ブログ

保守化傾向を止められない人類の宿命

Prime Minister Viktor Orban, who has inspired populist movements globally, could not overcome the growing dissatisfaction of his own citizens.

(世界的なポピュリズム現象の典型とされてきたオルバーン首相だが、国民の満足を得ることはできなかった)
― New York Times より

米以の強硬姿勢に揺れる世界と右傾化現象

 ハンガリーのトランプと評され、EUに懐疑的でウクライナ支援にも消極的だったオルバーン首相が、総選挙の結果敗北し、首相の座を追われることとなりました。
 ヨーロッパ主要国との対立が鮮明になっているトランプ大統領は、選挙にあたってバンス副大統領を派遣するなどオルバーン政権を支持しましたが、それが裏目に出たのかもしれません。
 一方、中東では、アメリカとの同盟の堅持を期待しているイスラエルのネタニヤフ首相が、イランとアメリカとの和平交渉の成り行きに不安を隠せません。
 トランプ政権の暴走とまでいわれる極端なアメリカの政策に晒され、世界中が目を覚ましたかのように、ポピュリズムや右傾化の流れに変化がおきました。
 
 そもそも、世界の右傾化という現象はどうしておきたのでしょうか。
 イスラエルが、ガザやレバノンへの執拗な攻撃を行い、パレスチナの占領地を強引に入植地に変えていこうとする政策が始まってから、すでに何年もが経過しています。
 こうしたイスラエルの強硬姿勢に世界は困惑します。しかし、困惑する世界の主要国でも足元での右傾化現象に社会が揺れていたのです。
 
 ロンドンの中心部、ハイドパークの北東角からパディントン駅の方向に伸びるエッジウェア・ロード(Edgware Road)を歩けば、道の両側に中東系の店舗が並んでいます。元はローマ時代の街道であったこの通りは、今ではリトル・カイロ、あるいはリトル・レバノンと呼ばれています。
 こうした中東からの移民がヨーロッパの伝統文化に融合してくることへの違和感が、ヨーロッパ各地での右傾化現象の一因ではないかともいわれています。この現象はエッジウェア・ロードだけのことではないのです。
 もちろん、トランプ大統領も、中南米からの移民の問題を麻薬や犯罪の温床としてスケープゴートにして、選挙を勝ち抜いたことは記憶に新しいはずです。
 

右傾化の波は都市と分断された地方から発生している

 しかし、巨視的にみれば、右傾化現象は、都市の多様化やその原因となっている移民の問題とは別のところでおきています。
 ヨーロッパやアメリカ、あるいは日本の場合を例にとっても、その大きな波は地方から発生しているのです。都市の多様化を見て、その波が地方へと波及するなかで、地方の人々がそれを堰き止めようとするかのように排他的な政策をとる政党への支持を鮮明にしているのです。
 こうした現象を分析すると、人類の宿命ともいえる一つの兆候をみることができます。まず、イスラエルの事例に目を向けましょう。
 
 イスラエルが右傾化し、周辺のアラブ諸国との対立を鮮明にし、自国の中でもユダヤ人を優先する政策を打ち出したのは、今世紀に入ってからのことです。
 実は、イスラエルの世論が右傾化した背景には、ユダヤ教の保守派の出生率が大きく関係しているのです。ユダヤ教の教義に忠実な人々は、他の宗教に対して排他的であり、かつ子どもを産むことを神から与えられた使命として、避妊にも消極的です。したがって、イスラエルの建国以来80年近くを経た現在、こうした保守的な家族の人口比が政治にまで影響を与えるようになっているのです。
 興味深いことに、若年層ほど保守化の傾向が強いといわれています。
 1990年代までは、リベラルな政党がイスラエルの民主化と、パレスチナ難民との共存を推し進めてきました。しかし、今世紀になって、そうした動きが鈍化し、今では自らの生存のためにも、イスラム世界との対決を支持する人々が多くなっているのです。
 
 では、他の国ではどうでしょうか。
 どこの国にも農村地帯があり、今ではそうした地域にも都市化の波が押し寄せています。こうした地域では元々、村社会の絆が強く、その絆の延長で政治的な選択も行なってきました。都市部の人々は海外とのつながりを持つ機会も多く、都市の競争社会の中でキャリア指向も強いため、必然的に出生率が下がります。しかし地方の場合は、より海外との絆は希薄で、競争原理も緩やかなため、周囲の人間関係に守られながら子育てもできることから、出生率も比較的高くなります。
 
