彼を溺愛していたという当時のエリザベス女王の対応がどうだったのかという疑念が残ってしまうのです。議会と王室との間で、王やその一族の権利についての議論が、チャールズ1世の処刑から数百年経った今でも続いていることが、ここにあらわとなったことになります。
 
 実は、日本の天皇には戸籍はありませんが、イギリスの王は一個人として納税も率先して行なっています。
 2017年のことですが、エリザベス2世の資産が海外で運用されていたことが、王室への優遇措置ではないかと批判されたことがありました。このとき、エリザベス女王は捜査の対象となりかけたものの、その行為の違法性は排除されました。こうしたことは、イギリスの王室は日本とは全く異なった制度の中におかれ、社会の目や納税者である市民の王室に対する意識も、日本での皇室に対する意識とは微妙に異なることを物語っています。
 
 イギリスで王室の権利の制限が最初に議論されたのは、1215年のことでした。当時のイギリス王ジョンの暴政に貴族や教会が反発し、その権限を制限した文書への押印を迫り、それが実現したのです。有名なマグナ・カルタという大憲章によって、王の課税権などに大幅な制限が加えられたのです。
 その流れの中で、王が絶対的な権力を行使しようとすることへの抑制が次第に慣例化し、その後の王と議会との対立の長い歴史がはじまったのです。王を一人の人間として捉え、君臨することへの敬意を抱きながらも、人間としては No one is above the law. という枠内に人格をおくようになったのです。それだけに、一旦スキャンダルがおきれば、日本の皇族では考えられないような形で王室はマスコミや世間の目に晒されるわけです。
 

アメリカ大統領に付与される“法外な”特権

 こうしたイギリスの動きと比較すれば、アメリカの大統領の方がはるかに特権を享受しているように思えます。そもそも、アメリカはイギリスの圧政から独立した経緯があり、その後長い年月をかけて人権や多様性を尊重する社会を作ってきました。その過程では多くの血も流されました。
 しかし、ニクソン大統領が選挙での盗聴事件に関与していたことが発覚して辞任に追い込まれたときも、それ以上の刑事責任は追及されませんでした。大統領の特権には法的な裏付けはないものの、それはアメリカ社会の暗黙の常識となっています。その特権を現在トランプ大統領が強く打ち出していることで、「我々には王はいらない(No Kings)」という反政府運動が全米に拡大しているのです。
 
 今回のアンドリュー元王子の逮捕劇は、ジェフリー・エプスタインという富豪が行なった性犯罪に関する要人の逮捕劇の中でも、初めての「本格的な大物の逮捕」といっても差し支えありません。
 アメリカや他の国で、これを契機に No one is above the law. という民主主義の根幹となる概念が尊重される社会へと傾斜できるのかどうか。その道のりは簡単ではないようです。
 

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『Decoding Japan: From Akihabara to Zori』ジェームス・M・バーダマン (著)Decoding Japan: From Akihabara to Zori
ジェームス・M・バーダマン (著)
日本文化の“表層の奥”にある味わうべき魅力を英語で解読(=Decoding)! 年々増加する訪日外国人観光客。昨年2025年には過去最多を記録しました。日本を訪れる目的も従来の観光やショッピングに加え、歴史・伝統文化・食文化などの体験や、漫画・アニメなどの聖地巡礼など多様化しており、日本人にとっての「何気ない日本」への興味も高まっています。本書では、日本の文化・習慣、日常生活のさまざまな側面にある外国人を困惑させるものをピックアップし、英語でわかりやすく解説します! とかく不可解に思われがちな日本文化のさまざまな事柄の謎を解き明かし、外国人に日本を深く理解してもらうための一冊です!

 

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