Each day we remember the victims, the families, and survivors dealing with loss, recognizing the lasting consequences of 9/11 on individual lives.
我々は、日々犠牲者や遺族、そして喪失感を抱き続ける生存者たちを思い、9/11が個々の人生に長く残す影響を、これからも忘れません。
―9/11 Museumより
テロが世界を一つにした頃
21世紀に起きている多くの混乱の原因を遡れば、2001年9月11日の同時多発テロ(9/11)に戻ってしまいます。
もちろん、さらにその原因を遡って、人類史上何度も起きたボタンの掛け違いがいつにはじまったのかを探究すれば、様々な源泉にいきつくでしょう。しかし、今世界中で起きている社会問題の直接の原因となった事件といえば、この一点に絞られます。
あれから、もうすぐ25年が過ぎようとしています。以前解説したジェネレーションZに属する人のほとんどには、この事件の実感も記憶もないでしょう。
しかし、イスラム教過激派によるアメリカを狙った同時多発テロで、3,000人以上の死者がでて、さらにワールドトレードセンターのツインタワーが瓦解したとき、確かに世界は大きく変わったのです。
今、アメリカ社会は深刻な分断現象に晒されているといわれています。アメリカ3大ネットワークの一つであるABCの記者は、同時多発テロが起きたとき、今のような分断はなく、むしろそのショックによってアメリカ社会が一つにまとまったことを述懐していました。無差別テロとの戦争を宣言した時のブッシュ政権の支持率が大きく上がり、当時の日本の小泉政権をはじめ、ヨーロッパ諸国もアメリカへの支持を表明しました。中国やロシアも今ほどの反米国家ではありませんでした。むしろ、ロシアなどは、アメリカとの協調路線の中で民主化が進みつつあったことを思いだします。

悪循環の始まり
しかし、アメリカが同時多発テロの民兵組織アルカイダを温存していたアフガニスタンへの攻撃をはじめ、タリバン政権を崩壊させ、さらにイラクのサダム・フセイン政権をも壊滅させたとき、現在につながる悪循環が始まりました。アメリカ国内では、イスラム過激派によるテロに呼応するかのように、燻っていたキリスト教右派が政治の表舞台に顔を出すようになりました。当時ネオコンと呼ばれていた強いアメリカを表明する人々が政界を跋扈するようになり、その反動として、従来からアメリカが追い求めてきた多様性と、移民への寛容な政策を推し進めるべきだという人々との間の溝が日々深まってゆきました。
一方、アメリカの砲火に晒された中東では、ISというさらに過激なイスラム至上主義集団が世界に移民として拡散していたイスラム教徒の過激派ともネットワークを組みながら、無政府状態になっていたイラクからシリアにかけて勢力を拡大し、国家の形成まで目論むようになりました。そんなとき、アメリカではアラスカや中西部などで、フラッキングという新たな技術による石油の掘削が進み、中東への石油の依存からの脱却が可能であるかのような風潮とともに、イスラム社会との距離が少しずつ広がろうとしていました。時のネオコンに支えられていたブッシュ政権への反動で発足したオバマ政権は、温暖化を抑止するためにも自動車産業での脱ガソリンの動きをサポートし、不安定になった中東とは適度に距離を保ちながら、左右に割れつつあったアメリカ社会の治癒を強く訴えながら、2期の政権を維持したのです。
妥協への失望が分断を深める
どんな社会でも、右派が中道と妥協すれば、それに失望する人々が極右へと走り、左派でも同様の現象が起こります。例えば、現在のイタリアのメローニ政権の様子を見ればそれがよくわかります。同政権はイタリアの伝統への回帰と移民への強硬姿勢によって支持を拡大して発足しました。しかし、EUとの協調の必要性から妥協を余儀なくされ、それに失望した人々が新たに誕生した極右運動に傾斜している現象が見受けられます。これと同様のことがアメリカでは10年以上前から起こっていたのです。
ネオコンにも人権に固執する民主党の政策にも失望した有権者が、それぞれより過激な磁石へと吸い寄せられたのです。これが分断をより深刻にしてゆきました。それまでの政治家は、どんな主張を持って当選しても、戦後に築かれた先進国での国際協調を維持し、民主主義のメカニズムを守るためにはそこに敷かれたガードレールだけは越えないようにしてきました。そのことで、経済的な混乱を抑止し、戦争への回避を保証できると信じていたからです。従って、政治的な妥協が必要なとき、プロの政治家集団は、そのガードレールを意識しながら、自らの主張とのあいだの隙間をうまく埋めて政策をマネージしてきたのです。