 日本の場合、一人の女性が生涯に子どもを産む数は東京では0.9人で、少子化現象を牽引しているといっても過言ではありません。他の都市部でもその数は1.1から1.2となっているケースが多く、地方の1.4から1.5とは開きがでています。
 いずれにせよ、日本では少子化が進んでいるわけですが、人口比でいえば、地方の方が多産である事実には変わりがありません。
 この現象が国の保守化傾向へとつながり、日本社会の右傾化の原因の一つになっていると指摘されているのです。地方の方が海外との交流も限定的で、自らのコミュニティを維持しようとする意識が強いからです。
 
 同じ現象はアメリカでも見受けられ、都市部よりも地方の方が出生率が高くなっています。ただ、アメリカは移民の国であり、外部から流入する人々が新しい血となることで、極端な右傾化現象を抑えてきたのも事実です。
 しかし、そんなアメリカですら、地方の右傾化現象によってトランプ政権が誕生したのです。さらに、移民の中でも自らの既得権を守るために、後発の移民への排除意識が生まれることもあり、そうした人々はアメリカファーストのスローガンに好意的だったのです。
 このアメリカの右傾化とイスラエルの右傾化による政策の一致が、イランとの戦争の原因となりました。そして、日本では保守層が高市政権の支持母体となり、親米政権としてトランプ大統領との融和政策を進めているのです。
 

自国優先と移民排斥の流れを戦争へと導かないために

 人々の内向き指向による世論の形成が、こうした人口比によって支えられているとするならば、未来にわたって国家が自国優先の政策をとり、移民に対しても排他的になっていく現象がおこるはずです。これは人類の止めることのできない流れとなるのかもしれません。一見すると心地よく響く愛国心などといったナショナリズムが、世論の常識へと変化していくときに、それを後押しするポピュリズムによって政治の力関係にも影響を与えていくわけです。
 
 しかし、ヨーロッパでは、この強い流れへの脅威を感じた人々が、なんとか極右政権の誕生を阻んできました。EUに懐疑的で、ウクライナ戦争でもロシアに近づいていたハンガリーのオルバーン首相が、冒頭で解説したように、政策の転換を主張する政党ティサに敗北し、話題になったのです。
 背景には、オルバーン政権の汚職や、オルバーン政権と蜜月であったトランプ大統領の関税措置やイラン侵攻などに国民が懐疑的になったことがあったはずです。
 
 しかし、世界が不安定になり、保守層の人口が増える傾向は今後とも変わることはないはずです。この地方と都市との分断は、人類そのものの宿命ともいえる現象です。それだけに、この傾向が20世紀の世界大戦の悲劇へとつながらないようにするための知恵を、今後は模索していかなければならないのです。
 

* * *

『日英対訳 英語で話す中東情勢』山久瀬 洋二 (著)日英対訳 英語で話す中東情勢』山久瀬 洋二 (著)
さまざまな宗教・言語・民族が出会う世界の交差点・中東の課題を、日英対訳で学ぶ! 2023年10月に始まったハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃と、イスラエル軍によるガザ地区への激しい空爆と地上侵攻は世界に大きな衝撃を与えました。中東情勢の緊迫化は、国際社会の平和と安定、そして世界経済にも大きな影響を及ぼします。地理的にも遠く、ともすれば日本人には馴染みの薄い中東は、政治・宗教・歴史などが複雑に絡み合う地域です。本書では、3000年にわたる中東・パレスチナの歴史を概説し、過去、現在、そして未来へと続く課題を日英対訳で考察します。読み解くうえで重要なキーワードや関連語句の解説も充実!

 

山久瀬洋二からのお願い

いつも「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」をご購読いただき、誠にありがとうございます。

これまで多くの事件や事故などに潜む文化的背景や問題点から、今後の課題を解説してまいりました。内容につきまして、多くのご意見ご質問等を頂戴しておりますが、こうした活動が、より皆様のお役に立つためには、どんなことをしたら良いのかを常に模索しております。

21世紀に入って、25年が経過しました。社会の価値観は、SNSなどの進展によって、よりミニマムに、より複雑化し、ややもすると自分自身さえ見失いがちになってしまいます。

そこで、これまでの25年、そしてこれから22世紀までの75年を読者の皆様と考えていきたいと思い、インタラクティブな発信等ができないかと考えております。

「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」にて解説してほしい時事問題の「テーマ」や「知りたいこと」などがございましたら、ぜひご要望いただきたく、それに応える形で執筆してまいりたいと存じます。

皆様からのご意見、ご要望をお待ちしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

※ご要望はアンケートフォームまたはメール(yamakuseyoji@gmail.com)にてお寄せください。

 

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP