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アメリカ人が思い出すべき「オクラホマ・ランドラン(Oklahoma Land Run)」

“If you wake up and start working three hours earlier than others, it means you can live three hours longer than others”

(もし人より3時間早く起きて働けば、それは人より3時間長生きしたことになる)
― ダラスのレストランオウナーの言葉 より

「人より3時間多く働けば」

 ジェネレーションギャップという言葉はいつの時代にも存在します。
「朝、人より3時間早く起きて働けば、実質、毎日3時間、人より長く生きることになる。考えてもみろよ。10年もすれば、456日人、人より長生きした計算だ。その分働けば、どれだけ多く稼げると思う? 俺はイタリアからスイスのチューリッヒに渡って、その後ニューヨークのクラブで働いた。いつも、人より多くの時間をね。そして今は、ダラスにレストランを持っている。もう67になるが、こうして今でもスパゲッティを作っているよ。イタリア語に、チューリッヒで覚えたドイツ語、そしてここで覚えた英語ーみんな、働きながら身につけたのさ」
ダラスの高層ビル街を望む通りに、ひっそりと佇む昔ながらのイタリアンレストラン、「ベリーニ」。そのオーナーのロレンツォは、そう語りながら、ときおり息子のことで愚痴をこぼします。
「でも、息子はニューヨークの大学に行ってね。いい教育を受けてるよ。大学院も出ようとしている。それはそれで嬉しいことだ。でも、あいつはいい大学に行けば人生は十分に成功できると思っている。これがダメなんだ。大学じゃない。何かを自分でつくらない限り、人生はうまくいかない。成功したければ、資格に頼っちゃダメなんだ。でもね、あいつにはそれがわからない」
今、会社で成功したければ人よりたくさん働け、などと言えば、多くの人はそれをシニカルに受け止めるか、ときにはパワハラとして人事部に苦情を寄せるかもしれません。個人の生活と仕事のバランスが重んじられ、日本の組織でも、上下関係は以前に比べればフラットになっています。働く者の権利、そして人権を考えれば、それも当然のことでしょう。
しかし一方で、働きたい人は働けばいいし、頑張りたい人は頑張ればいい、それは個人が決める問題であって、組織が強要するものではない、という論理も当然成り立ちます。もちろん、上下関係などを悪用して組織が強要することは、確かに問題でしょう。個人の人生観と、組織の管理との間にある矛盾を解くには、なお工夫が要るのだと思います。

確かに、ロレンツォの息子への愚痴には一理ありそうです。実際、TOEICの点数に代表されるさまざまな評価があっても、それが海外で働く力に直結しているとは思えない、そう常々実感しているからです。自らの経験からも、海外で競争力を保てる人材を育てるには、語学の小手先を学ぶより、人間力そのものを育てる方がはるかに重要だと、はっきりいえます。
ダラスでの滞在は、教育関係の人との打ち合わせのためでした。ダラスに来る前は、そこから北に3時間ドライブしたオクラホマシティで、同じような商談をしていました。
オクラホマシティには、アリという、実に働き者の学校経営者がいます。今でも海外から語学を学びにやってくる人がいれば、早朝でも深夜でも空港へ迎えにいき、留学生が病気になれば病院に付き添う。文字通り一代で築き上げた学校で、24時間体制で働いています。アリはイランからの移民一世で、今年74歳。ロレンツォは、いうまでもなくイタリアからの移民一世です。

 

「ズルをする者」だったSooners

 オクラホマ大学には、「オクラホマ・スーナーズ(Oklahoma Sooners)」という、全米屈指のフットボールチームがあります。このSoonersとは、元々は「ズルをする者」という、相手を蔑む言葉でした。
その時代背景はトム・クルーズが主演した映画「遥かなる大地へ」にも描かれています。トム・クルーズ演じるアイルランド移民ジョセフが、土地を求めてランドラン(Land Run / 土地獲得レース) に挑む物語で、正式な合図を待たずにこっそり土地を掠め取る者たちの卑劣さも、そこに写しだわれています。
背景はこうです。1893年9月16日、辺境の開拓を奨励するため、アメリカ政府はオクラホマで一大イベントを実施しました。似たようなイベントはほかにもありましたが、この回には10万人が参加したといわれています。
開拓者たちが一列に並び、馬車でも徒歩でも、手段はなんでも構いません。銃声やラッパの合図とともに、人々がスタートラインから、いっせいに広大な大地へと走り出します。そして空いている土地を見つけ、そこに自分の杭を打ち込んで登記すれば、その土地は自分のものになる。「オクラホマ・ランドラン」と呼ばれるこのイベントで、多くの移民がオクラホマの土地を手に入れ、耕し、財産を築いたのです。
映画の主人公ジョセフも、その一人でした。アイルランドからはるばるやってきた、文字も読めない若者。もとはアイルランドの小作農でしたが、ボストンに渡り、働きながら賭けボクシングで相手を倒しては、オクラホマへ移る資金を貯めていきます。
人より3時間多く働けば夢が叶う、というのは、文字通りアメリカンドリームを成し遂げるための基本原則だったのです。移民一世のスピリットを、映画の中ではジョセフが、そして現実の世界ではアリやロレンツォが、語ってくれたことになります。
そして、その多くはすでにこの世を去るか、高齢になりました。今も現役で頑張る一世たちは、息子や孫の人生観への違和感を、愚痴として口にするのです。

移民が変えるアメリカ

 それはおそらく、日本で高度成長やバブル前夜を生きた人々が、今のz社会に抱く違和感と似ているかもしれません。
ただ、日本と違うのは、アメリカには、常にこうした移民一世の新しい血が流れ込んできたことです。彼らが、人より多く働き、成功しようと努力することで、社会が活性化し続けてきた一面があるのです。アメリカの成功は、移民なくしては語れません。
問題は、そうした移民を排斥しようと、さまざまな規制をかけ、すでに成功したアメリカ人の権益を新たな移民から守ることで人気を得ようとする指導者が、アメリカ社会を大きく変えつつあることです。もし、ロレンツォやアリが移民していた頃に、トランプ大統領が政権を握っていたら、彼らはそろって強制送還されていた可能性が高い。そもそもドナルド・トランプ大統領自身、父方の祖父母はドイツからの移民であり、母方はスコットランドからの移民です。厳密にいえば、大統領自身が、移民の二世であり三世でもあるのです。
「Sooners」という言葉は、もともとはオクラホマ・ランドランで、人よりこっそり先に走り出て土地を手に入れた卑怯者のことを指す言葉でした。それが、時とともに、開拓者精神を意味する言葉へと変わっていった。ちょうどそのように、移民に対する価値観もこの10年で大きく変わろうとしているのかもしれません。それをアメリカの将来への不安だと感じる人々が、11月の中間選挙でどのような判断を下すのかが注目されるところです。
最後に「Sooners」には別の意味もあります。オクラホマで土地を得ようと幌馬車を駆る人々が、「もっと早く、もっと早く」と掛け声をかけるとき、”Sooner! Sooner!”と叫んでいたことに由来する、という説です。むしろこちらの方が、ジェネレーションギャップを越えて今も受け継がれるアメリカ人の価値観に、まっすぐつながっているのかもしれません。

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