このプロの政治家への不満が臨界に達し、それを崩壊させようという意識が現在の社会の分断をより深いものにして、それが世界に蔓延するようになったわけです。もちろん、SNSなどの新たなメディアで本音を共有できるようになったことが、こうした民意のベクトルを加速させたことも事実です。分断を煽るポピュリズムを支えるIT技術の土台ができたことが、人々の意識に大きな変化を呼んだのです。
例えば、「アメリカはベネズエラの反米政権を打倒し、そこにあった石油の利権を奪い取った」といえば、中東への原油依存が下がるぶん、多くの人はイランとの戦争による石油供給の途絶を恐れず、対イラン戦争を支持する——トランプ政権はそう考えました。ベネズエラからアラスカに至る広大な地域に埋蔵される石油資源を手中に収め、仮に中間選挙で苦戦してもこれから2年の間に物価も安定させ、雇用が落ちなければ自らの主張を承継する政権へとバトンタッチができると期待します。であれば、カナダやグリーンランドをめぐる強硬な姿勢を維持して、国際協調のガードレールを破壊しても、岩盤支持層に見放されることなく、最後には自らの主張がより多くの人々に支持されると思っているのかもしれません。ですから、中間選挙に向けて通常の政治家なら妥協をするはずの様々な路線を、あえて一層極端に拡張するような行為で、民意に訴えようとしているのでしょう。

バトンを渡す世代へ
同時多発テロから25年。21世紀の4分の1が今、終わろうとしています。
かつて「戦争を知らない戦後世代」が語られたように、今、9/11を知らない世代が有権者になろうとしています。彼らがどのようなガードレールを求め、どのような妥協をよしとするのか。それを見通すのは難しく、これから起きる様々な事件やイベントを予測する未来学にでも依拠しなければならないのでしょうか。大切なことは、9/11、さらには過去の戦争体験などに代表される経験を語り継ぐこと、同時にバイアスなく様々な角度からの情報を共有するためのノウハウを模索することです。バトンを渡す世代もこの二つの行為について真剣に考えなければならないのではないでしょうか。
『日英対訳 世界の歴史[増補改訂版]
』
山久瀬 洋ニ(著者)、ジェームズ・M・バーダマン(翻訳者)
シンプルな英文で読みやすい! 世界史の決定版!
これまでの人類の歴史は、そこに起きる様々な事象がお互いに影響し合いながら、現代に至っています。そのことを深く認識できるように、本書は先史から現代までの時代・地域を横断しながら、歴史の出来事を立体的に捉えることが出来るよう工夫されています。世界が混迷する今こそ、しっかり理解しておきたい人類の歴史を、日英対訳の大ボリュームで綴ります。
・理解を深めるヒント(時代・地域・キーワード解説)付き。
・歴史用語をマスターできる日英インデックス完備
山久瀬洋二からのお願い
いつも「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」をご購読いただき、誠にありがとうございます。
これまで多くの事件や事故などに潜む文化的背景や問題点から、今後の課題を解説してまいりました。内容につきまして、多くのご意見ご質問等を頂戴しておりますが、こうした活動が、より皆様のお役に立つためには、どんなことをしたら良いのかを常に模索しております。
21世紀に入って、25年が経過しました。社会の価値観は、SNSなどの進展によって、よりミニマムに、より複雑化し、ややもすると自分自身さえ見失いがちになってしまいます。
そこで、これまでの25年、そしてこれから22世紀までの75年を読者の皆様と考えていきたいと思い、インタラクティブな発信等ができないかと考えております。
「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」にて解説してほしい時事問題の「テーマ」や「知りたいこと」などがございましたら、ぜひご要望いただきたく、それに応える形で執筆してまいりたいと存じます。
皆様からのご意見、ご要望をお待ちしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
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