ブログ

中間選挙の隠れた争点、そして日本の現状は

Microsoft Offers Buyouts to 60,000 Employees as It Spends on A.I.

マイクロソフトはAI開発のコストを補うために6万人に希望退職を提示

New York Timesより


アメリカの中間選挙直前というタイミングに、アメリカ社会に起きている一つの現象を解説しつつ、今後の日本の課題に目を向けてみたいと思います。

中間選挙を前にトランプ大統領の支持率の低下がよく報道されます。その理由はすでに何度も解説し、かつ報道もされているので、ここでは触れません。そこで、我々が気付きにくいもう一つの現象がアメリカ社会に浸透していることを解説したいと思います。

親元から自立できないアメリカの若者たち

それは、子供の両親への依存の問題です。親離れできないといっても、日本でいう引きこもりや社会への不適応による問題ではありません。自立したくてもできない苛立ちを抱えながら、親と生活をしなければならない現状が、アメリカ社会の不安要因として目立ち始めているのです。

背景にはよく言われる物価高が挙げられます。しかし、さらに大きな原因がその奥に潜んでいます。

マイクロソフト6万人の希望退職が示すもの

つい先週、マイクロソフトがAI関連の投資へのシフトによるコスト抑制のために、全従業員の4分の1に当たる6万人に希望退職を促していることが報道されました。世界を席巻する巨大企業で何が起きているのでしょうか。

マイクロソフトをはじめ、アメリカのAI関連の巨大企業は、次世代への投資のために、企業構造の再編を考えています。新たなデータセンターの開発や研究施設の刷新のために巨額のコストが必要なのです。そのコストが利益を上回るのではという予測が、最近AI関連の株価上昇のブレーキになっていることも周知の事実です。

このコスト調達の問題は二つの問題を含みます。一つはAIの巨大インフラによって社会構造そのものが変化することです。そしてもう一つが、それによって不要となる人々が膨大な失業者として社会に放出されることです。失業者となった個々人も、AIを使用しなければ生活ができません。言い換えれば、自らの職を奪った新たな産業構造の変化に、失業した人々も適応してゆかなければ生きる道がなくなるのです。例えばシステムエンジニアが今後どう職を得てゆくかを考えればよくわかります。プログラムがAIで簡単に作成でき、その検証までAIが行えば、一定数のシステムエンジニアは不要になります。

この現象が実際にアメリカで起きているのです。多くの若者が最先端と思われたITやコンピュータの世界で生活をしようと勉強を重ねてきました。そうした人材が、AIの思わぬ発展で仕事を失っているのです。同時に、さまざまな産業界で進んでいるAI技術の導入でロボット化等が促進されると、そこでも人々の雇用は必要なくなります。

加えて、アメリカ社会も例外なく物価高に悩まされています。すると、若者は物価高の中で職を失うという二重苦によって、親の家に避難せざるを得なくなるのです。自立への焦りが彼らを直撃しています。

AIの巨額投資に揺れる地域社会と政治

このAI産業のコストとプロフィットの関係を象徴するようなもう一つの出来事が注目されました。先月末、イーロン・マスクがAIのデータセンターを建設するにあたり、騒音公害を懸念する住民の広大な土地の買い占めを始めていると報道されたのです。場所は、アメリカ南部ミシシッピ州です。ここの住民は買い占めによって十分な補償はされるものの、住み慣れた土地を手放し、自らの農地や商店を最新鋭の発電施設のために明け渡すことになります。このデータセンターはスペースXの開発とも深く関係しているようですが、他の巨大企業も同様の課題を抱えているはずです。

AIの開発競争には、それほどまでに急激な資金調達が求められているのです。投資家がその結果を担保できないことで、この数週間株価は乱高下しています。しかも、共和党・民主党に関係なく、誰もこの現象に合理的な政策を打ち出せません。実は人類そのものが、答えを出せていないのです。これが、今回の中間選挙での有権者の迷いの原点といっても、差し支えありません。

AIの開発の加速に警鐘を鳴らしている人が指摘するのは、単にAIそのものが人類の将来にどのような影響を与えるかという技術的な課題だけではありません。ここに解説したような新たな社会問題が市民の生活や心理にどのような影響を与え、それが今後の政治にどう反映されるかという点も未知数だということなのです。

