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文化や歴史への敬意の欠如がアフガンで払った大きな代償

“Few changes have been more popular, with city dwellers and villagers alike listening in numbers that have stunned the young crew running the program from a dusty studio in Kabul … for many Afghans the show’s freewheeling style is an emblem of the improvements that have come with the end of the Taliban.”

(街の雑踏、そして村に生きる人々の間に、カブールの砂塵の中で働く若き人々によって放送された番組はこれまでにない支持を受けてきた。そんなアフガニスタンののびのびとした変化が、今やタリバンの登場で終わろうとしている)
― New York Times より

中東情勢に詳しいジャーナリストとアフガニスタンを語る

 ワシーム・マアムード(Waseem Mahmood)氏は、ロンドンに住むイスラム系の著名なジャーナリストです。元BBCの記者も勤め、アフガニスタンでも様々な活動をしていた人で、彼の著書 Good Morning Afghanistan は欧米ではベストセラーにもなりました。
 私は今回のアフガニスタンの問題が起こった日から、彼とコンタクトをとって意見交換をしたかったのです。
 
 そんな彼とお互いになんとか時間を調整し、先週の土曜日にZoomで1時間にわたって意見交換をしました。
 今、彼はコロナウイルスと闘ったあと、後遺症を克服しながら少しずつ日常を取り戻しています。過酷な闘病のあとの倦怠感、ときどきやって来る喘息のような咳や記憶障害がまだ彼を見舞っています。そうした中でなんとか時間を作って、咳き込みながらも私と話をしてくれたワシームにはとても感謝しています。
 
 今ワシームは、アフガニスタンに残された仲間のことを思い、悩んでいます。

突然タリバンが勢力を拡大し、退去する時間も限られていたからね。多くの人が向こうに残っている。今、そんな我々と働いていたアフガニスタンの友人とコンタクトをとって、なんとか救い出そうと方法を模索している」

と彼は語ります。

「実はね、先週の月曜日に連絡をとったところ、大丈夫だ、タリバンは特に何もせず平穏だと言っていたが、翌日連絡をとったら、あのあとタリバンの兵士が来て尋問され、銃口を向けられたと言っている。ネットでの通信もモニターされているので、長くは連絡がとれず、ともかく心配だよ」
 
 ワシームは、20年前にアフガニスタンに新しい政権ができたとき、現地で初めての、検閲を受けず自由に意見を言えるラジオ放送局を開設しました。その放送局の名前が「Good Morning Afghanistan」です。ラジオの呼びかけに、アフガニスタン各地に住む多くの人々が反応しました。顔を出して外を歩くことができ、教育を受けられるようになった女性の喜びの声、宗教裁判の恐怖から解放された人の安堵など、様々な声が寄せられたのです。
 
「しかし、今は、あのラジオに出演してタリバンを批判した人々が、逆にそれを証拠にとられて命の危機に見舞われているかもしれない。まだ、イギリスもどの国も、さらなる人々の救出に次の手を打てずにいる。ただ祈るだけだよ。特に我々と働いていた仲間の状況はさらに厳しいかもしれない。ともかくタリバンは昔のタリバンとは違うと言うけど、それがどこまで正しいかも、多様な出身の兵士たちを彼らがどこまでしっかりと統制できているかもわからない」
 

問題の根本にある西欧文明の押しつけと摩擦

 彼の声は鎮痛です。そして、我々はどうしてこのような事態になったのだろうという、最も本質的な課題について意見交換をしました。

「私に言わせれば、アメリカをはじめ欧米の国々が、もっと最初からアフガニスタンの人々の声を聞き、そこの文化を理解して学ぶことから対応を始めるべきだった。部族社会に基盤を置くアフガニスタンや中東の国々に、いきなり西欧の民主主義をユニフォームのように持ち込んでも、それは単に文化の押しつけに過ぎない」
 
