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ナリウッドの女優が求める世界とのネットワークとは

Nollywood is another industry that seems to be passing Hollywood in terms of the amount of movies it produces a year.

(ナリウッドは年間映画制作本数において、ハリウッドを抜くもう一つの映画産業だ)
― StudioBinder より

世界第二位の映画大国・ナイジェリア出身の女優が語る

 我々が一生のうちに知ることのできる世界は限られています。
 私は仕事柄、海外への出張も多く、40ヵ国以上は訪問しているはずです。しかし、まだアフリカの多くの部分など、訪れたことのない場所は星の数ほどと言えましょう。
 
 昨日、そんなまだ訪れたことのない国、ナイジェリア出身のラハマ・サダウさんとZoomで話すことができました。アメリカのアトランタでの EduTech(教育関連のIT事業)への協力を依頼するのが目的でした。幸い打ち合わせの前に、インタビューにも応じてくれたので、ここではそれも紹介したいと思います。
 
 実は、ナイジェリアはアフリカの映画産業の中心地です。
 インドのムンバイが南アジアの映画のハブで、Hollywood(ハリウッド)になぞらえて Bollywood(ボリウッド)と呼ばれているように、ナイジェリアは Nollywood(ナリウッド、ノーリウッドとも発音します)の名前で世界の映画界に挑戦しているのです。
 
 ナイジェリア最大の産業都市ラゴスでは、セネガルカメルーンなどの隣国からも映画関係者が集まって、数多くのプロダクションが進行中です。実は制作数でいうと、世界第二位の規模となっています。年間の制作数はなんと2500本。ちなみに第一位はボリウッドで、本家本元のハリウッドはナイジェリアの次というのが現在の統計です。
 
 ハリウッドとは関係なく映画を作っている、とラハマは主張しています。しかし、ナイジェリアの映画産業がハリウッドの名前をもとに「ナリウッド」という名前で世界に知られるようになってきていることは事実です。
 ラゴスでは、ボリウッドのようなミュージカル風の映画ではなく、通常の娯楽映画を中心に制作しています。彼女の場合は、アラブ首長国連邦(UAE)などともコラボして制作を進めているのです。
 

発音や文法の正確さにとらわれず英語でアピールする重要性

 彼女と話をしてみて興味深いのは、アフリカ独特のアクセントはあるものの、英語が極めて流暢なことです。このことは、例えばアフリカの中央部にあるウガンダなどでも言えることで、今ウガンダはZoomによる英会話マーケットの新しい教師の供給源としても注目されています。ナイジェリアにしてもウガンダにしても、元々イギリスの植民地であったことが、こうした新たな英語を使ったマーケットへの成長につながっているのです。
 インドを例にとっても同様で、さらにはインドの南にあるスリランカもこうした英語マーケットへの新しい供給源です。60年から80年前に独立した旧イギリス領のネットワークが今、英語という共通の言語で世界に向けた発信を始めていることになります。
 
 ご存知のように、インドの英語は難解です。独特のアクセントや彼らならではの表現もあって、相手の言うことをしっかりと理解するにはそれなりの努力も必要です。これはナイジェリアなどでも言えることです。しかし、彼らはそれぞれの地域の英語の特徴を乗り越え、世界に向けて英語という共通の言語を使って人材の流通を促進させているのです。
 
 逆に、日本人も日本人ならではのアクセントや言い回しがあって、海外の人からすれば聞き取りにくいところもあるかもしれません。しかし、海外では一様にそうした障害を気にすることなくどんどん喋り、コミュニケーションをとってネットワークを構築します。
 それと比較すると、日本人はアメリカ英語にどれだけ自分を近づけるかということばかりを気にして、発音や文法の障害にとらわれすぎて、こうしたネットワーキングのチャンスを逸しているようにも思われるのです。日本の受験産業、受験英語の弊害が、そうした深刻な逸失利益を生み出しているのかもしれません。
 
 さて、ラハマはこの打ち合わせのあとドバイに飛び、そこで映画のプロダクションに携わります。そして、そのままアメリカに行き、アトランタで新しく創設されるメディアビジネスと関わりながら俳優として活動します。ナイジェリアに戻るのは数ヵ月先のことになるようです。
 彼女のネットワークはまだ大きくはありません。しかし、今後中東とアメリカの双方にエージェントを持ち、活動の舞台を広げてゆくわけです。
 
 実際、ナリウッドはアフリカへの映画の供給源として誕生しましたが、当初はその質もコンテンツも決して高いものではありませんでした。それが、1990年代の終わりごろに海外の映画界の目にとまり、その後ニューヨーク・タイムズなどでも紹介されました。次第に投資も集まり、映画産業として正式に成長を始めたのは今世紀に入ってからのことでした。
 その背景にはインターネットの定着によって、人々の繋がり方が大きく変化していることがあげられます。今、人材のリクルートは世界規模で、ラハマも俳優としてリクルートのチャンスを世界に向けてアピールしようとしているわけです。
 

終身雇用が崩壊する日本から世界市場を見据えた英語教育を

 それはちょうど20年以上前に野茂英雄ロサンゼルス・ドジャースと契約し、実質日本人として初めて本格的にアメリカの野球界で活躍をし始めた頃のことでした。そのとき、アメリカのプロ野球界は日本の人材に注目して、甲子園の高校野球大会にまでスカウトを派遣するようになったと言われています。
 
 アメリカのプロスポーツやショービジネスの世界では、このように世界で未来のスターを探すことは別に珍しいことではなかったはずです。通訳さえいれば、有能な人材に声をかけて交渉をすることはそれほど困難なことではなかったのです。
 
 ただ、今が当時と違うのは、インターネットでのネットワークによって、そうしたリクルートがアメリカだけではなく、世界中で、しかも双方向で行われていることなのです。
 そして、この双方向でのリクルートのチャンスをうまく掴むには、やはり英語が強い武器となっていることは否めません。ラハマの事例に見られるように、自らが進んで海外と交渉し、ネットワークしてゆくプロアクティブな活動が、これからもっと大切になるのです。
 
 さらに注目したいのは、こうしたリクルートのネットワークが映画界や野球界といったような特別な場所だけで行われているのではなく、ありとあらゆる産業の中に拡散している現実です。
 日本でも終身雇用という常識がすでに幻となりつつあります。大学を卒業して新卒で就職して、定年まで同じ会社で働くというライフプランそのものが陳腐化し、現実の経済活動にもそぐわなくなりつつあります。それだけに、こうした世界に拡散しているネットワークの存在を我々は今知るべきなのです。新しいビジネスを企画するときですら、海外の優秀な技術者などと交流し、お互いにリクルートしあうことも可能なのです。
 
 これからの就職や転職活動は、一つの国だけの閉ざされたマーケットでは機能しにくくなるでしょう。というのも、人口減少のカーブ以上に、AIなどによる職業の空洞化が予測されるからです。
 生きがいを考えず、食べるためだけに職を求めるなら、まだ求人はあるかもしれません。しかし、やりがいのある仕事という条件で考えたとき、十分な収入を得て、生活に不安を持たずに一生を維持してゆくための人材の供給が、実際の需要を上回ることが十分に考えられるからです。
 
 それには、冒頭に記した星の数ほどもある未知の世界に向けて自らを公開し、売り込んでゆく能力が求められます。
 これからの英語教育は、そうした世界のトレンドを見据えた人材開発と直結した教育であるべきなのかもしれません。
 

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Withコロナ時代、向かい風が吹き抜ける映画業界で前を向くラハマさんへのインタビュー動画は、こちらからご覧ください。
https://youtu.be/qkJiCCvSBxM
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