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バイデン政権の不人気がもたらすアメリカリベラル層が抱く脅威

The administration has gotten much right, but its response has been hampered by confusing messaging, a lack of focus on testing, fear of political blowback and the coronavirus’s unpredictability.

(政権の方針が間違っていたわけではないが、混乱したメッセージの発信、検査体制へのフォーカスの欠如、政治的な反撃への脅威、そしてコロナウイルスそのものの予測が困難なこともあり、その対応が妨げられてしまっている)
― New York Times より

バイデン政権の不人気と高まるトランプ再来への懸念

 今、バイデン大統領の支持率が落ちていることに、民主党支持者の間では懸念が広がっています。
 表題のように、最も期待されていたコロナ対策を実行するにあたって、しっかりとしたメッセージを国民に伝えられなかったこと。さらには、アフガニスタンからの撤収における混乱など、様々な局面でバイデン大統領のリーダーシップが問われています。年齢の問題もさることながら、国民への強いアピールがないことに、多くの有権者が落胆しているのです。
 加えて、アメリカ初の女性・移民二世の副大統領として期待されていた、カマラ・ハリス氏の影が薄いのも気になります。元々、副大統領は大統領の影のような存在ではあるものの、メディアへの露出も少なく、インパクトに欠けるのです。
 アメリカの大統領選挙は、土壇場になるまで軍配がどちらに上がるかわからないとはいえ、現政権への不人気が再びトランプ氏の復活、あるいは彼と同じような強烈な個性を持った右寄りの政治家の登場に繋がるのではないかと危惧しているのです。
 
 バイデン大統領のスタイルを見るとき思い出すのが、ジミー・カーター元大統領です。カーター氏が大統領の時に発生した、イラン革命下のアメリカ大使館占拠事件での対応が思うようにいかず、その結果2期目を目指す大統領選挙でロナルド・レーガン氏に敗北したのです。
 カーター元大統領は南部の訛りがあり、どちらかというと明快なメッセージを国民に伝えることが苦手でした。アメリカという巨大で複雑な国家のリーダーになるには、単純で人々の心に響くスピーチが求められます。カーター元大統領の対抗馬となったレーガン氏は、役者の経歴もあり、そうしたスピーチの戦略をよく心得ていたのです。
 バイデン大統領のスタイルがカーター氏と似ていることで、それとは対照的なトランプ前大統領の評価が相対的に浮上してくるわけです。
 
 アメリカは分断されているとよく言われます。トランプ氏を支持する人々は移民の流入が自らの職を奪い、多様性の尊重や人種間の融合がアメリカの伝統的な価値観を毀損していると主張します。
 それに対して、アメリカの右傾化を危惧する人々は、なんとかトランプ氏の復活を阻止しようと必死です。まず、前回の大統領選挙の後に起こった連邦議会議事堂乱入事件をトランプ氏が扇動したのではないかという嫌疑をかけ、法的な責任を追求しています。また、ニューヨーク州でのトランプ氏の脱税疑惑にもスポットを当てています。
 大統領選挙というある種のお祭り騒ぎのなかで、人々が興奮状態になったのが前回の選挙の特徴でした。コロナウイルス蔓延の回避のために郵送投票を行ったことで選挙に不正があったと、議事堂に乱入した暴徒は主張しました。双方が互いの意見の相違を越えて、怒りにまかせた法的手段のみならず暴力にすら訴えるような糾弾合戦が続いてきたのです。
 こうした状況がアメリカ全土で燻りながら、次回の大統領選挙を迎え、再び発火することが、最も危惧されることだと言えましょう。
 

内政の混乱によって翳りが見えるアメリカの影響力

 アメリカの内政の混乱は、国際社会でのパワーバランスにも影響を与えます。ウクライナ問題台湾と中国との緊張など、バイデン政権が抱える外交問題は複雑です。アフガニスタンからの撤収以来、ともすればアメリカは国際的なパワーバランスのなかで守勢に立たされています。
 ベトナム戦争で深く傷つき、ウォーターゲート事件大統領が盗聴事件に関わったとして大統領の威信にまで傷がついた、どん底のアメリカを背負って大統領になったジミー・カーター氏の状況と似ています。当時、アメリカは第二次世界大戦の惨禍から復興し、経済成長を遂げてきたヨーロッパや日本を前に、相対的に経済力に翳りが出てきていました。
 
 では、現在はどうでしょう。ロシアがソ連崩壊後の混乱から立ち直り、文化大革命から苦悶を続けてきた中国が驚異的な経済大国に成長しました。これによって、アメリカの影響力にやはり翳りが見えているはずです。バイデン政権が取り組まなければならない外交問題は、すでにアメリカ一国の力だけでどうこうできるものではなくなっています。それだけに、アメリカは日本やヨーロッパ主要国との連携や経済的負担の共有に力を入れているわけです。
 さらに、アメリカの世論が分断されているということは、すなわちアメリカ人のほとんどがアメリカの国内問題に目を向けていることを意味します。アメリカ社会全体が内向き志向になっているのです。内向き志向になっているアメリカが外交問題に翻弄されているというアメリカの宿命のなかで、バイデン政権は苦悶しているというわけです。
 

11月の中間選挙をめぐって錯綜する人々の思惑

 今年の11月にアメリカでは中間選挙が行われます。上院議員の3分の1と下院議員の改選が行われ、多くの州知事の選挙も実施されます。
 そもそも中間選挙は、どの大統領にとっても頭の痛い選挙です。特に1期目の大統領にとっては、政策がまだ実を結ぶ前に実施されるため、政策批判の選挙となりがちだからです。今回この選挙で共和党が勝てば、バイデン大統領は議会との協調が難しくなり、政策を実行しにくくなります。より一層求心力が落ちてしまうのです。
 
 アメリカの東西両海岸の都市部は、元々海外との交流も活発で、移民政策にも寛容なリベラル派の人々が多く住む地域です。彼らは現在のこうした状況に深刻な危機感を抱いています。
年齢的な課題もあるため、おそらくバイデン大統領は2期目には立候補しないでしょう。そうなれば、民主党としてはより強いリーダーシップを発揮できる大統領候補が必要になります。トランプ氏、あるいは彼に代わる人物が大統領になれば、再びアメリカの政策は内政も外交も大きく変化します。なんとかこの難局を打開しなければ、アメリカそのものの存在意義がなくなってしまうと、リベラル派の人々は思うのです。
 
 これからも、分断による双方への攻撃には拍車がかかるでしょう。様々な戦略でバイデン大統領以降の政局をどうするか、すでにアメリカでは2年後の大統領選挙に向けて、いろいろな思惑が錯綜し始めているのです。
 

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浅見 ベートーベン (著)
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