 ワシームの言葉には重みがあります。彼はイラクの情勢にも詳しいのです。

「バグダッドで新しい政権が生まれ、しばらくすると、サダム・フセインに戻ってきて欲しいという声があちこちから聞こえてきたことを知っている人は少ないよね。西側にはそんな声はほとんど届かない。アフガニスタンも同様だ。西欧が自らの歴史の中で培った民主主義や制度を他の文化にはめ込もうとしても、それは摩擦や反発、さらには腐敗が生まれ、そこに新しい特権階級を生み出すだけ。このことを我々はもっと学ぶべきだよ」
 
 私は、その言葉に頷きます。多くの国の人は、その国の抱く社会の矛盾や苦しみを知っています。しかし、そのことを他国が指摘し、そこに行って正そうとすると、それは屈辱を生み、新たなナショナリズムの萌芽となります。しかも、新しい制度を消化できない政権は腐敗し、社会に様々な格差を生み出します。それに反発した人々によって国家が内部から崩壊するのです。
 ですから、そうした現実に失望し、反発したアフガニスタンの人々をタリバンが取り込み、彼らから提供されたアメリカの武器がタリバンを強くしていったのです。

「確かに、イスラム過激派の政権下で起きた様々な残虐行為は許せないし、悲しいことだ。しかし、この事実があるからといって、我々は我々のやり方であなた方を助けに来たのだから従いなさい、という行動を正当化してはいけない。西欧諸国とアラブ社会の長い歴史のねじれは一朝一夕には解決しない」
 

アラブ人に向けられるステレオタイプと欠如した敬意

 彼と話をしているうちに、私はふとアメリカで見た映画を思い出しました。その映画に出てくる、同じようなダークスーツを着て、同じように揃ってお辞儀をする日本人のビジネスマンの滑稽な姿を見て、苦笑した経験があります。
 このステレオタイプがアメリカには根強くあったと私が語ったとき、ワシームは即座に、いかにアラブ系の人々がどのようにメディアに扱われているかを語ってくれました。
 
「考えてごらん。アラブには第二次世界大戦で連合軍のために英雄として活躍した女性兵士だっていたんだけどね。映画に出てくるアラブ人といえば、大抵テロリストだろ。何かイスラム教徒は狂信的で、悪い奴らだという印象を与えてしまう。そんなふうに感じている人は多いんじゃないかな。私はそうした意味で、日本は素晴らしいと思うね。うまくアジアの文化を維持しながら西欧の文化と融合させ成功している。いつか訪ねてみたいよ」
 
 このワシームの言葉に、ワシーム自身も少し日本のことを誤解しているなと苦笑はするものの、彼の相手の文化に対する尊敬の念には率直に頭が下がります。
 確かに、産業革命以来の数百年にわたり、欧米社会が他の社会へアグレッシブに進出したとき、欧米の人は他の文化への敬意をあまり持ち合わせてはいませんでした。彼らが自らの制度を、進んだ文明によって生み出された優位なものと勘違いしてきたことは事実でしょう。
 それはいち早く西欧化に成功した日本による海外への過去の対応、さらには現在の世論の中にも残っている課題にも共通しているかもしれません。我々も反省しなければならない意識なのかもしれないのです。
 
 ワシームとは、これから週に一度、意見交換をしようということになりました。また、こうした意識をもつジャーナリストを集めて、いつか会合を開こうと話し合っています。
 彼とのインタビューの記録はいずれ編集し、公開します。ただ、その中でアフガニスタンに残る方々の人命に関わる部分は、彼らの安全のためにも編集しなければならないことだけは、事前にお伝えしておきます。
 

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『日英対訳 世界の歴史
A History of the World: From the Ancient Past to the Present』山久瀬 洋二 (著)、ジェームス・M・バーダマン (訳)日英対訳 世界の歴史
A History of the World: From the Ancient Past to the Present

山久瀬 洋二 (著)、 ジェームス・M・バーダマン (翻訳)
受験のためではない、現在を生きる私たちが読むべき人類の物語
これまでの人類の歴史は、そこに起きる様々な事象がお互いに影響し合いながら、現代に至っています。そのことを深く認識できるように、本書は、先史から現代までの時代・地域を横断しながら、歴史の出来事を立体的に捉えることが出来るように工夫されています。 世界が混迷する今こそ、しっかり理解しておきたい人類の歴史を、日英対訳の大ボリュームで綴ります。

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