今、アメリカ社会ではこのようにAIによる失業や生活基盤の変化が着実に加速しています。その影響は地方都市に住む弁護士や税理士、銀行の職員、そして印刷屋やレストランの従業員に至るまで、文字通り社会の隅々に浸透しています。しかもこれらの事業者や被雇用者の仕事をサポートしていたプログラマーまで含め、多様な仕事が失われようとしているのです。

日本に欠けている危機感

ここで日本に目を向けましょう。日本のニュースはGMOなどで起こったサイバーアタックによる不安に集中しています。北朝鮮系ハッカー集団の関与も指摘されており、国家によるサイバー犯罪への対処が課題となっています。これは前述のAIそのもののテクノロジー上の危機を象徴した課題です。

しかし、それと同時に考えなければならないのが、ここに解説したアメリカで起きている社会構造そのものに対するインパクトへの対応です。

バブルが弾けて36年、日本は常に何かを先取りして物事を進めるというリスクを避けようとしてきました。そして、いまだに日本に残っている技術を磨くことで日本経済の再生を考えている人も多いと思います。問題なのは、そうした努力がもっと巨大な波に飲まれることへの危機感のなさと、それに対する受動的な対応です。

現在、自動車を製造しても、その中の機器はAIによって制御されネットワーク化されていることは以前にも触れました。自動車のような今までの主要な生産物が、これから産業ピラミッドの頂点ではなく、下層部分の部品の一つにすぎなくなるわけです。ネットワークの技術とインフラこそが、今後の経済に欠かせないベースとなるのです。日本でこれに寄与する人材育成が本気で行われているかというと疑問です。今なお、自動車などの機械をいじる専門家とそれを簡便化するIT技術者を目指す人が多いとすると、彼らは短期間で職を失う可能性があるのです。それは他の産業でも同様です。

100年のスパンで人材を育てる

実は、AI開発の歴史をみると、ヨーロッパでの数学者と哲学者とのコラボによる着想によってその基礎研究が始まったのは、なんと1920年代のことでした。AIは決して21世紀にお目見えしたのではなく、この100年の思考と技術の積み重ねと融合による化学変化で生まれたのです。

このスパンをみて、現在のトレンドのみに依存した教育に関する国家予算の配分や、偏ったAI信仰だけに注目する日本社会を見直し、理系や文系などといった古典的な発想を捨てて、時間をかけて才能を芽吹かせる仕組みを作らない限り、次世代の日本社会は大きなツケを支払うことになりそうです。

中間選挙の課題を表層的に報道するのではなく、ここで解説したような多角的な背景を見つめることからまず始めたいものです。

関連書籍

日英対訳 AIと生きる時代(アンドリュー・ロビンス 著/西海コエン 訳)

人類にとって脅威なのか希望なのか? 進化の一途をたどる「AI」の知識を学びながら、英文読解力を鍛える!

今日、人工知能(AI)はどこにでもあります。私たちの日常生活に大きな影響を及ぼすようになったその能力は驚異的なスピードで進歩しています。本書では、私たちの身の回りで活用されている「AI」の歴史や概念、そして未来について日英対訳でわかりやすく解説します。本記事で触れた、100年にわたるAI研究の歩みと、AIが社会や雇用に与える影響を考えるうえでも役立つ一冊です。

書籍詳細ページはこちら

山久瀬洋二からのお願い

いつも「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」をご購読いただき、誠にありがとうございます。

これまで多くの事件や事故などに潜む文化的背景や問題点から、今後の課題を解説してまいりました。内容につきまして、多くのご意見ご質問等を頂戴しておりますが、こうした活動が、より皆様のお役に立つためには、どんなことをしたら良いのかを常に模索しております。

21世紀に入って、25年が経過しました。社会の価値観は、SNSなどの進展によって、よりミニマムに、より複雑化し、ややもすると自分自身さえ見失いがちになってしまいます。

そこで、これまでの25年、そしてこれから22世紀までの75年を読者の皆様と考えていきたいと思い、インタラクティブな発信等ができないかと考えております。

「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」にて解説してほしい時事問題の「テーマ」や「知りたいこと」などがございましたら、ぜひご要望いただきたく、それに応える形で執筆してまいりたいと存じます。

皆様からのご意見、ご要望をお待ちしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

※ご要望はアンケートフォームまたはメール(yamakuseyoji@gmail.com)にてお寄せください。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP