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アメリカがイスラエルを支援する真相とは

United States is “winning decisively, devastatingly and without mercy” in its military campaign against Iran.

(アメリカはイランへの軍事作戦において、「断固として、徹底的に、容赦なく」勝利を収めている)
― へグセス国務長官のコメント より

アメリカによるイスラエル支援の背景に「福音派」の支持

 イランに対するアメリカとイスラエルの攻撃がはじまって、2週間が経過しました。世界中の世論をみれば、明らかにアメリカはイスラエルのために戦争をしているという声が多数派です。
 日本人の多くは、どうしてアメリカはそこまでイスラエルに肩入れするのだろうか、と思うでしょう。ユダヤ系の人々の財力や、彼らの陰謀論などをまことしやかに語る人もいるでしょう。しかし、それは事実無根で、危険な人種差別です。
 
 アメリカのイスラエル支援の真相は、そうした浅薄な見解より、はるかに深刻です。現トランプ政権を支持し、その支持母体となっているのは、実はアメリカに一億人はいるのではないかと推定される「福音派」と呼ばれるキリスト教の人々なのです。
 もちろん、福音派の全ての人がトランプ氏を支持しているわけではなく、福音派という具体的な宗教団体があるわけではありません。福音派とはキリスト、そして聖書の言葉を忠実に実行しようとするプロテスタントの人々で、そのカテゴリーにはさまざまな宗教団体が含まれています。
 

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 元々、アメリカという国家は、カトリックに迫害されたプロテスタントの人々が国づくりの主役となり、その後経済的に成長を続けるアメリカに、カトリックやユダヤ系を含め、さまざまな人々が移民として加わったことで成長しました。
 福音派の保守層は、このプロテスタントとしての原点に回帰したアメリカの姿を求めて、トランプ氏をサポートしているのです。
 
 そうした人々は地元の所属する教会で、子どもの頃から聖書の言葉を牧師から聞かされ、それを文字通り正しい世界の姿だと思っています。そして、その教えの中に、イスラエルの建国と繁栄はキリストの降臨につながり、世界の救済へと人々は導かれるという聖書の予言があり、それが今強調されているのです。
 彼らにとって、トランプ大統領は、その目的に向かって剣を持って戦う騎士であり、エプスタイン文書などのスキャンダルやモラルの問題を流布する人々は、その騎士を陥れようとする悪魔の集団だと考えているわけです。こうした人々が、トランプ政権の岩盤支持層となっていることで、トランプ大統領はイスラエルとの共同作戦を推し進めているのです。
 
 むしろアメリカに居住するユダヤ系の人々は、母国での迫害の経験もある人々の子孫で、政治的スタンスはリベラルな人が多いのです。
 それに対して、福音派の人々はイスラエルのネタニヤフ大統領の行動こそが、真のイスラエルの再興で、そこにキリストが降臨する土壌を作っていると主張します。つまり、現在のイスラエルの政権は、そうしたアメリカの福音派の世論をしっかりと掴んでトランプ大統領を動かすように工作しているといえましょう。
 
 この中で注目したいのが、イラン戦争を主導する国防長官のヘグセス氏が、福音派の右派「改革主義福音連盟」に属していることです。彼は、彼らからみてキリスト教に脅威を与えると思われるイスラム教などの宗教に寛容ではなく、トランプ大統領のイスラエルとの共闘を最も強く支持している人物といえます。
 彼らと、イスラエルのネタニヤフ首相を支援するユダヤ教右派の人々は、宗旨や宗教的な理念に相違はあるものの、イスラエルを偉大な大地として崇める基盤を作ろうという意味で共通した戦略を持っているのです。
 
 一方、トランプ政権を支える、バンス副大統領ルビオ国務長官は、カトリックに帰依する政治家です。実は、ローマ教皇は現在のアメリカの政策には批判的です。しかしバンス氏たちは、アメリカ第一主義はキリストの説く家族愛から産まれたものだと主張します。すなわち、家族愛の上に社会愛があり、その社会が帰属する国家への愛があると主張します。その上で福音派との協調は、アメリカ第一主義(アメリカ・ファースト)の政策履行の上で問題はないという妥協の姿勢をとっているのです。ただ、ローマ教皇があくまでも人類愛の重要性を主張しており、そこで生まれる不協和音はバンス副大統領たちにとっては極めて気になる現実なのです。
 

政教分離の原則と民主主義の秩序が壊されてゆく現実

 これは十字軍が勢いに乗っていた中世の物語ではありません。現在のアメリカ社会を分断する一つの巨大なグループの抱く考え方と、それにサポートされるトランプ政権の話なのです。
 問題は、こうした神学論のような論争が、実際のイランとの戦争や、アメリカ第一主義の政策に活用されていることです。これは、17世紀以降、ヨーロッパで迫害されたプロテスタントの移民が、アメリカを「神から与えられた土地」として意識していたこととも一直線でつながる考え方です。当然、当時と現在とでは社会の状況も世界情勢も大きく異なります。そこに、こうした意識に支えられたアメリカの政策が超大国の暴走という形で進められているところが、現在の国際情勢に混乱を招く原因となっているのです。
 
 これは、宗教と政治とが同じベクトルをもってアメリカ内外の政策を執行していることになります。政教分離の原則によって機能する民主主義のルールや、国際社会が築き上げたシステムが無視され、壊されてゆくことを意味しています。
 つまり、世界や我々の社会を守っている現代のガードレールが軋んでいるのです。これまでの記事でも何度か指摘した民主主義のガードレールである法の支配や、三権分立の原則などが無視されつつあるのです。
 実際に、アメリカでは他国と戦闘状態に入るには議会の承認が必要ですが、トランプ政権はその手続を踏んでいません。大統領が勝手に他国に関税をかけることを違憲であると最高裁判所が判断しても、彼はその決定を無視するかのように、いまだに関税を外交交渉の腕力として活用しています。
 
 日本はG7の中で、こうしたトランプ政権に対して危機感を表明していない唯一の国です。しかし、今のアメリカは日本のことは同盟国といいながらも、それは単なる道具として利用しているだけで、決して日本のことを真摯に考えてはいないはずです。アメリカの国益のためであれば、日本に対してもどんどん強硬な要求をしてくる可能性があるでしょう。そして、その行動の背景には、政教分離の原則に反した国家主義にも近い、保守的で閉鎖的なキリスト教の有権者がいるというのが、今のアメリカの現実なのです。
 

主要先進国の一つである日本も責任ある態度を示すべき

 宗教は個人の思想信条で、こうしたテーマに安易に触れるのは危険なことかもしれません。
 最後に、福音派の中にも、今のアメリカの方針に不満や失望感を抱いている人々が存在する事実もあるということを、ここに確認したいと思います。
 さらに、トランプ政権がこうした右派の強硬派とカトリックの閣僚との微妙な均衡の上に成り立っている政権で、決して政権内部が一枚岩ではないことも、押さえておきたいと思います。
 
 そして、ヨーロッパの世論が、アメリカが巨大になりすぎたことが問題だとして、これからはアメリカとは一線を画した超大国ではない主要先進国の連携がより必要になっていると考えている事実も、改めてお知らせします。日本もそんな主要先進国の一つならば、それなりの責任をもって、単にアメリカに追随する政策に終始する危険性を認識するべきでしょう。世界が超大国の暴走に否応なく引きずられ、戦争の渦中に飲み込まれないようにしたいものです。
 

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